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「ひとり」

 成瀬君が今までに付き合った女性の人数。
 意外だった。モテるからもっとたくさんいると思ってたから。

「どうやって付き合って、どうして別れちゃったの?」

 自分には誰かと付き合った経験が無いから、知りたい。
 成瀬君が前の彼女とどうして別れたのか原因を知っていれば、自分はそうならないように気をつけられるし。
 でも、ひとり、か……。

「その人のこと、今でも好き?」

 その女性のことが忘れられなくて、別れた後も他の人と付き合わなかったのかな。

 左肘をベッドについて手で頭を支え、私の隣で横になると、成瀬君は右手を伸ばして私の頭をゆっくりと撫でながら話し始めた。

「大学の時にカフェで勉強してたら声かけられて付き合ったんだけど、実は俺が知らなかっただけで相手は付き合う前から結婚してて、旦那が赴任先から戻ってきた時に夫がいるからって言われて振られた」

 お、思ったより別れた原因がすごい……。
 
「初めて付き合った相手が不倫してて俺はその浮気相手の方でそれ以来女性不信な感じもあって、日本で就職して桜井と会うまでは女の人を好きになったこともなかったし、ここ三年くらいはずっと桜井に片思い。と、こんな感じで桜井の疑問は解消した?」

 あ、そうかだから浮気とかしなそうな地味メガネの私の事を好きになってくれたのかな。
 だとしたら、前の彼女さんには感謝しないとかも。
 でもお付き合いをした女性の人数がひとりなら、どうして成瀬君はあんなに私を翻弄できるくらい女性の扱いに慣れているんだろう?

「成瀬君は前の彼女さんと……その……どんな、感じで、されてたのでしょう?」
「どんな感じって?」
「えっと……夜、仲良く……する時……」

 グッと成瀬君が喉を詰まらせた。
 ケホ、と小さく咳をしてから私の顔を覗き込む。

「桜井が聞いてもおもしろくないと思うけど、言わないと、ダメ?」
「う……、気になるから、聞きたい」

 聞いちゃいけないって頭ではわかっていても、聞きたいっていう感情がグツグツと沸騰してしまう。

「んー、何年も前だからもう本当によく覚えてないけど、俺は仰向けで寝てるだけで、されるがままだった気がする。あの頃は自分からしたいと思うほど、性欲が無かったんだよな、俺」

 話しながら成瀬君は、まるで息継ぎをするようなタイミングで、ちゅ……ちゅ……ちゅ……と私の顔や首にキスをした。
 成瀬君は性欲に関しては淡白でも、キスは好きなのかもしれない。

 それにしても……
 成瀬君ともし今後エッチをするようになったら、仰向けで寝てるだけの成瀬君に対して初心者の私が満足させてあげられるのかな。
 不安だけど……弱音なんて吐いていられない、頑張らないと。

「な、成瀬君っ」
「ん?」
「私、勉強するから。成瀬君が仰向けでも満足できるように!」
「へ……?」

 そうしないと、きっとすぐに振られちゃうもの。

「桜井、勉強って、何するつもり? まさか他のおと……」
「本読んだりとか。とりあえずできることから頑張ってみる」

 ぶはッと成瀬君が吹き出した。

「顔真っ赤にしてエロ本読んでる桜井を想像しちゃっただろ」
「エ、エロ……!?」

 本って、別にそんなつもりで言ったんじゃ……
 なんていうか、えっと、保健体育の教科書的なもので。

「そんな桜井も見てみたい気がするけど、頑張る姿はいつも仕事で見てるから、こういう時くらい頑張らない桜井が見たい」

 スルリとTシャツの中に成瀬君の手が入ってきて、私の胸に直接触れた。
 胸の先端を優しく摘ままれた拍子に思わず、ァン、と高い声が出てしまう、

 成瀬君!? 
 性欲が淡白でも、胸触るのは好きだったりするの!?

「あー、こんな事になるなら、ゴム買っておけばよかった」

 え? ゴム!?
 それって、輪ゴムのことじゃないよね? 髪の毛結ぶゴムでもないよね?
 きっと、避妊する時に使う、あのゴムのこと、だよね??

「な、成瀬君、エッチ、したいの!?」

 あれ? 成瀬君って、性欲淡白なんだよね??

「したいよ、桜井のこと抱きたい。でも安心して、避妊できないのに挿れたりしないから」

 そうだよね、子どもできたりしたら困るもんね。
 私が相手じゃ、付き合ってもすぐに別れちゃうかもしれないし。

「本当は今すぐ孕ませたいけど、結婚式でお腹が大きかったりしたら桜井が大変だもんな」

 んん??
 成瀬君、今なんて???
 孕ませ……????

「ァアッン!?」

 胸の先端を弄っていた手がスーッとお腹の上を滑り、下の茂みをそっと撫でた。

「だから今日は挿れないで、しよう」

 ――しようって、何を!?





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