3 / 3
きゅぅぅん♡
しおりを挟む「エイト様、私を恋人にしてくださるのですか?」
「んー、どうだろうねぇ?」
再びエイト様が、ふぁさっ、と前髪をかきあげる。
「セ、セーブ……?」
目を見開き驚いているワンツ様の横を通り、ツカツカとセーブ様に向かって歩いていく女性がいた。
恋人のように腕を組んだ状態になっているエイト様とセーブ様に近づいていったのは、ナイッツ子爵令嬢。
「エイト様が愛しているのは私ですわ。今度ヤッホー湖へデートに行く約束をしましたのよ。だから私、ヤッホー湖周辺のおすすめスポットについて調べましたの」
「僕のためにヤッホーで調べてくれたのかい、嬉しいよ」
違いますエイト様、ナイッツ子爵令嬢はヤッホーで調べたのではなく、ヤッホーを調べたのです。
「デートを楽しみにしてくれていたんだね。なんて可愛いんだ、愛しているよ」
ポンッと花が咲いた。
ついさっきセーブ様へ愛を告げた時と、同じくらい綺麗な花。
「嬉しいですわ。ねぇ、エイト様、私の事を一番愛していらっしゃるのでしょう?」
エイト様とセーブ様の前に立つナイッツ子爵令嬢が、可愛らしくコテンと首を傾げる。
すると少し離れたところから、テーン子爵令嬢が声をあげた。
「いいえ、エイト様が最も愛している女性は私です。私がクッションをコレクションしていると知ると、何度もプレゼントしてくださいましたのよ」
優雅に扇子を揺らしながら、テーン子爵令嬢がエイト様たちの方へ近づいていく。
ちなみにこの国にテーン子爵はおふたりいらっしゃる。
とても背が高く恰幅もよいお方と、非常に小柄なお方。
そのためそれぞれ、大テーン子爵、小テーン子爵と呼ばれていた。
声を発したのは、小テーン子爵家のご令嬢の方。
「プレゼントを喜ぶ姿が可愛かったね、愛しているよ」
ポンッと花が咲く。
先のふたりの時と、同じくらい綺麗な花。
私はエイト様と話す機会がなくて知らなかったけれど。
エイト様はおそらくプレイボーイ、というものなのでしょう。
先ほどのワンツ様と同じくらい、目を見開いているセーブ様。
「エイト様、先日は君だけを愛していると言ってくれましたよね……?」
「もちろんだよセーブ嬢。僕は愛を告げる時、そのタイミングでは必ずひとりの女性だけを想っているさ」
「ぇ……?」
「愛しています、エイト様」
小テーン子爵令嬢がセーブ様のいる方と反対の方からエイト様に腕を絡ませるのと同時に、ポンッと花が咲いた。
「今度私の誕生日に記念すべき十個目のクッションをくださるっておっしゃっていましたよね。楽しみですわ。私絶対に、エイト様から十個目のクッションをいただきたいんですの」
クッションを、十個も……。
小テーン子爵令嬢は、なぜそんなにクッションを集めていらっしゃるのかしら……。
テンテケテケテケ、テンテン、パフ♪
皆がハッとして動きを止めた。
今の音楽は、この国で暮らす者なら老若男女問わず誰でも知っている曲。
この曲が鳴ったという事は、あの方からのお言葉がある――
卒業生代表としての私の挨拶が終わったタイミングで別室に移り、また最後の方でいらっしゃる予定だったはずだけれど……。
騒ぎを聞いて、もうこの会場へ戻られていたのかもしれない。
「大切な卒業パーティーを台無しにするつもりなのか、そなた達は」
威厳のある声がフロアに響き渡った。
皆が一斉に、頭を下げる。
この国の陛下、ケイ王に向かって。
「騒ぎの原因となっていたのは、ワンツ、スリーフォフ、エイト、アイーブ、セーブか。騒動を起こした責任は取ってもらわねばならん。五人には処罰を申し渡す」
ケイ王陛下の命令に逆らう事は許されない。
スリーフォフ様にも、処罰だなんて……。
私の婚約破棄なんかに、スリーフォフ様を巻き込んでしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「まず、ワンツとセーブ。そなた達は結婚してシークス子爵家を継ぎ、業務日誌を毎日欠かさず記載せよ」
「「は、はいっ」」
ワンツ様とセーブ様の声が揃う。
よかった……。
処罰と言っても、陛下はそんなに無理難題をおっしゃるつもりではないらしい。
婚約をせずに結婚するのは貴族では珍しいけれど、愛し合っているふたりだから問題ないでしょう。
毎日業務日誌をつけるのも、領地を治める者として当然のことですし。
「なお、毎日必ず夫婦間で愛を告げ、出現した花の数、大きさなどを観察し、ふたりとも業務日誌へ記録するように。業務日誌は週に一度、国の監査役に提出する必要があるからな、さぼることは許されんぞ」
「「…………」」
「返事は?」
「「は、ぃ……」」
「では今日はもう退席し、ただちに手続きに入れ」
仲良く一緒に肩を落としたワンツ様とセーブ様の姿が見えなくなると、ケイ王陛下はエイト様の方へ顔を向けた。
「エイトよ。其方には軍の801部隊で三週間訓練に参加することを命ずる」
やはり陛下はお優しい。
801部隊は、軍の中でも隊員同士の仲がものすごく良いと評判の部隊ですもの。
絶対に801部隊へ入隊したいと、自ら志願する者もいると聞く。
ただ女性隊員はいないから、プレイボーイのエイト様には少しつらいかもしれない。
陛下が右手を上げると、逞しい身体の男性が現れた。
たしか、801部隊の隊長。
「本日からさっそく、軍の宿舎で生活するがいい」
隊長はエイト様を軽々と抱き上げると、私たちに背を向け会場の出口の方へ歩いていく。
後ろ姿を眺めていたら、出口の直前で立ち止まった。
エイト様に何か囁いていらっしゃるご様子。
??
なぜかポンッポンッポンッと連続して可愛らしい花が咲いた。
「では、スリーフォフとアイーブよ」
「「はい」」
「ボクシング侯爵領の民のために、と今まで二人が勉学に励んできたのは知っている。その力、存分に発揮するがいい。スリーフォフとアイーブで婚約し、一年後スリーフォフが学園を卒業するのと同時に夫婦となり協力してボクシング侯爵領を治めていくことを命ずる」
ぇ……?
スリーフォフ様が私と……??
「承知いたしました」
凛とした声でスリーフォフ様が答える。
そうよね、王命は絶対だもの……
「……承知……いたしました……」
スリーフォフ様、婚約破棄された私なんかと婚約しなければならないなんて……
「以上だ」
陛下が会場を出ていった。
堪えていたけれど、スリーフォフ様に申し訳ない気持ちが溢れてしまい、涙が頬を伝っていく。
スリーフォフ様が慌てた様子でハンカチを取り出し、私の涙を拭いてくれた。
「申し訳ありません、アイーブ様。結婚なんて嫌ですよね」
「いいえ、結婚が嫌なのではなくて。スリーフォフ様に申し訳なくて」
「なぜ申し訳ないのですか……アイーブ様と結婚できるなんて嬉しいです」
スリーフォフ様が、はにかみながら微笑んだ。
そんな表情、初めて見る。
きゅぅぅん♡
あら何かしら、今のは?
心臓が、音を立てたような??
スリーフォフ様が、そっと私の手を握る。
「ずっとあなたをお慕いしておりました。もう我慢しなくてよいのですね。愛しています、アイーブ様」
ボボボボボボボボボンッ!!
今まで見たことのない大きな花が次々に咲いた。
【完】
最後まで読んでいただけたなんて!!
