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遠い存在
しおりを挟む目が覚めたのに、身体が動かない。
別にフォッグ様に蹴られた所が痛いから、とかではなくて。
ふわふわの布ごと僕を抱き枕にしているような感じで、レイン様が僕の身体を抱きしめているから。
布団のような布がクッションの役割を果たしてくれているから、抱きしめられていてもフォッグ様に蹴られてできた痣は痛くない。
ただ動けないだけ。
そんな僕の頭を、上半身を起こしてベッドに座っているクラウド様が撫でている。
起き上がれない僕はベッドで横になったまま目線だけ上げて、クラウド様の顔を見つめた。
僕に向けられているクラウド様の視線は、まるで大切な宝物を眺めているかのよう。
目が合うと、クラウド様は優しく僕に微笑んでくれた。
「たくさん声を出したから喉が渇いたかもしれないね。いま果実水を持ってくるから、ここにいて」
っ、たくさん声を……ッ
はしたなく喘いでしまったからだ……。
恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。
僕が悶えていたら隣で横になっていたレイン様が起き上がった。
「お腹も空いただろう。何か食べるものも用意してくる」
「ぁ、僕が用意します。レイン様にしていただくわけにはいきません」
「デュオは寝てろ。まだ身体が怠いだろうから」
まだ身体が怠いだろう、というレイン様の言葉で目が覚める前の行為を思い出してしまい顔が熱くなった。
僕がベッドの上から一歩も動いていないのに、ベッドから見える所にあるテーブルの上には果実水とパンとスープと果物が用意されていく。
準備が終わったのかレイン様は僕の事をヒョイと横抱きにするとテーブルのそばにある椅子に座った。
なので僕は椅子に座るレイン様の上に座っている状態。
慌ててどこうとしたけれど、クラウド様が果実水を注いで僕の目の前に差し出してくれたので立ち上がるタイミングを逃してしまった。
クラウド様にお礼を言って、果実水を飲む。
爽やかな酸味と適度な甘味が、乾いた喉を潤してくれた。
「デュオ、口を開けて」
飲み終わったので今度こそレイン様の上からどかないとと思ったけれど。
一口大の大きさにちぎってスープに浸したパンをレイン様が口元にもってきてくれたので、またタイミングを逃してしまった。
僕はミチェーリ様のお世話係として王宮に来たのに、なぜかレイン様に食事のお世話をされている。
いいのかな。
僕が食べている間、茶器などが置いてある場所やお風呂やトイレの場所など、クラウド様が室内の説明をしてくれた。
部屋に備えられているため廊下に出ないでお風呂へ行ける事に驚きながらクラウド様の説明を聞く。
結局最後まで、レイン様の膝の上で自分の手を動かすことなく食べさせてもらった僕。
「ごちそうさまでした、美味しかったです」
正面の椅子に座るクラウド様からジッと見つめられた。
「喉が渇いていたりお腹が空いていたから顔色がすぐれなかったのかと思ったけれど、どうやら違うようだね」
「ぇ……」
「身体の疲れとも違いそうだし、心配事でもあるのかな。デュオン、この部屋は安全だから何も心配する事は無いよ」
もしかしたら、僕の痣の原因をクラウド様は分かっているのかな。
この部屋にいたらきっと、痛い目にあう事は無いと思う。
だけど……
「そ、その事なんですが、僕はやはり、この部屋では暮らせません」
「なぜかな、デュオン?」
「ミチェーリの部屋も同じ階だ。仕事をするにも近くていいぞ」
「ぇ、ミチェーリ様のお部屋も、この階にあるのですか?」
この部屋に来る時はレイン様に抱っこされた事で動揺してあまり周りを見ていなかったから、ミチェーリ様のお部屋と同じ階だと気づかなかった。
「そう、シュトルムの部屋もだよ。王太子の居室と同じフロアで警備も万全だから、デュオンにはここで過ごしてほしい」
とんでもない事だ。
平民の僕が王族と同じフロアで暮らすなんて、許されるはずがない。
いや、平民じゃなくて貴族だったとしても許されないだろう。
王太子殿下は、国にとって特別な存在だから。
あれ、でも……
確かこの部屋の両隣に、クラウド様とレイン様の部屋があると言っていた。
「宰相と騎士団長という立場だから、おふたりの部屋もこの階にあるのですか?」
「レインと私は臣籍降下しているけれど住む場所を変えていないだけで、宰相と騎士団長だからこの階に部屋がある、という事ではないんだ。」
「変えていない……?」
「そう、生まれた時からずっとここに住んでいる」
そういえば、先ほど王太子殿下の事を呼び捨てにしていた。
お二人はそれが許される立場なのだろう。
「クラウド様とレイン様は、元々王族の方なんですか……?」
「そうだよ、かつては王位継承権を持っていたけれど、私たちが臣籍降下したから今は弟のシュトルムが王太子になっている」
王太子殿下とご兄弟で、王位継承権を持っていた……
平民の僕とは、立場が違い過ぎる。
二人の事が、前世の怜よりも遠い存在に思えた。
一緒にいたいと思っても障害が多くて、いつか離れる事を余儀なくされるのだろう。
失うくらいなら最初から、そばにいない方がいい。
やっぱりこれ以上、ふたりに近付いちゃいけない。
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