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2.ガイアでの暮らし
ハイデラとライオネル
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「イヴ、迎えにきた」
「は、はい」
唐突にやって来たレオさんに、恥ずかしくて思わずアマンダの影に隠れてしまった。慌てて髪の毛を直し、小声でアマンダへ尋ねる。
「ど、どうしよう、私変じゃないですか?」
不安がる私に、にっこり微笑むアマンダ。エイミーもナターシャも、ケイトも笑っている。
「大丈夫、大変お可愛らしいですよ」
「ほら、行ってらっしゃいませ」
「不安なら、アマンダがおまじないをしてあげます。昔、小さな子によくやってあげたのだけれど」
そう言って、私の手のひらに指で文字を書いた。飲み込んでと言われ、そのまま飲み込む。
「勇気の出るおまじないです」
「メイド達と随分仲良くなったようだな」
アマンダ達との一連のやり取りを見ていたレオさんがほっとしたように言う。馬車の中で話せなくなっていたのが気がかりだったのだろう。
「は、はい、皆いい人達でした」
メイドさん方と別れて、レオさんのあとをついていく。後ろから見上げる体は、軍服の上からでも分かる程引き締まり、身長は180以上ありそうだ。
私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれる。良かった、緊張はするけど言葉は出てくる。相変わらず威圧感はすごいけど、さっきのメジャー事件のおかげかちょっとずつ慣れてきている気がする。
「16とは、すまなかった。もっと幼いかと思っていた」
「いえ、とんでもない。これから、頑張って大きくなりたいと思います」
頑張って大きくなる?という私の言葉に、疑問符を浮かべるレオ様。
アマンダは身長も胸も、これから大きくなると言ってくれた。彼に釣り合うように、これからどんどん成長したいのだ。
「あぁ、でも、今のままで十分愛らしいがな。そのドレスもよく似合ってる」
「あ、あ、ありがとうございます。あの、これからどちらに?」
「うちの宰相に会わせる。あと騎士団長と」
「は、はい!」
「まぁ、国のことで悩んでる奴らだよ」
今日は、城内の端から端まで歩いた気がする。途方もなく広いこのお城。メイドさん達がたくさんいるっていうのも納得できる。
宰相がいるという部屋へ着くと、部屋の中には、大きな木製の年季の入った机があり、その机はたくさんの書物で覆い尽くされていた。
壁一面の本棚に陳列されている分厚い書物達を、片手に抱えながら片付けているおじいさん。白いローブに綺麗な白髪と品良く整えられた白髭が印象的だ。私の姿を見るなり「おぉっ」と感嘆の声を漏らし、目を輝かせながら近寄って来た。
「この方が、新生聖女様。今世界で現存する唯一の聖女様
にお会いできて光栄であります」
「とんでもありません。私もお会いできて嬉しいです」
「私は、ハイデラと申します」
そう言って私の手を握り、ぶんぶん振って握手する。
そしてもう1人、年季の入ったテーブルの横に立っていた彼。見るからに百戦錬磨の騎士と分かるような分厚い体と、精悍な顔には勲章のような刀傷の跡がある。3人の王子達の体も引き締まっているが、彼は更に大きく感じた。
「はじめまして聖女様。私はライオネルと言います。ガイアの騎士団長を務めております」
ハイデラさんの挨拶が終わってから、差し出されたこれまたでかくて分厚い手。傷も何箇所かある。私の手の3倍はありそうだ。
握手すると岩のように固くガサガサした皮膚にびっくりする。
「王子達より報告を受けたのですが、歌の力で民の命を救ったと聞きました」
目をキラキラさせながら、私を見つめるハイデラさん。
「どんな歌なのでしょうか。良かったらお聞かせくださいませんか?」
「厚かましいな」
呆れ顔のレオさんとライオネルさんに、どうかお願いしますと頼み込まれる。
「どうか冥土の土産に」
