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しおりを挟む暗い廊下をゆっくりと進んでいくと、前へ伸ばした手に壁が触れる。
行き止まり? 左右に首を向けると左へと続く廊下の奥にあるドアの下から、僅かに光が漏れていた。
声もそちらの方から聞こえてくる気がする。
足音を忍ばせてゆっくりと近づき、ドアの前で、耳を澄ます。
赤ちゃんと、子ども? それに、女の人? の、泣き声??
そーっとドアノブを回し、薄く開けたドアから、部屋の中を覗き見る。
ベッドの上で座り込む、長い髪の人物。
一見ヴェルク様かと思ってしまうような髪型。
ただ体格はヴェルク様と違う。背とか私と同じくらい、かな?
長い髪の人の隣にも誰かいる……小さな子……ん……もしかして、アエル?
薄暗くてぼんやりとしか見えないけれど、泣いているの、たぶんアエルだ。
長い髪の人は、赤ちゃんを抱っこしているようにも見える。
「どうして……ヒクッ、どうして……ゥクッ」
女性、かな? 小さくしゃくり上げながら呟いているのが辛うじて聞こえた。
赤ちゃんと、アエルらしき子の泣き声は、だいぶ大きい。
そーっとドアを閉め、改めてドアをコンコンコンとノックする。
返事は、ない。
無いけど放っておくわけにもいかず、「失礼しまぁす」と言いながらおずおずとドアを開けた。
「あ、あのう、大丈夫、ですか?」
「誰ッ?」
ばッと顔を上げた髪の長い人と目が合った。
うわ、綺麗な人。
女性版ヴェルク様のような雰囲気の、麗しいお顔。
『城内に女も雌もいない』ってヴェルク様おっしゃっていたのに、こんなに素敵な女性がいらっしゃるじゃないですか。
なんだか胸のあたりが、もやもやチクチクしてくる。
しかもこの女性が抱いている赤ちゃんとアエルって、もしかしてヴェルク様のお子では。
もう、もう、もうッ。
なぜか、もう、しか言葉が出てこない。
「リ、リ、おね、ぢゃん」
しゃくり上げて泣いているアエルに呼ばれて、ハッとした。
今は自分のよく分からない感情は脇に置いといて、泣いている三人をどうにかしないと。
入室を許可されていないのに失礼かもしれないけれど。
部屋へ入りベッドへと進み、アエルを抱き上げ頭を撫でる。
するとアエルが甘えるように首にしがみついてきた。
「アエルの、お母様ですか?」
私の問いかけには答えずに、私とアエルを見つめる女性。
「その、指輪は……?」
指輪? ああ、ヴェルク様がつけてくれた指輪のことかな?
「ヴェルクから、もらったの?」
正直に、コクリと頷く。
ヴェルク様のこと、呼び捨てなさるのですね。やはりご夫婦だったりするのでしょうか。
「そう……」
「どうして、と言いながら泣いていましたね。何があったのですか?」
聞いてから、この質問はしない方が良かったのかな、と後悔した。
どうして側室を娶ろうとしているの、とか
どうして浮気したの、とか思われていたらどうしよう。
私とヴェルク様、そういう関係ではありませんよ、と心の中で伝える。
優しくしてくれるのも、愛すると言ってくれたのも、たまたま私が転生者だったから。
私自身を愛してくれている、と勘違いして自惚れてしまうところでした。
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