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1.この世界の真理
女王シルヴィアと聖女の始祖エマ
しおりを挟む同時刻、第三層最深部にて。
唐突にメンフィル国女王、シルヴィアの目が覚める。銀に近いプラチナブロンドのロングヘアー、透明度の高い瞳は宝石のアクアマリンのよう。逸材の美少女といわれるソフィアでも、彼女の人間離れした神々しい美しさには敵わない。
シルヴィアは1日活動するために3倍、およそ3日分の睡眠が必要だった。
うつろな目で、前回活動して眠りに入ってから起きるのが早過ぎるような、とぼんやり考える。はたして今日は何日目でどれくらい眠っていたのか、どうして今回こんなに早く目が覚めてしまったのか。
……ん?起こしたのは、エマ?あなたなの?
頭の中へ直接響くエマという女性の声。ここには実態を持たない存在。
……そう、最後の聖女が死んだのね。
ネイティ、雨の聖女だったかしら?
そのネイティが最後の時を縮めてでも、助けた女の子がいる。
今、最深部の泉へその少女が落ちてきた、と。
『その子は次の"わたし"になれるかもしれない』
その一言に、シルヴィアの綺麗な目が見開く。エマの声ではなく、まさかその存在に反応し目が覚めたのか。
本当に、その子が聖女の始祖"エマ"の代わりになれるなら、それは一千年来の悲願が叶うかもしれない大事件だ。
なんとも言えない感覚に支配され、思わず濡れた頬を手で辿る。
歓喜に打ち震える体、声にならない絶叫。
やっと、やっとだ。
もう何世紀と待ち焦がれた奇跡の存在。
ベッドから飛び出し、自分しか立ち入れない更なる深部へ向かう。
思っていた通り、そこには自分と同じく歓喜で泣く、彼女"エマ"の姿があった。
彼女、エマは聖なる泉の結晶の中で、1000年老化することなく閉じ込められている。この世界の役割、自分の宿命を全うするために。
泣くエマに同調するように、発光する泉へ入り中心にある結晶体の中のエマへ寄り添った。
……これだけ、エマと私に影響があるのだ。
この余波は、きっとあいつにも伝わっているはず。
そして、早く、確証を得たい。
落ちてきたその子が、エマの後継になり得るものだと。
シルヴィアは、自室へ戻りシャーマルへ連絡する。シャーマルとはシルヴィアの世話係のうちの一人。彼女の姿を知る数少ない人間でもある。
「シャーマル、シャーマル、深層へ落ちた子がいる。助けてあげて」
『え?』
「いいから急いで、その子を助けてここへ連れてきて」
『は、はい』
シャーマルはシルヴィア女王に仕えて十数年、今初めて名前を呼ばれた。しかし、感激する間もなく、シルヴィア女王の話は続く。
「それから、次の出荷先の、えっと誰だったかしら?」
『帝国ラスティンの伯爵、アンバーのことでしょうか?』
「そうそう、そいつ。そいつに今すぐ連絡してくれる?」
『え?今からですか?』
「えぇ、ことは早急を要するの」
『アンバーへは、明日、うちから出荷する予定でしたが。一体何をお考えで……?』
「招待するのよ、この国へ」
『え?』
「一斉清掃よ、そして、深層に落ちたその子が二代目エマという確証を得たいの」
話についていけず、しばしの沈黙のあと、リスヴィアの怒りに触れないよう慎重に尋ねる。本当だったら、こんなこと確認したくない。
しかしアンバーをうちの国に招くとなったら、それは大事だ。他の人間に聞かれた時、シルヴィア様の意思と説明してどれだけ通用するか。
『すいません、ご無礼を承知で物申させて頂きます。それはこの国を、』
「ごめんなさいね、時間がないの」
一番重要なところを、途中で遮られた。びくっと体を震わせるシャーマル。
「一体、何世紀この状況を待ちわびていたと思っているの」
シャーマルは酷く動揺していた。この天妖族の女王がこれ程までに、感情を昂らせたことがあったろうか。お世話係という名目で雑用を押し付けられてきたが、今まで、まともな会話を交わした記憶さえなかった。
それだけのことがこの国に起こっているのだ、と理解したが、時すでに遅し。
「あなたでは荷が重いようね」
お役御免とばかりに、切り捨てられる。
「今、あなたができる仕事は一つだけ。今すぐ、老婆を叩き起こしてここに連れてきなさい」
シャーマルは今度はイエスしか言わなかった。
余計な詮索をすること自体間違っていたのだから。たとえ母国へどんな危険を招こうとも。
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