そんな大袈裟な、思わず笑みがこぼれる。ワンフレーズだけ、あの時歌った聖なる雨音を口ずさむ。ほぉ、と惚けるように聞いてくれるハイデラさん。
「ご要望があれば、いくらでも歌います。この歌は、雨の聖女の歌としてフェンリルでは伝えられていました」
「雨の聖女?」
「はい。聖女にも何種類か存在したようです。他に風や花、月や太陽などの歌があります」
「ほう、それは興味深い。歌によって得られる効果が違うのでしょうかね?」
「それがよく、わからなくて。実は、あの時、自分の力というより誰かの力を借りたような感じでした。歌っている途中から意識を取り戻しましたが、どうして雨の歌を歌っていたのかも分かりません」
「なるほど」
「おそらく。今また同じように歌の力を使えと言われても、多分できないと思います」
「自分自身の力というより、周りの誰かの願いや祈りを自分に集約し歌として力を放出して叶える。大体、そんなイメージに近いでしょうか?」
「はい。だけどそれ以外にも、私が強く念じたり願ったりしたことが現実になったことがあって。変な力を持っていると自覚してからは、怖くて、上手く言葉が出にくくなりました」
馬車で声が出しづらくなっていたのは、緊張ももちろんあるけどまた無意識に誰かを傷つけるのが怖かったから。
何も考えたくなくて、自分のおかれている状況もちゃんと理解できなくて不安でいっぱいだった。
ちょうど猛烈な睡魔に襲われて良かった。
「……」
「で、でもメイドさん達のおかげでだいぶお話できるようになりました」
押し黙るレオさんに心配をかけたくなくて、慌てて弁明する。突然、異国の地に来て心細かったけど、メイドさん達の明るさに癒された。
心配そうに見下ろされながら、私の頭をくしゃっと撫でた。触れられた頭がじんじん熱くなってきて、やがて頬にその熱がおりてきて、顔からプシューと湯気が出たような熱気。おそらく真っ赤であろう顔を隠すため俯いた。
そんなやり取りから一間置いて、ハイデンさんがゆっくり語り始めた。
「……昔、なんでも願いごとを叶えてくれる願望機が存在したといいます。今のイヴさんはまだ、不完全な状態なのかもしれません。きっとまたどこかで、その力は進化するでしょう」
「進化、ですか」
「大丈夫、君に似て優しい力です。人を傷つけることを何より恐れている。怖がらなくて良いんです」
優しく微笑むハイデンさん。言葉一つ一つが胸にすっと沁みるよう。目元に皺が寄るその顔はどこかで見覚えがある。
あぁ、神父さんだ。思いやり溢れる温かい人柄が似ている。
「あとは浄化の力ですね。口づけをすると狂人化が改善したと聞きました」
「あぁ、他に良い方法はないか。毎回これでは彼女が可哀想だ」
「えぇ、分かっております。調べていきましょう。今なお苦しんでいる兵士達を救うためにも」
他にも、レオさんのような人がいる?咄嗟に大きな声が出た。
「もし、助けられる人がいるならお力になりたいです!」
「なっ「えぇ、良い方法を探しましょう」
レオさんは困ったようなちょっと怒ったような複雑な顔をしながら即座に言い返そうとしたところ、ハイデンさんに遮られた。
やれやれといった表情のレオさん。何か機嫌を損ねるようなことを言ってしまったのか心配になる。
「おや、そろそろ夕食の時間じゃないですか?イヴ様お化粧直しは大丈夫ですか?」
「あ、化粧直しする程していませんので」
「いやいや緊張なさるでしょう、今日はこの国に到着してから目まぐるしいスケジュールだったと聞いています。夕食の前にお茶でも飲んで、ごゆるりと休憩されて下さい」
そう言ってドア付近に立っていたメイドさんに目配せする。
「どうぞ、こちらです」
彼女に促されるまま部屋を出た。
化粧直しはいらないけど、気遣ってくれたんだな。この国の人達は皆、紳士的で優しい。
なんて、この時の私は、残された部屋で皆がどんな話をしていたかなんて気にもかけなかった。
※※※
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