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2.ガイアでの暮らし

晩餐会2

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 「私の部屋、ここ」

 ジゼルさんの部屋は女性の部屋らしくない、質素な部屋だった。

「私が来た時、娘ができたみたいって皆喜んじゃって、ほら、ここ男兄弟しかいないじゃない?あの王様と王妃様達方にぬいぐるみやら、可愛らしい雑貨とかたくさん頂いたんだけど、あまり趣味じゃなくて孤児院に全部あげちゃったの」

 クローゼットの中を漁りながら話す。体の線が分かるようなシンプルで装飾がない服ばかり。今流行りのフリルや、リボン、スカートの中をパニエで膨らませて着るようなドレスは一着もない。

「あなたが来るのが分かってたら、取っておけば良かったわ」

 淡々と話すジゼルさんに、素直な疑問をぶつける。

「ジゼルさんはどうしてここへ来たの?」

 ジゼルさんの手が一瞬止まって、言い淀む。その姿からはクールなジゼルさんからは似つかない動揺が見えた。
 瞬時に聞いてはいけないことだったと気付いて、あたふたしていると言葉を選ぶようにして口を開いた。

「……グレンに連れてこられたから」

「え?」

「あの王様、可哀想な子見つけるとすぐに拾ってきちゃう悪い癖があってね。第一王妃様以外の奥様方は皆どこかで拾ってきたそうなんだけど。それに似たのか、第一王子のグレン様も可哀想な子を捨ておけない人で、それで5年前拾われたのが、私」

「彼が17で私が12位だったかしら?ただのみすぼらしいガキ殺した方が楽だったろうに。暴れる私を抑えつけてここに無理矢理連れてきたの」

「兵士でもあるけど、家族ごっこの一員にされてる。まだ、幼いのにお母さんもお父さんもいないのは可哀想だって。あなたも、そうよ。今日からこの家族ごっこの一員になったの」

 抑揚なくサラサラと話してくれたけど、どうして女の子なのにあんなに強いのか、強くならざるをえない環境で生きてきたのだろうか。みすぼらしい、なんて今のジゼルさんからは想像もつかない。

 奥のタンスの下から引っ張り出してきた紺色のワンピース。ジゼルさんが昔着ていたものだろうか。
 それを私の体に合わせ、うーんと唸る。

「着丈長くなるわね。あぁ、これだとちょうど良いかも」

 そしてもう一着引っ張り出したのは白いワンピース。

「コルセット外すわよ」

「良いのですか?」

 メイドさん方にコルセットは上流階級のレディーの嗜みと教わったばかり。

「えぇ、王様が私を指名した時点で、これを外してやりなさいという意味だったから」

 コルセットのきつい紐が解かれ、腹の底から息を吸って吐いた。凄まじい解放感。
 白い膝丈のワンピースに着替え、後ろのリボンをジゼルさんが結んでくれる。


「でも良かった。ちょうど2人きりになれて」

「え?」

 近くで見つめられドキっとする。月明かりに、照らされた顔は本当に綺麗。長いまつ毛、ツンと高い鼻、薄い唇。陶器のような白い肌。
 何より彼女の特徴として一番目を引くのは、やはり瞳の色。右目はレモン色、左目は空気が澄んだ日の空色。猫のような目尻が少し上がった目で私を見つめる。

 さっきの王妃様方の、たじろぐような艶やかさや華やかさとはまた違う。2色の瞳は、ぽうっと暗い洞窟に浮かぶように光を放つ宝石のよう。なんというか、神秘的というか。


「瞳の色が珍しい?」

「い、いえ!なんだか宝石みたいで綺麗で」

「私の国でも綺麗な瞳の色をした人が多くて。でも私の目の色は、あまり綺麗じゃないから。沼底の色みたいって言われてて。だから羨ましいなって」

 自嘲して誤魔化すように苦笑いする私を、全身鏡の前に連れて行く。月明かりに照らされた鏡に私とジゼルさんが映り、思わずそこから目を逸らした。
 スタイルも顔の造形も比べるには怖い位残酷な差。そんなの直視できる訳ない。

「鏡見て、あなたの瞳の色、何色に見える?」

 そんな縮こまる私に容赦なく顔を鏡に向けさせる。

「暗い青緑?」 

 そこに映るのはいつも、フェンリルでバカにされてきた沼底の瞳の色……とは、少し違って見えた。月の光が入って、澄んだ青やエメラルドグリーンに見える。

「光の加減で色味が変わるあなたの瞳とても奥深くて綺麗だと思う。それに不思議なの、レオとキスしてた時のあなたの瞳は赤紫色っぽく変わって今とは対照的な色味だった」

「赤紫?」

「前に遠征先の露店で見た二色に変わる宝石みたい。店主に欲しいと言ったけど、すごく希少なもので売り物じゃないって断られたわ」

 綺麗、と言われるとなんだかこそばゆい。そういえばレオさんもあの時褒めてくれたような。私を元気づけようとしてくれたのかもしれないけど、嬉しかった。

「あなたは綺麗よ、前の国で言われたことなんて忘れてしまいなさい。呪いのように植え付けられた偏見や先入観よりも、あなたやあなたが信用する人のことを信じた方が良い」

 
 綺麗な白黄色と水色の瞳が、鏡の向こうからまっすぐ私を捉える。なんだか今までの辛かったことが、浄化されていくようで涙が出そうになった。

 この国へ来て良かった。浄化されているのは私の方だ。

「ありがとうございます」

  
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