上 下
4 / 70

3

しおりを挟む





 ――大丈夫かな、怪我してないといいけど



 ドレスの裾を抱えて走りながら、竜巻を受けたふたりの身を案じる。
 王太子殿下デセーオ様のご学友だった、そして今では臣下という名の下僕となったふたり。
 いろいろと我慢していたのでしょう。だからといって許せる事ではないけれど。





 思ったよりも、森の奥へと入ってしまった気がする。
 足の裏が痛くて仕方ないけれど、捕まるのが怖くて足を止めることができない。

 ふたりとも、そろそろ諦めて馬車へ戻ってくれないかしら。
 それとも、もうすでに後ろには、いないの……?

 今夜は、やけに空が暗い。
 まるで、闇に包まれているようで。
 魔物が出ないうちに帰った方が、彼らの身のためだと思う。

 彼らがいなくなった後、私は――
 自分の身体に結界を張りながら魔の森を越えて、ノワール王国に行くのもいいかもしれない。
 私のことをよく知ろうとしなかった殿下は、私に森を抜ける魔力があるとは思ってもいないでしょう。
 
 王太子妃教育で学んだ聖女不在の隣国ノワール王国。
 そこに行けば、ほそぼそと聖女のお守りを作って暮らしていけるのでは。

 あ、でも……、以前デセーオ様主導の外交事業に協力した時、たくさん聖女のお守りを作ってノワール王国へ安価で提供してからまだ間もない。
 供給過剰でしばらくみんな買ってくれなかったらどうしよう。

 ほぼ慈善事業に近い価格で聖女のお守りを提供するなんて、デセーオ様にしては珍しく善い行いだったからあの時は私も嬉しかった。
 聖女がいなくてノワール王国も困っていただろうし。

 そういえば、これから聖女のお守りは誰が作るのかしら。
 クルーティス王国もうひとりの聖女、テータ様?
 でも、彼女の魔力では、お守りの効力も、彼女の身体への影響も――





 あぁ、走りながら考え事なんかしちゃいけない。

 前世でも、歩きスマホはやめましょうって、どの駅でもホームにポスターが貼ってあったではないか。
 ながら歩きをすると、足元が疎かになるから危ないってことなのに。
 どうして油断しちゃったのよ、私は。



 ――後悔先に立たずとは、この事か、私の、バカッ



 自分を叱責するのと同じタイミングで、うねうねと地面を這う太い木の根に躓き落ち葉へと見事なスライディング。

 しかも足首をひねって激痛が走るというおまけ付き。

 魔力攻撃はするのも防ぐのも得意だけれど、物理攻撃にはめっぽう弱い。

 イタタタタ……と思わず足首を押さえうずくまる。

 乱れた息を整えて、手のひらに口づけしてから治癒魔法を詠唱し――






 その手を掴まれ、ぐぃっと上にひねりあげられた。







 ……ゆっくりと後ろを振り返りながら、掴まれた腕を見上げる。

 下品にニヤリと口角を歪めて笑う男の顔が、漆黒の闇を背景に二つ。



「鬼ごっこは終わりだ、聖女様」

 私の手を掴んだ男が、呼吸を乱しながら告げた。

 額から汗を流すもうひとりの男がぎゅっと握ったこぶしを私の目の前にさしだし、手の中に握っていた物を見せつけるようにこぶしを開いた。

「先ほどの竜巻には驚きましたが、あなたの作ったお守りのおかげで助かりましたよ」

 ククッと意地悪く笑う声が耳に刺さる。
 彼の手のひらには、馬車の中で奪われた私の聖女のお守りがのせられていた。

「さあ、今度は違う遊びをしようか」

「どうせあなたはこの森で行方不明になる予定ですから、その前に私たちの慰み者になっても誰も困りません」

 ――私が困るっつーの!!
 
 自由になっている方の手に口づけをし、呪文詠唱を始――

「むぐぅ、んんー、ムんんー!!!」

 口を塞がれながら身体を押し倒され、足をバタバタさせて抵抗する。

 彼らは口元をさらに歪めて笑った。

「なあ、聖女様の体液には加護があるんだろう? それも粘度が高ければ高いほど強い加護が。聖女様の穴から出る体液で、俺の肉棒に加護をくれよ」

「私はこの身体に興味がありますね。ドレスを取り去った女性の裸はどうなっているのでしょう。あぁ、早く見たい」

 ふたりとも可愛らしい婚約者がいるのに、私と殿下の結婚が延びに延びたせいで、臣下である彼らの結婚もお預け状態。
 この国の貴族は結婚まで純潔を守るのが良しとされているから、20歳となった彼らの性欲は溜まりに溜まってしまったということか。

 でもそれをこの国から追放されいなくなる私で解消しようだなんて、この卑怯者!!
 こうなったら、とことん抵抗してやる!!!

「ムムー!! んんんー!!! ッ!?」



 ピタ、と喉元に小刀があてられた。

「暴れると危ないですよ。手荒なマネはしたくありません」

 ――もうすでに、手荒なことしてますけどッ

 ああ、本当に、物理攻撃にはめっぽう弱い。



 悔しくて、情けなくて、堪えたいのに鼻がツンとして涙が溢れてくる。







 小刀が喉元から胸元へと下ろされ、勢いよくビリィッッッ、とドレスの前面が下着ごと切り裂かれた。




しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

処理中です...