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甘く淫らなラブロマンスの長編版(※短編の続きではありません)
侍女のベルマリー
しおりを挟む「ええっ、妊娠の『フリ』ですか!?」
私の部屋で侍女のベルマリーが、目を大きく見開いている。
先ほど王家の掟を学んでいた時に考えた計画をベルマリーに相談したら、かなり驚かれてしまった。
皆に私が妊娠したと思わせるため、妊娠したフリをするという計画を。
「しーっ、誰にも言わないで。頼れるのはベルマリーしかいないの。お願い、協力して」
「ハァ……殿下とミーネ様の間にそういった行為が一切ないのを隠しているうえに、まさか今度は妊娠のフリとは……」
「ぅ……ベルマリーには、本当に申し訳なく思っております……。これには色々と、事情がありまして……」
ゴニョゴニョと口ごもりながら、妊娠したと皆が勘違いしてくれれば側室の問題が無くなるから……と伝えた。
私がラッドレン殿下のことを好きすぎる事、はっきりとベルマリーに伝えたことは無いけれど、言わなくてもお見通しだと思うのでなんだか気恥ずかしくて口ごもってしまう。
あと二年という長い時間が経たないと側室を迎えられない問題を、殿下のためにすぐ解消してあげたいという私の気持ち、きっと伝わったよね。
「まぁ、ミーネ様がそうおっしゃるなら、わかりました、協力します。でも皆が妊娠したと信じてくれるか分かりませんよ。今まで通り他の者が最初に触れぬよう寝具やお召し物の片付けをしたり、噂に対して否定も肯定もせずに曖昧に微笑む、くらいしか私にはできませんからね」
冷静さを取り戻したベルマリーは、口を動かしつついつも通り手際よくテーブルクロスを新しいものに交換していく。
「ええ、積極的に嘘をつく必要はないわ」
ベルマリーが罪に問われるような事をさせるわけにいかないもの。
私と同い年なのに、しっかりしていて何でもできるベルマリー。
今交換してくれている私たち夫婦の部屋やラッドレン殿下の執務室のテーブルにかかっているおしゃれなクロスはベルマリーが刺繍してくれた物。
殿下も私もすごく気に入っている。
丈が床につきそうなくらい長めのテーブルクロスだから、少しくらい足元が行儀悪くても気にならない点も私に合っていた。
もしかしたらベルマリーはその点もよく分かっていて、部屋にいる時くらい寛いで座れるように大きめのテーブルクロスを用意してくれているのかもしれない。
「突然こんな事をおっしゃるなんて、昨日の夜会で、何かあったんですか?」
う、さすがベルマリー、するどいわ。
でもまさか、好きだから我慢できない、と愛を告げながら致していたどなたかの濃厚なラブシーンを覗いてしまったなんて言えない。
「別に何も無いわよ。そうそう、みんなもベルマリーに会いたがっていたわ」
そう言ってから、この話題はあまり良くなかったかもしれないと気がついた。
昨日の夜会に、ベルマリーは招待されていない。
私たちと同じ学園で同級生だったにもかかわらず。
昨日キラエイ公爵邸で行われた夜会は、思い返してみると伯爵位以上の家のご子息ご令嬢しか参加していなかった。
キラエイ公爵は身分を重んじる方だから、色々と政治的な理由もあるのかもしれない。
ベルマリーの家の爵位は男爵。
キラエイ公爵が息子の友人を身分で線引きしていたのだとすれば、なんだかやるせなく思ってしまう。
招待できる人数の都合上、キラエイ公爵もどこかで線引きをしなければならなかったのはわかるけれど。
ふふ、とベルマリーが悪戯っぽい表情で笑った。
「夜会はマナーが堅苦しくてねぇ。今度ギフティラ学院生徒会のメンバーのお茶会でもミーネ様が提案してくださいな」
「そうね、そうしましょう」
ベルマリーにつられて微笑む。
王立ギフティラ学院は、18歳で学園を卒業する生徒の中で試験に受かった者だけが進学することのできる1年制のクラス。
当時の生徒会メンバーは七名。
私とベルマリー以外の生徒会メンバー……ラッドレン殿下、タジェロン様、マーコット様、そしてサフィニア様とネイブルの顔を思い浮かべた。
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