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一任

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 妻のスマテレナ王太子妃殿下にパーティーの対応を任せ、イーチュスエド王太子殿下は婚約破棄騒動の関係者を別室に呼んだ。

 この部屋にいるのは私の他に、陛下と王妃、イーチュスエド王太子殿下とスデーションタ第三王子、私の両親と妹、そして王家の護衛騎士が2名。

 陛下がいらっしゃるにもかかわらず、この場はイーチュスエド王太子殿下が取り仕切ることになった。

 スデーションタ第三王子とは違い、冷徹で冷酷だと言われることの多いイーチュスエド殿下。

 優秀でもあり、陛下でさえ一目置いていらっしゃるお方。
 陛下よりも優れているとは、不敬だから誰も口に出す事は無いけれど。

 眉目秀麗な顔に冷たさを感じさせる表情で、イーチュスエド殿下は淡々と話し始める。

「では、先ほどのスデーションタの発言を振り返ろう。婚約破棄を希望する理由は『お前なんかよりも魅力的なオッパ……女性に出会ったからだ。俺はネムセーニと結婚する』だったね」

 ブフッと吹き出す声が上がった。
 声の主は、王太子殿下の護衛騎士で私の幼馴染でもある、ヨダンリッゼ・リアナミタス伯爵令息。
 
 ソファに座るイーチュスエド殿下が、すぐ隣に立つ護衛騎士をチラリと一瞥する。
 まるで何事も無かったかのように、護衛騎士……ヨダンリッゼはビシッとした姿勢と表情で、まっすぐ前を向いていた。
 でも心なしか、笑いを堪えているような感じがする。

 恥ずかしくて、顔が熱くなってしまう。
 改めて聞いてみると、スデーションタ殿下がオッパイと言おうとしていたことに気づいてしまったから。

「さて……この発言を受けて、ノナーニュービ嬢、何か言いたい事はあるかな?」

 オッパイ、オッパイ……とおかしな単語が頭をグルグルしていたけれど、イーチュスエド殿下に話しかけられて正気に戻った。

「発言の機会をありがとうございます。イーチュスエド王太子殿下、この度はお祝いの会の場をお騒がせしてしまい、大変申し訳ございませんでした」

 深く頭を下げてお詫びする。

「そんな事は構わないよ、ノナーニュービ嬢、頭を上げて。お祝いの会と言っても誕生日は一週間も前に過ぎているし、公式なお祝いの会は国内外を含めてニ日前に終わっているからね。今日はごく内輪の小さなパーティーだから、多少の騒ぎはどうとでもなる」

 そうは言ってもそこそこの規模のパーティーだった。本当にとんでもない事をしてしまったと思う。

「婚約破棄についての意見を、聞かせてもらえないだろうか」
「それは……この婚約は個人の意見で決められるものではありませんので、陛下のご意向に従います」
「そうか。では王命であれば自分ではなく、ネムセーニ嬢がスデーションタと婚約しても構わないと捉えて差し支えないかい」

 はい、と頷く。
 侯爵家に生まれたんだもの。物心ついた時から、婚約についてどうこう言う自由は無いと知っている。

「陛下、今回の件については私に一任していただいてよろしいでしょうか」

 イーチュスエド殿下の提案を、陛下が頷いて認めた。





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