上 下
63 / 98
甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

教えてほしい

しおりを挟む


 いつならマーコット様と話ができるかしら?

「サフィニア様とマーコット様は、明日も登城なさるのですか?」
「ええ、ラッドレン殿下とタジェロン様と約束があるので、午前中に伺います」

 マーコット様に話を聞きたい、でも明日の午前中は確か外国語のレッスンが入っていたはず。
 そしてそのまま先生と昼食をご一緒する予定だったと思う。
 私の勝手な都合で変更するわけにはいかない。

「明後日のご予定は……?」
「確か……明日と同じ時間に、登城する予定です」
「その後のマーコット様のご予定を、サフィニア様はご存知ですか?」
「マーコットは殿下との話が済み次第、商談のためフォトウェル商会へ向かう事になっていたかと」
「そうですか……」

 話を聞くための時間をわざわざとってもらうために、マーコット様との約束を取り付けるのは難しそう。

 そろそろ行かないと、と言うサフィニア様を建物の所まで送り、ベルマリーと散歩をしながら考える。

 明後日……
 寝室の窓から見ていれば殿下と会った後のマーコット様が下を通るはずだから。
 姿を見かけたら上から声をかけて、すぐに下へおりて。
 そうすればほんの少しだけでも話をする事ができるのではないかしら。
 そうだわ、馬車も用意しておけば、マーコット様をフォトウェル商会へ送りながら話ができる。

 ベルマリーにお願いして、明後日の馬車の手配をしてもらった。
 その後は夕食まで、マントの刺繍の続き。
 とても大きなマントだったけれど、夕食までになんとか仕上げる事ができた。

 今日はまだ殿下と会う事が許されていないから、自室で一人きりの夕食。

「さて、と。今日のミーネ様の体調について、タジェロン様へ報告することになっているのでちょっと行ってきますね」

 ベルマリーの言葉に、ハッと気がついた。
 宰相人事の件……タジェロン様は私が当日その場で知るのは余りにも酷だからと考えて教えてくれたのかと思ったけれど、やはり違うのでは。
 殿下の視察に毎回同行なさっていたタジェロン様だもの、不正の件で私へ暗に何かを伝えたかったのかもしれない。 

 手紙を書こう、タジェロン様に。
 アールガード領で調べていた事と父との関係について、真実を教えてほしいと。
 急いで手紙を書いて、タジェロン様の元へ向かうベルマリーに託す。

 次の日、タジェロン様から私の手紙の内容に対する返事は無かった。
 ただ、熱が出たと思われた日から丸五日が経過したため、翌日からであれば殿下と会っても大丈夫だとベルマリー経由でタジェロン様の伝言を受けとる。

 タジェロン様に手紙を書いてから二日後、宰相会議の前日。
 殿下と久しぶりに一緒の朝食をとる。
 朝食後は手をつないで庭園を散歩した。

 散歩をしながら、会えなかった間に刺繍が上達したと思いますよ、と殿下に報告する。
 こんな風に何でもない会話が、すごく嬉しい。
 殿下との幸せな時間を噛みしめて過ごす。

 散歩を終えると殿下は執務へと向かった。
 おそらくマーコット様と会うために。

 その間に私はクッキーを焼く。
 甘党でクッキーが大好きなマーコット様に声をかけるきっかけにしたくて。

 プレゼント用に可愛いリボンをつけたクッキーの袋を片手に、寝室の出窓に飾られた観葉植物のすぐ横に空いている方の手をついて下を眺め、マーコット様が通るのを待つ。

 すると後ろの方でガチャリ、と寝室のドアの開く音が聞こえた。





しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...