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しおりを挟むメルヴェイユ王国へ来て七日目。
私の頭には、メルヴェイユ王国第二王子マッジョルド殿下から賜ったティアラが輝いている。
婚約の証に、とメルヴェイユ王国へ来たその日に渡された黄金のティアラ。
公式行事でマッジョルド殿下がかぶる冠とよく似合うようにデザインされたもの。
王宮内の噴水広場に集められた貴族たち、そこから見上げた所にある宮殿のバルコニーにマッジョルド殿下と並んで立たされた私は皆の注目を集める中でティアラを贈られてしまった。
噴水広場はかなりの広さ。集まっていた貴族もかなりの人数だったと思う。
だから今はもうメルヴェイユ王国の貴族は皆、私がマッジョルド殿下の婚約者だと認識しているはず。
もしかしたら貴族だけではなく、国民にも知られているかもしれない。
ティアラはマッジョルド殿下の婚約者である証として、毎日必ずつけておくように言われている。
先日の誕生パーティーの時にお会いした感じだと、マッジョルド殿下は話が通じない人ではなさそうだったのに。
婚約を大々的に発表するのは待って欲しいと伝えた私の言葉はマッジョルド殿下にまったく聞いてもらえなかった。
話が聞いてもらえない、と言えば誕生パーティーの翌日にマッジョルド殿下とふたりきりで話をしたはずのクルーフォス第一王子殿下のお姿はまだ一度も見ていない。
私がマッジョルド殿下の婚約者としてティアラを賜った時にもいらっしゃらなかったし。
あの日の夜兄弟で直接話をしても、結局ふたりが歩み寄る事は無かったという事かしら……。
もう一度ふたりで話をしてもらいたいけれど、その方法がまだわからない。
戦争回避に向けてマッジョルド殿下とクルーフォス殿下の仲を取り持ち結婚を先延ばしにしつつ、合い間にクリフの捜索ができたらなんて考えていたけど。
部屋から出ないように言われているからクリフを探しに行くなんて夢のまた夢の話。
今の私は結婚式に向けたスケジュールが決まるのを待つ事しかできない。
唯一の楽しみは、私のために用意された部屋でアカリ様の話を聞く事。
この部屋の中だけは自由に過ごさせてもらえるので、アカリ様とふたりきりでお茶を飲む事ができる。
部屋の雰囲気はソムニウム公爵邸にある自分の部屋とよく似ていて、居心地が良いのも嬉しい。
「お城の中、退屈なんで本を買ってきちゃいました。これ流行ってるみたいですよ。じゃん、『虐げられた王』! 読んだらヴェレッドお姉様にお貸ししますね~」
「ふふ、ありがとうアカリ様」
『虐げられた王』、タンティア叔母様はもう読み終わったかしら。
弟に幽閉されていた王が女神の祝福のキスで力を与えられ、悪政を行っていた王弟を滅ぼして荒廃していた国を救う話。
アカリ様は普段あまり本を読まないと言っていたけれど、この本は面白いのであっという間に読んでしまいそうですと嬉しそうな表情。
「この本に出てくる街並みと似た場所があるらしいんですよね~、今度行ってきてもいいですか?」
「もちろんよ。どんな感じだったか、後でアカリ様の感想を教えてもらいたいわ」
この国での生活を少しでも楽しんでくれているようでよかった。
城にほぼ軟禁状態の私とは違って、アカリ様には行動の制限がかかっていない。
だからなるべくストレスが溜まらないように、自由に過ごしてもらいたい。
「ぁ……そういえば今日、クリフ様に会いましたよ」
「ぇ、えっ、どこで!?」
アカリ様の言葉に驚きすぎて、思わず声が大きくなってしまった。
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