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1.この世界の真理

レオの異変

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 それと同じ位のタイミングで、突然、膝をついて座り込んでしまったレオ。攻撃を受けた様子はなかったが、その場で下を向いて動かない。

「だ、大丈夫ですか?」

 思わず背後から声をかける。

 その様子に、いち早く気付いたのは、一人残党狩りに勤しんでいたジゼルだった。

「グレン、レオが堕ちた」

「まじかよ、めんどくせぇな」

「まぁ良い、アレに本当にそんな力があるのか試す良い機会だ」

 アレと呼ばれて、3者から視線を向けられ戸惑うイヴ。

 "力"って、何?

 私にそんな力なんてない。そもそも、そんなことを言われても、期待されるような人間じゃないし。

 戸惑いながらも、目の前のレオという青年は心配だ。持病があるのか、顔は苦痛に染まり息が荒い。


「だ、大丈夫、ですか」

 2回目の問いかけ。顔を覗き込んで尋ねると、金色の目が光り、イヴの方を睨みつけるように見ると、そのまま押し倒してきた。


「あ、え、な、なん」

 驚きと彼の力強さになんの抵抗もできず、彼の下敷きになる。訳がわからず、なんでと聞きたいのに、すぐ目の前に精巧な彼の顔があって真っ直ぐ見つめられているという状況に、あまりに恥ずかしくて意味のある言葉を発せなくなっていた。


「血、」

短い言葉だったが、なんとなく察することができた。

「あ」

 いつも噛んでしまう下唇をまた思い切り噛んでしまったのか、口の中が血の味で広がっている。イヴはまさか口から出る位血が出てるのかと思って、慌てて手で口元を隠した。    

  金色の目がまた光ったような気がした。





 暗くぼんやりしてくる視界。魔獣の血にあてられるようになっては、もはや末期まできてるんじゃないか。

 
 一体、この感覚はなんなんだ。極限の飢餓状態で眼前に、芳ばしい香りがする肉汁が滴るステーキをぶら下げられているような。

 思わず分かりやすい欲望を頭に思い浮かべたが、何故かしっくりこない。

 そんな分かりやすいものじゃない。よく分からないが、もっと直接的な刺激が脳に響いて、抗えない衝動に支配されている。食欲だとか性欲だとかよりも、もっと複雑で本能的な欲望。

 自分の強い欲求が向かう対象物が分からず、苦痛に顔を歪める。うっと、声を漏らすと、自分の顔を覗き込んで心配する少女。

 遠のいていく意識の切れ端で、あぁ対象はこれかと。ガツンと頭を殴られたかのような衝動に任せて、目の前の少女をたまらず押し倒したのだ。
 やっと釈然として少し楽になる。

 あぁ、思わず引き寄せて、1番強く漂うところに噛みつきたい。首か、肩か、唇か。やっと、このよく分からない欲をぶつけられる。

 レオは組み敷いたイヴを見下ろし目を細めた。すると獣に狙われた小動物のように、ビクッと震える小さな体。怖いのか泣きそうな顔をしている。
 

 だけどこれは絶対離せない、俺の獲物だ。
 欲にかられるまま、めちゃくちゃにしたい。


 体が熱い、息が苦しい。暗くなっていく視界。もう意識を保てない。これじゃ、だめだ、また、


 ……また誰かを傷つけてしまうのか。


 "戦えなければガイアの王子じゃない"

 こんな時に、父親の言葉を思い出す。

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