56 / 65
55
しおりを挟む私もクリフに会いたい、居場所が分かるなら会いに行きたい。
「『虐げられた王』を売っていたお店です。店主らしき人と話してましたね~」
「本当に、本当にクリフだった……?」
「あの特徴のある眼鏡は見間違うはずありませんよ~。ちょっと濡れた感じはありましたけど、前髪も長かったですし」
確かにあの牛乳瓶の底眼鏡は、他で見た事が無い。
本当にクリフ……なの?
髪が少し濡れた感じって、前に武術大会で会った時と同じ感じかしら。
整髪料のようなものをつけていたのかも。
前髪が長かったという事は崩れてしまったのかもしれないけれど、アカリ様が見かける前はきちんと髪を整えていたのかもしれない。
髪を整える必要があるような……例えばデートの後だった、とか……?
ぅぅ、なんだか胸がモヤモヤする。
「クリフ様にお借りしていたイヤリングを持っていたら声をかけたんですけどねぇ」
「イヤリングを……クリフに借りたの?」
そんな話は初めて聞いた。
「もうかなり前なんですけどね~、ついつい返しそびれてしまって」
「今、持っていたりする?」
「はい、ありますよ。次に会った時こそ返せるように、なるべく持ち歩くようにしようと思いまして」
アカリ様がイヤリングを見せてくれた。
見覚えのあるデザインの、ブルーサファイアのイヤリング。
牛乳瓶の底眼鏡に隠された、クリフの瞳みたいに綺麗な色をしている。
見覚えがある……というよりも、私が持っているのと同じなのでは?
鏡台のひきだしを開け、小箱にしまっておいたイヤリングを取り出す。
以前クリフにプレゼントしてもらったイヤリング。
お金が無くて片方しか買えなかったって、クリフが言っていた。
「あれぇ、そのイヤリング、私がいま持っているのと同じですねぇ?」
「……アカリ様、そのイヤリング、クリフからいつ借りたか覚えてる?」
「ぇっとぉ……たしか……、そうそう、マッジョルド殿下がアルアスラ王国に来て夜会が催された日だったと思いますぅ」
「そう……」
頭を整理したくて、イヤリングを左耳につけてから椅子に座り、お茶を一口だけ飲んだ。
クリフがアカリ様に渡したのと、私へプレゼントしてくれたの、どちらが先なのかしら……。
アカリ様にイヤリングを片方貸してしまい、その言い訳として私に片方しか買えなかったと言った?
それとも……
いま私たちがいるメルヴェイユ王国では男性が、愛する女性に右耳よりも一つ多いイヤリングを左耳につけさせる。
この女性は自分の最愛だから、誰も手を出すなと周りに知らしめるために。
もしクリフが、私にイヤリングをプレゼントした後でアカリ様にイヤリングを貸したのだとしたら?
