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しおりを挟むウエイターに夫が飲み物を頼んでいる。
夫と私にはシャンパン、桐浦さんにはペリエを。
飲み物が運ばれてくると統哉さんは「食事の方はこちらから声をかけるまで待って欲しい」とウエイターに伝えていた。
ウエイターが静かに退席し、個室の中は三人だけの空間に。
状況がよく分からなくて何を話したらいいのか考えられず、統哉さんの言葉を待つ。
「……子どもがいるんだ」
子ども?
どこに??
心の中の私の問いかけに答えるように、統哉さんが言葉を続けた。
「彼女の、お腹に」
慈しむような視線を彼女のお腹の方へ向けた統哉さん。
その顔を見たら、なんだか懐かしさを感じた。
結婚前はよく、私に向けられていた表情だったから。
「そうなの、桐浦さんのお腹に……」
友人や職場の人から妊娠の報告を受けたらいつも、「おめでとう」というけれど。
今は言えなくて、言葉を飲み込んだ。
桐浦さんは結婚していない。
おそらくおめでたい妊娠ではないと思う。
だから統哉さんに、相談したのかも。
デートの相手に妊娠を告げたら何かしらのトラブルがあって。
統哉さんは相談されたんだ、きっとそう。
今のこの状況ではこの予想はきっと外れるだろうと自分でも分かっている、けど。
そうであってほしい、と強く願ってしまう。
「お相手は……?」
「僕だ」
なぜ、あなたなの?
統哉さんは、私の夫なのに。
「つい先日心音が確認できたばかりで、妊娠二か月になる」
妊娠二か月……。
私がそれとなく誘っても、統哉さんは「疲れてるから」というばかりで。
この半年間、私たちはシてないのに。
疲れていたのに、桐浦さんとはできたの?
大学1年の時に知り合った3歳上の統哉さんとは、私がハタチの時から付き合い始めて24歳で結婚した。
子どもが欲しかったけど、できなくて。
2年前から不妊治療に通っている。
20代だからまだ治療を開始するには早かったかもしれないけど、結婚してから4年近く経っていたし。
30歳になるまでに、一人目が生まれたらいいなと思って。
病院に通い始めて、私は卵管が細くて子どもができにくい体質だという事が分かった。
体外受精も視野に入れて早く治療のステップアップをしたかったけど、統哉さんの協力が得られなくて治療は自然妊娠に近いタイミング療法止まり。
それだとなるべく排卵日に性交渉をする必要がある。
もちろん露骨に、今晩しよう、なんて誘ったりしてない。
部屋の照明とか、バランスよく栄養のある食事とか、下着とか、排卵日だけじゃなくて普段から気をつけるようにしたつもり。
3か月前には、受けると数か月のあいだ妊娠率が高くなると言われている子宮卵管造影検査も受けた。
その検査の痛みは人それぞれらしくて。
私にとっては、今までに感じたことのない激痛を伴う検査だった。
検査のあいだずっと、妊娠しやすくなるから耐えなきゃって必死に自分へ言い聞かせていて。
でも先々月も先月も、統哉さんは「疲れてるから」って言って私に背を向けて寝てしまった。
疲れていたのに、どうして桐浦さんとはできたの?
「母さんも、孫の顔を見るのを楽しみにしている」
そうね、お義母さんにはしょっちゅう「子どもは、まだ?」と聞かれていたもの。
「あそこの家にまた孫が生まれたんですって、羨ましいわねぇ」と遠回しに言われた事だって何度もある。
スッと1枚の書類がテーブルの上に現れた。
すでに統哉さんの名前が記入された紙。
婚姻届とよく似ているけれど、色が違う。
緑色の枠が、滲んでぼやけて見える。
結婚前、指輪を渡されたレストランで、離婚届を受け取った。
そのあと食事をしたはずだけど、何を食べたのかは覚えていない――
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