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ネージュ様

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 コツ、コツ、と上の方から響いてくる靴音。

 見上げると、王宮のエントランスから上階へとつながる階段を、神々しいばかりのオーラを纏った女性がおりてくるところだった。

 ほぅ……と、感嘆のため息をついて眺めてしまう。

 凛としたお姿からは、一国の王太子妃としての威厳と気品がひしひしと伝わってくる。

 おそらくネージュ様は、小さな頃から人前での振る舞いについて教育を受け経験を積んできたのだろう。
 ここまでの品格を身につけるには、きっと並外れた努力をしてきたはずだ。

 僕の姿を見て、「来てもらってごめんなさい。ミチェーリが泣き止まなくて」とオロオロしていたネージュ様とは別人のよう。
 でもその可愛らしい慌てぶりは、経験不足からくるものに違いない。
 ネージュ様ならミチェーリ様の成長に伴ってご自身も素敵な母親になっていくんだろうな、とこんな状況にもかかわらず呑気に考えてしまった。

「デュオンがバラ園の掃除をしていたのは本当よ。最初から最後まで私が部屋からずっと見ていたもの。財布も捨てたりなんてしていない、間違いないわ」

 シン、と皆が静まり返る。
 その沈黙を破ったのはフォッグ様だった。

「しかし、ミチェーリ様の部屋からバラ園は見えないではないですか。お世話係として部屋へ伺う事があるので、僕は知っていますよ!」

「ミチェーリの部屋から見ていたのでは無いわ。私の部屋からはバラ園が見えるの。私を疑うのなら、部屋へ来て確認してもらっても構わなくてよ」

 ぐ……と小さく唸るフォッグ様。

 僕が掃除をする様子を眺めている必要なんて、ネージュ様には無い。
 だから部屋から見ていた、というのは僕を庇うためについたネージュ様の優しい嘘だろう。

 それでもその効果は大きくて。
 ルフトエア公爵へ報告するという言葉を、フォッグ様は取り消してくれた。

 その事も嬉しかったけど。
 ネージュ様が僕の味方をしてくれたことが、もの凄く嬉しい。
 鼻の奥がツンとして、少しでも油断すると涙が出そうだった。








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