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しおりを挟む「ふぅ」
ベッドで眠るアエルとアリア。
部屋を移動する間に抱っこで歩いたのが功を奏したのか、アリアも思ったより早く眠りに落ちてくれた。
万が一にもベッドから落ちないように、ベビーベッド代わりに三枚あった毛布を筒状に丸めて囲いを作る。
――これで、大丈夫かな?
身体に巻いていたシーツも使ってしまったので、再び全裸に戻ってしまった私。
ふわりとふたりに布団をかけてから、ベッドから少し離れたソファで横向きに寝転び目を瞑る。
リリィ――
耳元で囁かれた声を、夢見心地で聞いた。
大好きな、甘くて低い声。
「ひゃぁ」
ぬちゅ、と耳の穴への柔らかくて温かい感触に、思わず飛び起きる。
目の前に、舌を出して悪戯っぽく笑うヴェルク様のお顔。
ふぁ、そんな表情でも麗しくて、魔王なのに神々しいです。
と、思ったけれど、次の瞬間自分の目を疑った。
「ヴェ、ルク、様、髪、が」
あんなに長かった黒い髪が、短くなっている!?
「変か?」
変ではないです。むしろ似合っています。前世だったらモデルとか俳優さんかと思ってしまうくらい。
ストレートだと思っていましたが、切ると緩くクセのある髪質なのですね。
素敵です、カッコイイです。だけど魔王感ゼロです。よいのですか!?
「リリィに短い方が良いかもしれないと言われたから、試してみようかと」
言いました、言いましたけど、楽だからとか思って、あんな軽い気持ちで言ってしまったのに。
ああ、ごめんなさい、ヴェルク様。
「どうだろうリリィ、変か、な?」
ソファで私の隣に座り、前髪をくしゃりと軽く握りながら、少し照れた様子で聞いてくるヴェルク様。
そんな表情もなさるのですね、可愛らしくて、見てるとなぜか胸がきゅぅとします。
「よく似合っていると思います。あの……素敵、です」
「そうか」
思わずぎゅぅ、とヴェルク様の身体を抱きしめてしまいました。
はにかむように小さく笑うヴェルク様が、本当に可愛らしくて。
でも、ヴェルク様に抱きしめ返されて気づいたのです。
ヴェルク様の手が、私の肩と腰に直に触れている事を。
自分が一糸まとわぬ姿だったという事を。
はぁ、とヴェルク様の吐息が首にかかり、ピクンと身体が跳ねた。
「アエルとアリアがいては何もできぬ。どうしてふたりがここに?」
「あの、ふたりとも泣いていて、ふたりのお母様がゆっくり眠れるように、今晩だけでも別の部屋で寝た方がよいかと思いまして」
「そうか」
「ぁンッ」
ヴェルク様の指にスーッと背骨をなぞられ、ゾクリとして背中を反らす。
「だがなぜ毛布もかけずに裸で寝ていた。ベッドにあるのだから、使うがよい。風邪をひいてしまうではないか」
「あ、その毛布、ふたりが落ちないように柵代わりにしているのです。そのままにしておいてください」
「なるほど……だが他に余っている毛布が今は無い。ノワール王国は貧しくて、我のところへの献上品も少ないのでな」
ノワール王国の状況は王太子妃教育の中で学んだから知っている。聖女がいないからお守りを作ることができず、魔物のいる海へ漁に出られないし馬車で魔の森を越えクルーティス王国に来ることも難しい。
そのため貿易に関してはクルーティス王国の商人が主導となっている。
それにノワール王国と銀の魔王の領域であるセルヴィル王国との間には暴れ河が流れているため、これまた聖女のお守りが無いと自由に行くことができない。
だからデセーオ様主導の外交事業に協力して、たくさん聖女のお守りを作ってノワール王国へ安価で提供したはずだけど……。
ノワール王国の魔物を統べるヴェルク様への献上品が増えるために必要な経済力がつくまでには、まだまだ時間がかかるということかしら。
「大丈夫ですよ、身体は丈夫な方ですから」
「リリィが大丈夫と言うと逆効果だ。余計に何かしてあげたくなる」
ちゅ、と唇が重ねられ、ゆっくりと離れていくとヴェルク様が意味ありげに微笑んだ。
「では、毛布ではなく我がリリィを暖めてやろう」
ヴェルク様はシャツのボタンを外してサッと脱ぎ鍛えられた胸板を露わにすると、今度はズボンのベルトにカチャリと手をかけ外し始める。
「な、なぜ服を脱いでいらっしゃるのですか、ヴェルク様!?」
咄嗟に両手で目を覆って顔を伏せる。
でも身体が隠せず露わになってしまうことに気づき、慌てて俯いたまま手で胸と股を押さえギュッと目を瞑った。
ズボンを脱いでいらっしゃるのか、衣擦れの音が聞こえてくる。
暖めてあげるって、もしかして、肌と肌をくっつけて暖をとるという事でしょうか!?
「こちらへおいで、リリィ」
恐る恐る目を開けながら顔を上げる。
私が目にしたのは、ベッドの上でアエルとアリアの足元のところにいる、大きな黒い狼の美しく精悍な姿だった。
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