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しおりを挟む「玄関に入ったらリビングとは逆の方に廊下を進めば寝室とか風呂があるから適当に使って。シーツは平日洗ってないから臭かったらごめん」
シーツ!?
そ……か……、寝るためには使うよ、ね。
なんか恐れ多くて、真ん中でなんて寝ちゃいけない気がする。
なるべく端っこで寝よう、そうしよう。
今日は金曜日。
成瀬君の言った感じだと週末にシーツを洗っているみたいだから、明日洗濯して乾かしてから帰ればいいのかな?
臭かったらごめん、と成瀬君は言うけれど。
寝室とか、絶対にいい匂いがしそう。
成瀬君はいつも、ほんのり爽やかな柑橘系のいい匂いがするから。
でも、本当にいいのかな?
彼女さんに怒られない?
成瀬君なら絶対にいるよね、彼女。
成瀬君は副社長秘書の鈴木さんと、とても仲がいい。
鈴木さんは背がスラリと高く、青みがかったきれいな瞳をした、栗色のロングの髪がふわりと美しい、とても素敵な人。
聞くところによると、彼女はフランスとのクォーターらしい。
営業部の成瀬君と副社長秘書の鈴木さんが直接仕事で関わることはほとんどないと思うけど、ふたりが社内で仲良さそうに話している姿を何度も見かけたことがある。
同期という接点もない。鈴木さんは3か月前、副社長とともにフランス支社から日本の本社へ来たばかり。
だから私は、成瀬君は鈴木さんと付き合っているのではないかと秘かに思っている。
鈴木さんは副社長と付き合っているという噂もあるけれど。
実際はどうなんだろう。成瀬君本人に確認したことはない。確認する権利もないし。
「明日成瀬君が帰ってきたら入れ違いで帰るようにするね。それじゃ、お疲れ様です」
「あ、ちょっと待って桜井」
軽く手首を掴まれて、ドッドッドッと鼓動が速くなる。
驚愕な値の脈拍数が成瀬君に伝わってしまいそう。
「こんな時間に女の子ひとりで歩いていたら危ない。送るから、あと五分だけ待ってて」
「え、あ、うん、分かった」
成瀬君は本当に優しい。
可愛らしい女の子とはほど遠い存在な私の事まで、いつも女の子扱いしてくれる。
満員電車でやたら息を首にかけてくる痴漢に遭って以来、首が隠れるように重い黒髪をまっすぐおろし地味なデザインのパンツスーツばかり着ている野暮ったい私なのに。
会社を出て少し歩いたところで、ポツ、ポツ、と雨が降ってきた。
最初は気にならないくらいだったけれど、あっという間に土砂降りの雨へと変わっていく。
天気予報では雨が降るなんて言ってなかったのに。
折りたたみ傘、今日は持ってきてない。
「桜井、これ被って」
成瀬君が自分の上着を私に被せようとしたので、手を振って断った。
「成瀬君バッグにパソコン入ってるでしょ。濡れたら大変だから上着で包んで。私は大丈夫だから」
「それなら桜井のバッグだけでも、貸して」
私が持っていたバッグは成瀬君によって優しく奪われ、成瀬君のバッグと一緒に彼の上着に包まれる。
「走るぞ」
バッグを抱えた腕と反対の手が私に伸ばされた。
成瀬君に手を繋がれ、心臓がドキッと跳ねる。
成瀬君のマンションの入口についた時には、ふたりともすっかりずぶ濡れになっていた。
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