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2.ガイアでの暮らし
新しい自分2
しおりを挟む激震が走り、未だしんと静まり返る空間。これでは、おじいさんはもちろん、レオ様にだって採寸なんてできっこない。
そんな中、おずおずとメイドの1人が手を挙げた。
「僭越ながら、私実家が仕立て屋を営んでおりまして、採寸位ならできます。よかったら、私に任せて頂けないでしょうか」
「あ、あぁ、頼んだ」
「それでは男性陣は外で待たれるようお願い致します」
そう言われ締め出されたレオ様とおじいさん。そのメイドさんは、メジャーをぴっぴっと素早く私の体へ合わせて、148!85!59!と数字を言いながらメモしていった。
波乱の採寸も、なんとか無事に終える。
「今度きちんと体に合ったドレスを作ってもらいましょう。何かご希望はありますか?好きな色や好きなデザインなど」
「ドレスはよく分からないのですが」
「では好きな色は?」
好きな色と聞かれ、フェンリルの彩り鮮やかな花園を思い出す。空、雲、木、葉っぱ、色々思い返してやっとピンとくるものがあった。
それはあの人の瞳の色。黄色、金、じゃなくて。あ、琥珀色。
「こ、琥珀色が、好きです」
「琥珀色ですか?珍しいですね」
そして、すぐに気付く勘の良いメイド衆。そう、レオ様の瞳の色だ。バレているとは気付かず、今日一番の微笑みを見せる彼女にほっこりする面々。
「今日はもう間に合いませんので、準備したドレスからお好みのものを選んでください」
クローゼットの中にずらっと並ぶドレス。
「どれがよろしいでしょうか?」
「髪色が銀髪、瞳の色がブルー系だから、寒色系がお似合いかと思うのですが」
「そうですね、白と水色のドレスなんて清楚で可愛らしいかと」
「いえ、ピンクだってお似合いになりますよ」
私の体へドレスをあてがいながら選ぶ。準備してもらったドレスはどれも品があり高そうなものばかり。
水色、ピンク、赤、黄色、緑、また水色、一巡して二巡三巡、メイドさん方があーでもない、こーでもないと言い合ってる。
「し、白と水色のドレスにします!」
こうして、やっと決まったドレス。ふう、と一息つくも次に出てきたのは靴やらアクセサリーやら髪飾りなどが目に入り一瞬、気が遠のく。
またメイドさん方の論争が勃発しながらも、全てのアイテムを決定することができた。
全て試着した姿に、本当に、お可愛らしい、と褒めてくれる面々。部屋の外で、ほとんど出番なしだったおじいさんもちょっと大袈裟な位手を叩きながら称賛してくれる。
怒涛のようなドレス選びが終わり、ようやく全て終えたと思ったら、次はテーブルマナーです、とまた部屋を移動して慌ただしく連行された。
皆のシャツのように皺一つない白いクロスが敷かれたテーブル。その上には、様々なサイズのスプーンやフォークやナイフが置かれていた。
「カトラリーは外側から順に使ってください」
「はい」
「お料理は全て食べなくてよろしいです。王とのディナーに初めてのコルセットで食事を楽しむどころじゃないでしょう。食べづらかったら少し手をつけて、このように、ナイフとフォークを皿の右下に揃えて置いてください。給仕が片づけてくれます」
その説明に、今日初めて素直に返事できず戸惑う。そんな自分に、あぁそうですよね、といって説明を付け足してくれるメイドさん。
「もったいないと思っても、第一王妃様の前で粗相をするより下げてもらった方がよろしいです」
「えっと」
「えぇ、あなたがおっしゃりたいことは分かります。作ってくれた人に申し訳ないと思うのが当然、しかしここでは体裁が1番大事なのです」
文化が違うというのは大変だ。恥をさらす位なら、食べ物を残せというのはなんとも受け入れ難い。
うーん、と真剣に悩んでいると、メイドさんが私の肩にぽんと手を置いた。
「イヴ様、最後に髪の毛も切り揃えましょう」
「前髪長いのも良いですが、目が綺麗だから思い切って切っちゃわないですか?」
メイドさん達が、気軽に話してくれているようになって嬉しい。年長メイドさんは未だに固いものの、少しずつ距離感は近づいている気がする。
「あ、ありがとうございます、よろしくお願いします」
手際よく銀色のハサミをカシャカシャと動かす。前髪を目の上で切り揃え、後ろの髪も肩上位で切ってもらった。
「見て、お人形さんみたい」
「えー、可愛い」
わらわら、メイドさん達に褒められ、顔が熱くなる。
「こらこらあなた達、年が近いからって失礼ですよ。友達じゃないんですからね」
「だって本当に静かでお人形さんみたいなんですもの」
と、年が近い?このメイドさん達が?驚いて、じーっと見つめてしまう。唇に薄く紅が引かれ、肌もパウダーでお化粧してる。豊満なバストに、私より10cm以上高い身長。
「皆さんが、さっき私の年齢を聞いてびっくりした理由がよく分かりました。同年代なのに、体つきが全然違うんですね」
特に、胸の辺りが。自分の起伏の乏しいささやかな胸にガクンと項垂れる。それに比べて、皆ボヨンボヨンと2つ隆起したものを携えていた。
「イヴ様はまだまだ成長期です。こちらのものを毎日お腹いっぱい召し上がっていたら、すぐに大きくなります」
優しく年長メイドさんが慰めてくれる。
「そうですよ、私はイヴ様のその綺麗な肌が羨ましいです!」
「体も華奢で、お顔も可愛らしくて本当にお人形さんのようです」
次々とフォローを入れてくれるメイドさん達。しかし今の私の目にはもはや揺れる胸しか入ってこなかった。
「あの、皆さんのお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
「すいません、名乗り遅れました。私はアマンダと申します」
そう言って深々とお辞儀する、おそらく20代後半位の年長メイドさん。きりっとした涼しげな目元と、ダークブラウンの髪の毛をオールバックにして下の方でお団子にしている。1本の髪の毛の乱れも許さないような髪型に、まるで性格が現れているよう。
「そして右から、三つ編みお下げの子がエイミー、メガネをかけているショートカットの子がケイト、ポニーテールの子がナターシャでございます」
「えっと、」
胸が1番大きいのがナターシャさん、次に大きいのがエイミーさん、1番控えめなのがケイトさん。顔と特徴と胸の大きさを、名前と一致するよう反芻する。
「イヴ様、こちらには何人もメイドがいます。だから一人一人覚えなくてよろしいのですよ。特に私達は下っ端ですから」
苦笑いしながら言うアマンダさんに、そうはいかないと初めて今日「いいえ!」と首を強く横に振った。
「今日は本当にお世話になりました。採寸をしてくれたケイトさん、ドレスを選んで似合うと言ってくれたエイミーさん、髪を切ってくれたナターシャさん。そして、マナーを教えてくれたアマンダさん」
おぉ、と感嘆の声が上がる。
「メイドさんがたくさんいても、ちゃんと覚えます。今日お世話してくれたメイドさん達は、あなた方ですから。こんなふうに優しくしてもらえること、あまりなかったので本当に嬉しかったのです。ありがとうございました」
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