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しおりを挟む王に頼まれた薬を届けに来た私は、玉座へ座るヘデドラ王から見下ろされる位置で跪いている。
近づいてきた侍従らしき男へ、いつも通り薬袋を渡した。
このひと月の間、頭が痛い、喉が痛い、鼻水が出る、目が痒い、などといった理由で私はヘデドラ王に薬を依頼され、三日に一度登城している。
薬を届けると、次の薬を命じられる感じで。
ワイングラスを持つ方と反対の手で男から薬袋を受け取った王が、面倒臭そうにため息を吐く。
「ようやく届いたか。紙で指を切りつらい思いをしている朕を、こんなに待たせおって」
三日も経てばそんな傷、とっくに治っているだろうという言葉をグッと飲み込む。
今の私には、他に言うべきことがあるから。
おずおずと、王のそばに立つボロボロの騎士様の方を手で示す。
「あの……、彼にもその薬を飲ませてあげてください。どんな傷にも効きますから」
騎士様が、僅かに目を見張った。
ヘデドラ王に殴られている時でも動じる事の無かった彼の瞳が、感情を宿している。
そんな風に見えてなぜか自分が動揺してしまい、思わず彼から視線を逸らした。
豪奢な王へと視線を移し、その目をまっすぐ見つめる。
「……このままではあまりにも酷すぎます」
ヘデドラ王の瞳が怒りに燃えたのが分かった。
私が勝手に言葉を発し、しかも批判的な内容だったのが気に入らなかったのかもしれない。
憤慨し顔を真っ赤にしたヘデドラ王が、私を睨みつけたまま立ち上がる。
私へ向かって投げつけようとしているのか、ワイングラスを握る王の手が振り上げられた。
咄嗟にギュッと目を瞑る。
すると同時に、ガタンッ、と大きな音が響き渡った。
…………
投げつけられるはずのワイングラスは飛んでこない。
…………
おそるおそる目を開けてみる。
先ほどまでヘデドラ王の座っていた椅子が、倒れていた。
……ぁ、違う、かも……。
倒れていた、というよりも、倒されている?
状況から察するに、後ろ手に縛られている奴隷の騎士様が王の椅子を蹴り倒したらしい。
自分の後ろを振り返り事態を把握した様子のヘデドラ王は、激昂した。
ワイングラスを勢いよく振りおろし、騎士様の肩で叩き割る。
そして割れたグラスを持ったまま、何度も何度も騎士様に向かって腕を振りおろした。
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