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step8 ドレスはピンク色が良いです
俺たちの戦いはこれからだ!
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帰りの車内、何か忘れているようでモヤモヤする。
ふと看板に出てきた、日本ハムの看板で思い出す。
「……あ、はむ子忘れた」
呟くようにそう言うと、隣で仁菜が大きな声を上げた。
「あーっ!彰人さん戻って」
「もう実家に置いとけば」
「そんなっ、私達の子ですよ」
「その割に今、忘れてただろ」
「きょ、今日は色々あったから」
どもる仁菜にへぇーと抑揚なく答える。すると、何やら隣できゃんきゃん言い始めた。
さっきまで、一瞬でも愛しいと思ったのに、もうなんかうざったく感じる。
「彰人さん聞いてますっ!?」
「ごめん9割聞いてない」
「それ、ほぼほぼ聞いてないじゃないですか!」
これからまた、あの騒がしい日々が戻ってくる。
正直俺はやっぱり、静かなのが好きだし、人に干渉されるのはまだ苦手だ。
「わぁーん、戻ってよー」
「俺も今同じ気持ちだよ、時を戻してさっきのなかったことにしたい」
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
思わず出てしまった嘆きに、運転中にも関わらず助手席からぽかぽかと叩かれる。
「わぁーん、仁菜の純情な恋心弄ばれたー」
本気の泣きに、あぁどうしようか、至極めんどくさいと思いつつ、とりあえずハムスターを取りに戻る。
しかし、わーわー、ぎゃーぎゃー、隣で緊急警報のサイレンのように騒ぐ小さな怪獣。
あぁ、うるさい、うるさい、うるさい!
車通りの少ない路肩にキッと止めて、少々乱暴にハザードを押す。
「もう、黙れよ」
そう言って喚くサイレンの口を塞いだ。
「……っ!」
はは、可愛い。あまりにちょろくて。仁菜の黙らせ方が分かった。
「ずるい、ずるい、こんなの全部許しちゃう」
「はは、いい事聞いた。仁菜はお子様だから少しずつ慣れていこうな。嫌になったら、いつでもお付き合い解消して良いからな」
恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしている仁菜は可愛い。これは、からかい甲斐がありそうだ。
「あぁ、なんなら今日一緒に風呂に入って一緒に寝ようか。別に付き合ってるんだから普通だよな」
「うー、負けない、絶対負けないから!」
「いやぁー、なんのことかなぁー。俺は大人だから大人なお付き合いがしたいだけなんだけどなぁー」
「はい!真の大人とは、相手の気持ちがちゃんと決心できるまで、待つのが大人だと思います!」
「お、すごい余裕じゃん。待たせ過ぎて愛想尽かされないと良いな」
言い負けて、口からブクブク泡を吹かせている仁菜。何やら「いやだ、愛想つかされたくない」とブツブツ唱えている。なんとなく白目も向いてるような気もするが、一応これが今日から俺の彼女になったらしい。
正直、仁菜自身に情はあっても、男女のときめき的なものを未だかつて感じたことがない。
悠々自適な30代独身男性の優雅ライフと、仁菜とのドタバタハートフル?ライフ、天秤にかけるとぶっちゃけまだ前者に傾いてしまう。
そんなんで始まってしまった恋愛ごっこ。
ただ、こうやってからかうと、今まで付き合ってきた彼女にはない新鮮な反応が返ってくるから、何とも可愛いと思ってしまう。
そうたとえ、口から泡を吹いて白目をむこうが。
今日、付き合って初日なんだが、本当に大丈夫だろうか?
なんとも不安になる姿だな。
また帰ったら始まる騒がしい日常。
今度から、無理に迫って仁菜のキャパオーバーを狙って別れたい俺と、絶対に何がなんでも別れたくないが先には進みたくない仁菜との戦いが始まるのだろう。
さぁ、次はどんな騒動が待ち受けているだろうか。
俺たちの、戦いはこれからも続く。 END
ふと看板に出てきた、日本ハムの看板で思い出す。
「……あ、はむ子忘れた」
呟くようにそう言うと、隣で仁菜が大きな声を上げた。
「あーっ!彰人さん戻って」
「もう実家に置いとけば」
「そんなっ、私達の子ですよ」
「その割に今、忘れてただろ」
「きょ、今日は色々あったから」
どもる仁菜にへぇーと抑揚なく答える。すると、何やら隣できゃんきゃん言い始めた。
さっきまで、一瞬でも愛しいと思ったのに、もうなんかうざったく感じる。
「彰人さん聞いてますっ!?」
「ごめん9割聞いてない」
「それ、ほぼほぼ聞いてないじゃないですか!」
これからまた、あの騒がしい日々が戻ってくる。
正直俺はやっぱり、静かなのが好きだし、人に干渉されるのはまだ苦手だ。
「わぁーん、戻ってよー」
「俺も今同じ気持ちだよ、時を戻してさっきのなかったことにしたい」
「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
思わず出てしまった嘆きに、運転中にも関わらず助手席からぽかぽかと叩かれる。
「わぁーん、仁菜の純情な恋心弄ばれたー」
本気の泣きに、あぁどうしようか、至極めんどくさいと思いつつ、とりあえずハムスターを取りに戻る。
しかし、わーわー、ぎゃーぎゃー、隣で緊急警報のサイレンのように騒ぐ小さな怪獣。
あぁ、うるさい、うるさい、うるさい!
車通りの少ない路肩にキッと止めて、少々乱暴にハザードを押す。
「もう、黙れよ」
そう言って喚くサイレンの口を塞いだ。
「……っ!」
はは、可愛い。あまりにちょろくて。仁菜の黙らせ方が分かった。
「ずるい、ずるい、こんなの全部許しちゃう」
「はは、いい事聞いた。仁菜はお子様だから少しずつ慣れていこうな。嫌になったら、いつでもお付き合い解消して良いからな」
恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしている仁菜は可愛い。これは、からかい甲斐がありそうだ。
「あぁ、なんなら今日一緒に風呂に入って一緒に寝ようか。別に付き合ってるんだから普通だよな」
「うー、負けない、絶対負けないから!」
「いやぁー、なんのことかなぁー。俺は大人だから大人なお付き合いがしたいだけなんだけどなぁー」
「はい!真の大人とは、相手の気持ちがちゃんと決心できるまで、待つのが大人だと思います!」
「お、すごい余裕じゃん。待たせ過ぎて愛想尽かされないと良いな」
言い負けて、口からブクブク泡を吹かせている仁菜。何やら「いやだ、愛想つかされたくない」とブツブツ唱えている。なんとなく白目も向いてるような気もするが、一応これが今日から俺の彼女になったらしい。
正直、仁菜自身に情はあっても、男女のときめき的なものを未だかつて感じたことがない。
悠々自適な30代独身男性の優雅ライフと、仁菜とのドタバタハートフル?ライフ、天秤にかけるとぶっちゃけまだ前者に傾いてしまう。
そんなんで始まってしまった恋愛ごっこ。
ただ、こうやってからかうと、今まで付き合ってきた彼女にはない新鮮な反応が返ってくるから、何とも可愛いと思ってしまう。
そうたとえ、口から泡を吹いて白目をむこうが。
今日、付き合って初日なんだが、本当に大丈夫だろうか?
なんとも不安になる姿だな。
また帰ったら始まる騒がしい日常。
今度から、無理に迫って仁菜のキャパオーバーを狙って別れたい俺と、絶対に何がなんでも別れたくないが先には進みたくない仁菜との戦いが始まるのだろう。
さぁ、次はどんな騒動が待ち受けているだろうか。
俺たちの、戦いはこれからも続く。 END
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