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「せっかく女に生まれたのだから魔法を極めておけ。剣術の方は俺に任せておけばいい。将来騎士団長になって王妃となったお前を守ってやるから」


 ポンポンとサブルスに頭を軽く叩かれた。
 再び周囲からキャァ♡と上がる嬌声。

 この世界で魔法を使えるのは女性だけ。出産と魔法は女性だけに与えられた特権だと言われている。
 魔法と言ってもバトルで大勢の敵を一度に倒したり世界を滅ぼしたりできる訳ではないの。
 家事をする時に、家電代わりに使うことが多かったりする。

 あと軽微な怪我なら治すこともできるわ。他人限定だけど。
 魔法は自分に対してかけることができないのよね。

 スッと頭からサブルスの手を払う。


「守っていただかなくて結構よ。もし守るなら、私ではなく国民を守ってちょうだい。でも本当にもしもの時は、自分の命を第一に考えて逃げるのよ。それは卑怯でもなんでもないから」

「はは、それなら逃げる練習もしておかないとな。有事の際はお前を担いで逃げるかもしれないから、今より重くならないように気をつけろよ」

「もう、失礼ね」


 ハハハ、と笑うサブルス。
 いつもこうして、私をからかって楽しんでいる。
 きっと私のこと、苛めたくなるくらい疎ましく思っているんだわ。

 でも……。
 疎ましく思われている事に変わりはないけれど、きっともう私を切り殺すことはないわよね?
 ゲームの時のように、俺の事を弱い臆病者と長年蔑んだ罪は重いとか、アカリを守るためにお前を斬る、とか言って。

 何かを思い出したように、サブルスがおでこに手を当て、あちゃぁ、という感じの表情をした。


「悪い。ハンカチ貸してもらってもいいか? これから汗かくのにタオルを忘れてしまって」

「いいわよ。ハンカチ2枚持ってるし」


 ポーチからハンカチを1枚出して、サブルスに渡す。


「ありがとな。汚してしまうから新しいもので返すよ。今度一緒に買いに行こう」

「気にしなくて大丈夫よ。そのまま返してくれて構わないわ」


 少し困ったように苦笑いするサブルス。
 大丈夫だってば。汚れは洗えば落ちるし、汗臭ッ、とか思ったりしないから。
 そういう臭い、剣道で慣れてるから。


「姉様~♡」


 声のする方を振り返ると、パタパタと駆け寄ってくるシャルマン。
 可愛い弟が、ギュッと私の身体に抱きついてきたので受けとめる。

 キャァア♡とひときわ高い歓声があがった。
 入学したばかりのシャルマンにファンクラブができているとクリフから聞いていたけど、本当だったのね。


「おい、今お前の弟、凄い顔で俺を睨んでアカンベェしたぞ」

「シャルマンがそんなことするはずないじゃない、ね?」

「うん、僕してないよ、姉様」


 クリッと大きな瞳で私の顔を覗き込むシャルマン。ふふ、可愛い。
 引きこもることなく育ってくれてよかった。
 シャルマンルートも閉ざされたと思って大丈夫、なのかな?
 ゲームみたいに私のこと監禁したりもしないわよね?


 そんなことを考えていたら、ベリッと引き剥がされるようにシャルマンの身体が私から離れた。


「シャルマン様、もうすぐ授業が始まります、行きますよ。私が剣のお相手をしますから」

「ええ~。僕入学して初めての剣術なのにいきなりクリフが相手って、難易度高すぎじゃないの~?」


 口を尖らせるシャルマンの言葉をスルーして、クリフはサブルスに話しかける。


「サブルス様、私予備のタオルを持っておりますので、どうぞこちらをお使いください」


 そう言ってサブルスの手からスッとハンカチを抜き取り、代わりにタオルを載せた。
 そして私の手にハンカチを握らせる。


「魔法の授業は同じグラウンドで行われるとはいえ奥側です。そろそろ向かわれた方が良いのでは、お嬢様?」


 そう、今日は貴族、執事、侍女クラスも学年も関係なく男女に分かれてグラウンドで行われる初めての合同授業。

 私も行かなければ、アカリ様と一緒の授業を受けるために。

 この魔法の授業は、モフィラクト王太子殿下とアカリ様が親密になる重要なイベントなのだから。



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