ありがとうございました、愛しています♪
ボボボボボボボボボンッ♪♪
43
お気に入りに追加
810
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(26件)
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?喜んで!復縁?致しません!浮気相手とお幸せに〜バカ王子から解放された公爵令嬢、幼馴染みと偽装婚約中〜
浅大藍未
恋愛
「アンリース。君との婚約を破棄する」
あろうことか私の十六歳の誕生日パーティーで、私の婚約者は私ではない女性の肩を抱いてそう言った。
「かしこまりました殿下。謹んで、お受け致します」
政略結婚のため婚約していたにすぎない王子のことなんて、これっぽちも好きじゃない。
そちらから申し出てくれるなんて、有り難き幸せ。
かと、思っていたら
「アンリース。君と結婚してあげるよ」
婚約破棄をした翌日。元婚約者はそう言いながら大きな花束を渡してきた。
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
悪役令嬢に転生しました。何もしてないのに転生ヒロインに原作そのままの悪役にされそうなので先手を打って私が聖女になろうと思います。
下菊みこと
恋愛
性格の悪い転生ヒロインから、ちゃっかり聖女の地位を奪う転生悪役令嬢のお話。
ご都合主義のハッピーエンド。
ざまぁは添えるだけ。
小説家になろう様でも投稿しています。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。
しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。
レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。
そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。
「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」
第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。
今世ではあなたと結婚なんてお断りです!
水川サキ
恋愛
私は夫に殺された。
正確には、夫とその愛人である私の親友に。
夫である王太子殿下に剣で身体を貫かれ、死んだと思ったら1年前に戻っていた。
もう二度とあんな目に遭いたくない。
今度はあなたと結婚なんて、絶対にしませんから。
あなたの人生なんて知ったことではないけれど、
破滅するまで見守ってさしあげますわ!
君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした
せいめ
恋愛
美しい旦那様は結婚初夜に言いました。
「君を愛するつもりはない」と。
そんな……、私を愛してくださらないの……?
「うっ……!」
ショックを受けた私の頭に入ってきたのは、アラフォー日本人の前世の記憶だった。
ああ……、貧乏で没落寸前の伯爵様だけど、見た目だけはいいこの男に今世の私は騙されたのね。
貴方が私を妻として大切にしてくれないなら、私も好きにやらせてもらいますわ。
旦那様、短い結婚生活になりそうですが、どうぞよろしく!
誤字脱字お許しください。本当にすみません。
ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
今週はこちらの世界を含め、3つの世界を出先で(お昼休みに)拝読しました。
弓はあと様はこれまで、たくさんの、素敵な世界を発表してくださっていますので(毎日楽しませていただいておりますので)。待っている、という感覚はまったくありません。
ですので、ご自分のペースで。投稿をなさってくださいませ……っ。
柚木ゆず様
いつも感想をくださり本当にありがとうございます!
柚木ゆず様の優しさに、感謝の気持ちでいっぱいです♪
これからも楽しんでいただけるように、執筆がんばります♪♪
本日は出先のPCで(お昼休みに)、改めてこちらの世界を一気読みさせていただきました。
今日は午前中にかなりドタバタしていて、心と体に疲労感があったのですが。大好きな弓はあと様ワールドに触れたことで、本当に、心も体もほっとして。
癒しを、いただきました……!
今は、明日はどの世界にお邪魔しようかなと、アレコレ考えております……っ。
柚木ゆず様
今回も感想をくださり、本当にありがとうございます!
そう言っていただけて光栄です☆彡
連載中の小説もなるべく早く更新&完結できるようにがんばりま~す♪
本日は黒い噂を(更新してくださったお話を)拝読したあと、久しぶりにこちらにもお邪魔をしております。
今回もやはり、あっという間、でして。文字数が少ないわけではないのに、一瞬、のような感覚でして。
やはり、良い作品だなぁ。と、改めて、感じております。
柚木ゆず様
再びこちらの世界へ遊びに来てくださり、本当にありがとうございます!
しかもお忙しいなか他の話も読んでもらえたなんてっっ、嬉しいです♪
お褒めの言葉もいただけて、元気が出ました~♪♪