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しおりを挟む広間の高い天井で、巨大なシャンデリが繊細かつ複雑な光を放って煌めいていた。
その下では、華やかな色とりどりのドレスを着た淑女たちが、柔らかな羽のついた扇を手に歓談している。
彼女たちはそれぞれのドレスにあわせたアクセサリーを身につけていて、まるで色鮮やかな宝石箱のよう。
それだけではキラキラし過ぎていて目が眩んでしまいそうなところを、男性の礼服が差し色となり全体として広間は格調高い雰囲気に包まれていた。
女性たちは身につけている物を褒めあい、殿方は商売や領地についての近況を探り合い、夜会が始まる前の会場はいつものようにガヤガヤと賑やかになっている。
その喧噪も、陛下が現れると水を打ったように静かになった。
陛下の挨拶の後、父を含む三大公爵家からの話があり、陛下と王妃のダンスが披露される。
その次は、モフィラクト王太子殿下と婚約者である私のダンス。
皆の前で踊るのは少し緊張するけれど、クリフとの練習の成果もあって殿下に迷惑をかけることなく無事に踊り終えることができた。
第二王子のクンベル殿下にはまだ婚約者がいないので、このあとはいつも皆それぞれダンスをする流れとなる。
でも今回は、隣国メルヴェイユ王国の第二王子であるマッジョルド様がいらしているので、私が彼のファーストダンスの相手をすることになっていた。
マッジョルド様が手を差し出したので、淑女の礼をしてから手を伸ばす。
音楽にあわせてマッジョルド様とともにステップを踏み、クルリとまわる。
ターンをする時に、チラリとマッジョルド様の顔が目に入った。
とても、凛々しい顔。
短い黒髪はツンツンと立てていて、全体的に男らしい雰囲気でいらっしゃるのに、青い瞳はほんの少し憂いを帯びているように感じられた。
気のせい、だろうか?
……いえ、気のせいではないかも。
ゲームでのマッジョルド様は、王になりたくて自分の兄を殺した罪悪感を持っている設定。
今の世界では兄である第一王子は亡くなっていなくて、マッジョルド様が幽閉してるかただ単に病弱で寝たきりからしいけど。
何かしら第一王子関係で思うところがあるのかもしれない。
ゲーム、か……。
私とのダンスの後、ちょっとした事がきっかけでマッジョルド様の方からアカリ様をダンスに誘うのよね。
ちょっとしたきっかけ……
…………
…………
それって、何だったかしら?
でも、そのフラグを覚えてなくても、クリフがアカリ様を引き留めてくれてダンスに間に合わなければ、きっと大丈夫よね。
クリフ、頼んだわよ。
「婚約者の事でも考えているのか?」
踊りながら、マッジョルド様が話しかけてきた。
まわりには聞こえないくらい、小さな声で。
「あなたの婚約者は、随分と独占欲が強いのだな」
独占欲……?
モフィラクト王太子殿下が??
目の前の美丈夫が、僅かに意地悪さを含んで笑う。
周囲からは、ただ微笑んでいるようにみえるだろう。
「何のことですか?」
「とぼけるな、その左耳のイヤリングだよ」
左耳のイヤリング??
…………
…………
…………あ!
私、大事なことを忘れていた――!
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