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バレなければいい(スデーションタ視点)

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 俺がシブツリトー侯爵家当主となって数日後、ラカスデギサ商会の男が俺を訪ねてきた。
 上の兄である王太子殿下に紹介されてから、城でも何度かふたりきりで会ったことのある男。

 今までシブツリトー侯爵家とは付き合いが無かったようだが、城に出入りするような商会だ、これからは侯爵家当主として懇意にしてやってもいいかもしれない。

「スデーションタ殿下、ああ、今はシブツリトー侯爵でしたな。このたびはご結婚、誠におめでとうございます」
「うむ。こうなったのもお前のおかげだ」

 感謝している、と続けて述べようかと思ったが躊躇してしまった。
 感謝できるような嬉しい状況なのか、自分でも分からなかったから。

「私が言った通り公衆の面前で宣言したおかげで、先延ばしにされること無くすぐに婚約破棄できたでしょう?」

 ああ、と頷く。

 ノナーニュービとの婚約破棄について助言してくれたのは、この男だ。

 商人という仕事柄か話術が巧みで、ふたりきりで話しているうちに胸の大きい女性と結婚したいという本音を引き出された。

 例えばどなたのような、と聞かれたから当時もっとも胸が印象に残っていたネムセーニの名を告げる。
 ドレスを脱ぐ前のネムセーニの胸は、柔らかくて立派な谷間もあって、それはそれは魅力的なオッパイに見えたから。

 そうしたら「ノナーニュービ様と婚約破棄してもスデーションタ殿下がシブツリトー侯爵の立場を失わない。ネムセーニ様はスデーションタ殿下の理想の女性かもしれませんねぇ」とアドバイスされた。

 その言葉を聞いてから、ますますネムセーニが魅力的に思えてきて。
 その後もこの男の話の通りにしていたら、いつの間にかネムセーニと付き合うようになっていた。
 そうして今に至る。

「あなたは希望通り、ネムセーニ様と結婚できた。でも、おかしいですねぇ、どこか満たされていないように見受けられます。私でよければ、話を聞きますよ」

 そう言われて、大きいと思っていたネムセーニの胸が実は偽物で、夜の営みに満足できていないと話した。
 ついつい話してしまったのは、この男は商人だから、もしかしたら夜の営みに役立つ品を紹介してくれるかもしれないという期待もあったのかもしれない。
 だがこのラカスデギサ商会の男が紹介してきたモノは、俺の想像を遥かに超えていた。

「ああ、ではそういった行為のできるお店をご紹介しましょう。性交渉専門の、ね。胸の大きな女性がたくさんいるところですよ。しかも追加でお金を払えば複数の女性を同時に呼べます」

 ゴクリ、と喉を鳴らしてしまう。
 胸の大きな女性がたくさん……
 いや、しかし……

「結婚後に不貞行為をしたら王族出身の貴族といえど罪に問われる。見つかったら侯爵の立場を失うことになるだろう」
「そうですね、見つかったら大変な事になります。だけど、バレなければいいんです」

 不貞行為は重罪だ。
 この国では絶対に許されない……が……。
 バレなければ、いい……?

「バレてないだけで皆やっていることですよ」

 皆やっている……?
 俺だけじゃ、無い……

「私は王室にも出入りしている商会の者ですからね。その私が紹介する店です。信用してください。絶対に大丈夫ですから」
「いや、しかし……」
「ああ、無理を言って申し訳ありません。そのお店を紹介できる人数枠があとおひとり分だけしか無かったもので、親しくしていただいている貴方のためについ強引にお勧めしてしまいました」

 あとひとり分だけ……?

「今日はこのあともう一軒伺うところがありますので、そちらで訊いてみますよ。今の話はどうか忘れてください」
「ま、待ってくれ……」

 帰ろうと腰を上げた男にむかって、慌てて声をかけた。





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