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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)

王立ギフティラ学院

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「ギフティラ学院は厳しかったけれど楽しかったですねぇ……。私をミーネ様付きの侍女にしてくださったうえ、勉強のために必要な時間まで認めてくださり旦那様には感謝してもしきれません」

 ベルマリーが旦那様と呼んでいるのはケンバート公爵家当主のことであり、私の父のことでもある。
 父は昔からの友人だったクルース男爵が十年前に事故で亡くなった際に、クルース男爵の娘のベルマリーを私の話し相手兼侍女としてこの家に引き取った。

「ベルマリーが勉強好きなのは父も知っていたから。それに私もベルマリーが一緒に勉強してくれて心強かったわ」

 18歳まで誰でも通える王立学園とは違い、学園の卒業生が任意で進学する一年制の王立ギフティラ学院は入学試験が非常に難しく入るのが大変だと言われている。

 でも実は、入ってからの方が本当に過酷。
 学院での学習内容はかなり高度で、さらに卒業試験はその場で試験官から与えられた難問に対して即座に口頭で答えなければならない厳しいものだった。

「でも……ベルマリーはよかったの? せっかくギフティラ学院を卒業したのに、卒業と同時に殿下と結婚した私の侍女として城へ来ることになってしまって」
「もちろんですよ。ミーネ様と一緒にいると楽しいですし、刺繍などの趣味も活かせるなんて、ミーネ様付きの侍女は私にとって天職ですから」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいわ。だけどあんなに勉強したのに、もったいないと思わない?」

 ギフティラ学院は、無事に卒業できれば国の重職に就けるなど輝かしい将来が約束されている。

 学院へ通うために必要な1年間の学費は全額免除、試験に受かれば身分に関係なく誰でも入学することが可能、と希望者には平等に門戸が開かれていた。
 卒業試験に合格できない場合は留年になり、学費も必要になってしまうけれど。

 昔は高位貴族のための学院だったらしい。
 フレイツファルジュ王国の『文科』部門を第二宰相であるケンバート公爵……私の父が担当するようになり、少しずつ改革していったと聞いている。

「思いませんよ。勉強を通してミーネ様と仲良くなれましたし、勉強をがんばっていたおかげで、卒業した後もまた会いたいと思えるような友人に学院で出会えたのですから」
「ベルマリーの考え方、素敵だわ。本当に、ベルマリーが一緒にいてくれてよかった」
「ふふ、そう言ってもらえて私の方こそ嬉しいです。……でも私たちがあと数年遅く生まれていたら、一緒に学院へ通うことはできなかったかもしれませんね」
「そうね……」

 現在、国の『文科』部門を担当しているキラエイ公爵は、ギフティラ学院を昔のように高位貴族のみが通える学院に戻す方針らしい。
 私が卒業した直後に、父は第三宰相のキラエイ公爵と担当部門が変更され、現在は『武科』部門を担当している。

 ……父の担当が変わったのは、卒業試験で私が首位をとってしまったせいで、ちょっとした黒い噂が流れてしまった事も影響しているのかもしれない。

 私が首位の成績を取れたのは、卒業試験の時だけ。
 普段はラッドレン殿下とタジェロン様が、いつも一位と二位を争っていた。
 三位の座は、他の生徒会メンバー五人のうちの誰か、という感じ。

 ギフティラ学院で、ラッドレン殿下、タジェロン様、マーコット様とネイブル、そしてサフィニア様とベルマリーと私の七人は、生徒会のメンバーであると同時に友人でライバルで。

 学院での勉強は大変だったけど、生徒会主催の行事も全力で楽しむ事ができて、楽しかった……。

「あ、そうそうミーネ様、ついさっき月のモノが始まったでしょう? 経血で汚れた物が他の者の目に触れないよう気をつけてくださいね。あ、あと夕食の甘いデザートは気分が悪いからと言って残して、代わりにグレープフルーツを食べたいと望んでください」
「え、グレープフルーツ? どうして?」

 私、グレープフルーツは、すっぱくて苦手……
 その事はベルマリーも知っているはずだけど……?

「妊娠したら食べ物の好みが変わることはよくある事ですよ」

 ぅ……グレープフルーツ、がんばって食べるわ……。

 ベルマリーに相談した日から毎日、せっせと妊娠したフリをした。
 大好きな甘いデザートも、気持ち悪い吐き気がすると言って食べずに我慢して。
 すっぱくて少し苦手だった柑橘を、食べたいとわざわざお願いをする。

 経血で汚れた下着類は、ベルマリーにも協力してもらって人目につかないようにした。
 時には夫婦の寝室横にある浴室で、汚れた下着をこっそり自分で洗った事もある。

 殿下が辺境へ視察に出発してから間もなく半月。
 努力の甲斐あって、妊娠の噂が囁かれ始めた。

 明日はいよいよ、ラッドレン殿下がお戻りになる日。

 戻られたら、殿下にお伝えしよう。

 私が妊娠したと皆が信じているうちに、特例の適用を申請して側室を迎えてください、と。

 そう考えたら、ツキンッと胸が痛んだ。
 私ではない女性の隣で、微笑む殿下の姿が頭に浮かんでしまったから。
 少し、切なくなってしまって……。

 ブンブンと首を横に振る。
 自分の事よりも、殿下の幸せを考えないと。



 ――無事に殿下が側室を迎えたら、折を見て妊娠は残念な結果になったと噂を広めよう。



 そう思っていた。
 それなのに――。





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