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 金の魔王が私の頬にキスをして、3分間だけ姿の消える魔法をかけてくれた。
 人間には使えない、高度な魔法。
 プルプルうさぎのラパンさんが何かを差し出してくれたので受け取ると、ご丁寧に3分用の砂時計だった。
 唇にディープキスすればもっと長い時間姿を消してあげられるけど、と金の魔王は悪戯っぽく笑っていたけれど、たぶん本気でキスしようとは思っていない気がする。

 クルーティス城への入り口は、金の魔王の玉座のすぐ後ろにあった。
 カーテンを捲ると現れた大きな鏡。
 その中にスッと入っていくと、出たところはよく知っているところだった。

 王族と聖女しか入室できない、祈りの間。
 そういえば正面に、カーテンがかかっていたっけ。
 カーテンの向こうには、鏡があったのね、知らなかった。
 もしかしたら秘密の入り口があると知っていても、鏡を通り抜ける資格がない者にとっては、ただの鏡だったりするのかもしれない。
 魔王の指輪のおかげで行き来できるとか、なのかな?

 祭壇に飾られた直径5センチ長さ30センチはあろうかという大きな水晶を、いつもと逆の方向から見つめる。
 先がピンと尖ったこの光り輝く水晶は国の宝。
 祈りを捧げることで、結界を守るための力を溜め、効力を長持ちさせることができる。


 音を立てないようにそーっと祭壇を下りた。
 テータ様が祈りを捧げていたから。


 ――よかった、結界を守るために祈ってくれていて。


 ホッと一安心しながら静かにドアを開け、デセーオ王太子殿下の部屋へと急ぐ。
 チラリと見た砂時計の上部の砂は、半分くらいになっていた。

 そっと殿下の部屋のドアを開ける。デセーオ王太子殿下はベッドに浅く腰をかけて本を読んでいた。
 殿下のすぐ隣に立ち、砂時計の砂が全部落ちると同時に殿下の口を手で塞ぐ。


「お静かに願います、デセーオ殿下。リリィです」


 目を白黒させていた殿下が落ち着くのを待って、ゆっくりと口を塞いでいた手を放す。


「リ、リリィ!? お前なぜここに!? いったいどこから現れた!?」

「魔の森を出たあと色々とありまして……金の魔王城から」


 嘘は言っていない。


「デセーオ殿下、今日は教えていただきたいことがあって参りました」

「なに!? 追放された身で俺に願い事をするというのか」


 鼻をフンッと膨らませた殿下が、スゥッと息を吸った。
 あぁ、これは婚約破棄の時にも見た、調子に乗って何かやらかしてしまう時の殿下の表情だ。


「それならまずは、俺の願いを聞いたらどうだ、リリィ?」


 う、と言葉に詰まってしまう。
 自分でも、一方的にお願いするのは虫がいい話だと思うから。
 何も言わない私を見て、殿下は口角を片方上げて笑った。


「昨日突然遠くの空に闇が現れて、神官どもは魔物が暴れる前兆だと大騒ぎだ。そのおかげでテータは祈りを捧げ続けることになってしまった」


 確かに昨日ヴェルク様の魔力が暴走して、世界を滅亡へと導く闇が生じてしまった。もう消えたけれど。

 なるほど、城の結界も以前より弱まっている気がするし、テータ様と一緒に祈りを捧げよという事ですね、デセーオ殿下。

 クルーティス王国のためにもなるし、私にもできる聖女としてのお役目であればできる限り務めさせていただきます。


「だからテータの代わりに……」


 テータ様の代わり?
 あ、そうですか。
 代わりに祈れという事ですね。
 それでも構いません。
 聖女のお守りの事で、私の話を聞いてもらえるのなら。


「服を脱いで胸を見せろ」


 む、胸を!?

 確かに追放される前、殿下から性的なお願い事をされた事はありました。胸よりもっと酷いお願いをされた事も。
 でもこの国の貴族は結婚まで純潔を守ることが善しとされていたし、聖女のお勤めで疲れていてそれどころじゃなかったから、婚約者と言えどもなにかと理由をつけて断っていて。

 断っていた……けど。
 今は、殿下の話を聞いて、聖女のお守りの行方を確認しなければ。
 そしてまだお守りが残っているのなら、今度こそノワール王国へ安価で、ううん無償で渡してほしい。
 もしくは殿下が売買で得たお金があるのなら、ノワール王国の暴動を鎮めるために使ってほしい。

 この願いを叶えてもらうためには……胸を見られるくらい、我慢しないと。

 唇をキュッと噛んで、ヴェルク様に借りたシャツのボタンを外していく。
 スッとシャツを脱いで、近くにあった椅子の背もたれにかけた。

 胸に捲いた黒のサラシに、黒いズボンを身につけた私の姿を、殿下の舐めるような視線が這う。


「はっ、そんなにキスマークなんぞつけて。そうか、お前は金の魔王に対し娼婦のような真似をして囲ってもらっていたんだな」


 パッと鎖骨のあたりを手で隠す。
 恥ずかしかったからではない。
 ヴェルク様がつけてくれた大切なしるしを、そんな目で見てほしくなくて。


「では願いをきいてやる代わりに俺にも娼婦の真似事をしてもらおうか。口での奉仕くらいできるよな」


 デセーオ王太子殿下がズボンを脱いで、下着もおろし、シャツ一枚という少し情けない姿になってベッドに座った。
 こちらを向いて開いた脚の付け根には、少し焦げたような色をした魚肉ソーセージっぽい物体が上向きにくっついている。
 ヴェルク様のは温泉で身体に当たっていたことはあるけれど見たことはなかったから、男性のモノを見るのはこれが初めてで。


「俺の前に跪け、早く咥えろ」


 殿下は私が作った大量の聖女のお守りを持っているか、それで得たお金を持っているに違いない。
 口で奉仕すればヒントがもらえて、きっとノワール王国の暴動を抑える方向性が見える。
 ヴェルク様が大切に思っているノワール王国を救う方へ向かうことができるはず。

 ちょっとの間我慢すれば、いいだけだから。
 自分自身に言い聞かせる。

 これは魚肉ソーセージ……
 これは魚肉ソーセージ……
 必死に自分へ暗示をかけながら、ベッドに腰かけた殿下の前に跪いた。







 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 

 【お知らせ】

 閲覧ありがとうございます。

 次回、うしろの穴を用いたR18表現があります。
 がっかりさせたらごめんなさい。
 少々お下品かもしれません。
 苦手な方はご注意ください。


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