クリフがメルヴェイユ王国の風習を知っていて、左右きちんと揃ったイヤリングを持っていたにもかかわらず片方しか私にイヤリングをつけさせなかったという事になって……。
ボンッと点火したように顔が熱くなってしまった。
いやいやいやいや、それは無いでしょうっっ
慣れない環境で疲れているのかもしれない、自分にとって都合のいいように物事を解釈してしまいそう。
ぁぁできることなら……、一度だけでいいからお城を出る許可をもらいたい。
許可を貰えたら、僅かな可能性にかけてアカリ様がクリフを見たというお店へ行ってみたい。
二人掛け用の小さめなテーブルで、私と向かい合ってお茶を飲んでいたアカリ様が内緒話をするように口へ手を添え顔を少し寄せてきた。
珍しく、声のボリュームを落とし小声で話し始めたアカリ様。
「それにしてもマッジョルド殿下の評判は悪いですねぇ。本を買ったお店でも、戦争好きなうえに隣国王太子の婚約者を奪って自分のものにした極悪人だって噂されているのを聞きましたよ。自分の婚約者だと誇示するために、黄金のティアラをつけさせてるらしいって」
自分の婚約者だと誇示するために……。
やはり貴族以外の人も、私がマッジョルド殿下の婚約者だと知っているのね。
でも、極悪人だなんて噂までされているのは驚きだわ。
王族の悪口を言っていると知られたら、不敬罪に問われる可能性だってあるのに。
もうどうなっても構わないと開き直っているみたいに思えて、少し怖い。
『虐げられた王』のように暴君が滅びるのを望む思いがそれだけ大きいという事かしら。
マッジョルド殿下へ身辺に気をつけるよう伝えないと。
そう思っていたけれど、事態は私が考えていたよりも遥かに緊急だった。
夕食後、部屋で寛いでいたところに届いた暴動発生の知らせ。
王宮の一階部分で火の手が上がり。
その火は四階にあるマッジョルド殿下の居室へ向かって瞬く間に燃え上っていったという。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
【お知らせ】
読者様、いつも閲覧&しおり、お気に入り登録等してくださり、本当にありがとうございます。
クリフがアカリにイヤリング?何の事だっけ??と思われている読者様も多いですよね、ごめんなさいっっ。
26弟シャルマンのひとりごと、での話です。
亀更新のためだいぶ前に投稿した内容が出てくる事となり、大変申し訳ありません……。
0
お気に入りに追加
781
あなたにおすすめの小説
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
婚約破棄を望む伯爵令嬢と逃がしたくない宰相閣下との攻防戦~最短で破棄したいので、悪役令嬢乗っ取ります~
甘寧
恋愛
この世界が前世で読んだ事のある小説『恋の花紡』だと気付いたリリー・エーヴェルト。
その瞬間から婚約破棄を望んでいるが、宰相を務める美麗秀麗な婚約者ルーファス・クライナートはそれを受け入れてくれない。
そんな折、気がついた。
「悪役令嬢になればいいじゃない?」
悪役令嬢になれば断罪は必然だが、幸運な事に原作では処刑されない事になってる。
貴族社会に思い残すことも無いし、断罪後は僻地でのんびり暮らすのもよかろう。
よしっ、悪役令嬢乗っ取ろう。
これで万事解決。
……て思ってたのに、あれ?何で貴方が断罪されてるの?
※全12話で完結です。
闇黒の悪役令嬢は溺愛される
葵川真衣
恋愛
公爵令嬢リアは十歳のときに、転生していることを知る。
今は二度目の人生だ。
十六歳の舞踏会、皇太子ジークハルトから、婚約破棄を突き付けられる。
記憶を得たリアは前世同様、世界を旅する決意をする。
前世の仲間と、冒険の日々を送ろう!
婚約破棄された後、すぐ帝都を出られるように、リアは旅の支度をし、舞踏会に向かった。
だが、その夜、前世と異なる出来事が起きて──!?
悪役令嬢、溺愛物語。
☆本編完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~
浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。
「これってゲームの強制力?!」
周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。
※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。
88回の前世で婚約破棄され続けて男性不信になった令嬢〜今世は絶対に婚約しないと誓ったが、なぜか周囲から溺愛されてしまう
冬月光輝
恋愛
ハウルメルク公爵家の令嬢、クリスティーナには88回分の人生の記憶がある。
前世の88回は全てが男に婚約破棄され、近しい人間に婚約者を掠め取られ、悲惨な最期を遂げていた。
彼女は88回の人生は全て自分磨きに費やしていた。美容から、勉学に運動、果てには剣術や魔術までを最高レベルにまで極めたりした。
それは全て無駄に終わり、クリスは悟った。
“男は必ず裏切る”それなら、いっそ絶対に婚約しないほうが幸せだと。
89回目の人生を婚約しないように努力した彼女は、前世の88回分の経験値が覚醒し、無駄にハイスペックになっていたおかげで、今更モテ期が到来して、周囲から溺愛されるのであった。しかし、男に懲りたクリスはただひたすら迷惑な顔をしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる