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step8 ドレスはピンク色が良いです
家族ぐるみのくっつけちゃえ大作戦
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◇ ◇ ◇
「もう、お家に帰る」
そう、小さな声で言って部屋に閉じこもった仁菜。おぉ、やっと出てくのか、そう思いながらも、お前帰る家あったのかという驚きの方が何倍も勝っていてしばらく一人固まっていた。
え?天涯孤独でハムちゃんが唯一の家族っていう設定だったんじゃないのか?
オヤジが言っていたことはデタラメだったのだろうか。早速電話してみるが、……おかけになった電話番号は、云々かんぬんで繋がりやしない。
まぁいいや。真相がどうであれ、出て行くっていうのならめでたしめでたしじゃないか。
一緒に暮らし初めてちょうど一か月位経っただろうか。
その間に奴は2回程家を出ているのだが、その度に出戻って来てしぶとくうちへ居座っていた。
先日の秋のブドウ狩り発言にしても、あいつはあわよくば居座ってやろうという魂胆に見えたし、このタイミングで家に帰ると言うのだから良かったじゃないか。
だけど俺は、あいつが出ていく度に、最初は喜びながらも、しばらくするとモヤモヤし出すという病気にかかっているようで。間違っても家を調べて迎えになんて行かないように、と自分の中で強く言い聞かせていた。
しかし出て行ってからしばらくすると気になってくるもので、本当に家があったんだろうかとか、毎度のことだけど今頃どっかで野垂れ死んでないかだろうか、だとか。自分でも馬鹿みたいだと思うが、どうしても心配になってしまうのだ。
思い切って電話をしてみると、2コール位ですぐに電話に出た。
『彰人さんっ!?どうしたんですか?』
俺が話し出す前に、思わず電話口を離す程の声量で話してくる。
「……いや、ちゃんと家に帰れてるかと思って。大丈夫か?」
『彰人さんから電話してきてくれるなんて嬉しいです』
自分から聞いてきたくせに、俺の質問には答えないという高等なコミュニケーション。
電話の向こうで俺の声に浸っているようだった。
「帰る家ないんじゃなかったのか?家賃滞納しててって」
『あぁ、はいそのことならまぁ……』
とぼけるような言いぐさに疑問が残り、矢継ぎ早に次の質問をした。
「確か、母親が中学生の頃に失踪してるんだよな?」
『え?あぁ、えっとそうですね……』
そう聞き返されて、遠くからごにょごにょと誰かと相談するような声が聞こえてきた。
「あー、もういいよ、分かった。お前がちゃんと家に帰れてるなら」
『彰人さん、』
俺を呼び止める声がしたが、元気そうな声が聞けたから俺的にはもう満足。
モヤモヤ病の悪化を恐れて、早々に電話を切った。
再び静寂を取り戻した部屋。一人でワイン開けようかなと思っていた矢先、家のインターホンが鳴る、嫌な予感がしながらそれに出ると、そこには情けない顔をした父親が『彰人~』と、情けない声を出してそこに立っていた。
仕方なくドアを開け家に入れる。ソファーに座る父にお茶を出して、俺もその向かいに座った。
要件は十中八九、仁菜絡みだということは分かっている。
「いきなり何、海外行ってんじゃなかったのかよ」
「海外?あーそんな設定だったな」
「もう全部教えてくれよ、何か企んでたんだろう?」
「気付いてたと思うけど、あの子妹じゃないんだよ」
「うん」
今更、そんなことでは驚かない。顔も、性格もここまで違う兄妹なんていないだろう。
「行きつけのスナックの梅ちゃんっていう子の娘さんでね、ちなみに母親が失踪したっていうのと家の家賃を滞納して追い出されたっていう話は嘘だ」
「なんでそんな嘘までついてスナックの梅ちゃんの娘がうちに来たんだよ」
「いやぁ、お前は俺のせいで、こんな寂しい人間に育っちまったもんだから、人並の愛情豊かな人生を歩んで欲しいと思って」
「答えになってない」
「だから仁菜ちゃんという刺客を送り込んだわけだ」
「いやいや、年齢とか性格とか少しは考慮しろよ。俺が本当に仁菜に惚れるとでも思ったのか」
「それは誰を連れてきても一緒だろう?」
その言葉に言い返せず、うっと言葉に詰まる。まさしくその通り。
「だけどあの子は人情味溢れる、愛情豊かな子だから、凍てついた彰人の心も溶かしてくれるんじゃないかと思って。そして俺はああいう娘が欲しかった」
特に後半を力強く切実に訴える父親。
「あぁ、あのアホと気が合いそうだもんな。だけど初めて会った頃、あいつ、家の家賃滞納したって言って、お前のこと本当のお父さんで俺のことも生き別れの兄だって言ってたけど」
「うん」
「まさか、仁菜も騙してたのか」
「うん」
悪気もなくうんと言うオヤジに、少しイラっとする。
「うんじゃねぇよ」
「だってそうでもしないとお前のところに送り込めないだろう?でも仁菜ちゃんには途中でネタバレしたよ、彰人とはカップルになってもらわなくちゃいけなかったから。で、どうなの?仁菜ちゃん」
「もう出て行ったよ」
あっさりそう言うと、大きな声を出して驚いた。
「えぇっ!?仁菜ちゃんはお前のこと本当に好きだったのに」
「俺なんかじゃなくてさ、仁菜のこと可愛がってたならあいつの幸せちゃんと考えてやれよ。俺なんかと結婚して幸せになれると思うか?」
「もう、お家に帰る」
そう、小さな声で言って部屋に閉じこもった仁菜。おぉ、やっと出てくのか、そう思いながらも、お前帰る家あったのかという驚きの方が何倍も勝っていてしばらく一人固まっていた。
え?天涯孤独でハムちゃんが唯一の家族っていう設定だったんじゃないのか?
オヤジが言っていたことはデタラメだったのだろうか。早速電話してみるが、……おかけになった電話番号は、云々かんぬんで繋がりやしない。
まぁいいや。真相がどうであれ、出て行くっていうのならめでたしめでたしじゃないか。
一緒に暮らし初めてちょうど一か月位経っただろうか。
その間に奴は2回程家を出ているのだが、その度に出戻って来てしぶとくうちへ居座っていた。
先日の秋のブドウ狩り発言にしても、あいつはあわよくば居座ってやろうという魂胆に見えたし、このタイミングで家に帰ると言うのだから良かったじゃないか。
だけど俺は、あいつが出ていく度に、最初は喜びながらも、しばらくするとモヤモヤし出すという病気にかかっているようで。間違っても家を調べて迎えになんて行かないように、と自分の中で強く言い聞かせていた。
しかし出て行ってからしばらくすると気になってくるもので、本当に家があったんだろうかとか、毎度のことだけど今頃どっかで野垂れ死んでないかだろうか、だとか。自分でも馬鹿みたいだと思うが、どうしても心配になってしまうのだ。
思い切って電話をしてみると、2コール位ですぐに電話に出た。
『彰人さんっ!?どうしたんですか?』
俺が話し出す前に、思わず電話口を離す程の声量で話してくる。
「……いや、ちゃんと家に帰れてるかと思って。大丈夫か?」
『彰人さんから電話してきてくれるなんて嬉しいです』
自分から聞いてきたくせに、俺の質問には答えないという高等なコミュニケーション。
電話の向こうで俺の声に浸っているようだった。
「帰る家ないんじゃなかったのか?家賃滞納しててって」
『あぁ、はいそのことならまぁ……』
とぼけるような言いぐさに疑問が残り、矢継ぎ早に次の質問をした。
「確か、母親が中学生の頃に失踪してるんだよな?」
『え?あぁ、えっとそうですね……』
そう聞き返されて、遠くからごにょごにょと誰かと相談するような声が聞こえてきた。
「あー、もういいよ、分かった。お前がちゃんと家に帰れてるなら」
『彰人さん、』
俺を呼び止める声がしたが、元気そうな声が聞けたから俺的にはもう満足。
モヤモヤ病の悪化を恐れて、早々に電話を切った。
再び静寂を取り戻した部屋。一人でワイン開けようかなと思っていた矢先、家のインターホンが鳴る、嫌な予感がしながらそれに出ると、そこには情けない顔をした父親が『彰人~』と、情けない声を出してそこに立っていた。
仕方なくドアを開け家に入れる。ソファーに座る父にお茶を出して、俺もその向かいに座った。
要件は十中八九、仁菜絡みだということは分かっている。
「いきなり何、海外行ってんじゃなかったのかよ」
「海外?あーそんな設定だったな」
「もう全部教えてくれよ、何か企んでたんだろう?」
「気付いてたと思うけど、あの子妹じゃないんだよ」
「うん」
今更、そんなことでは驚かない。顔も、性格もここまで違う兄妹なんていないだろう。
「行きつけのスナックの梅ちゃんっていう子の娘さんでね、ちなみに母親が失踪したっていうのと家の家賃を滞納して追い出されたっていう話は嘘だ」
「なんでそんな嘘までついてスナックの梅ちゃんの娘がうちに来たんだよ」
「いやぁ、お前は俺のせいで、こんな寂しい人間に育っちまったもんだから、人並の愛情豊かな人生を歩んで欲しいと思って」
「答えになってない」
「だから仁菜ちゃんという刺客を送り込んだわけだ」
「いやいや、年齢とか性格とか少しは考慮しろよ。俺が本当に仁菜に惚れるとでも思ったのか」
「それは誰を連れてきても一緒だろう?」
その言葉に言い返せず、うっと言葉に詰まる。まさしくその通り。
「だけどあの子は人情味溢れる、愛情豊かな子だから、凍てついた彰人の心も溶かしてくれるんじゃないかと思って。そして俺はああいう娘が欲しかった」
特に後半を力強く切実に訴える父親。
「あぁ、あのアホと気が合いそうだもんな。だけど初めて会った頃、あいつ、家の家賃滞納したって言って、お前のこと本当のお父さんで俺のことも生き別れの兄だって言ってたけど」
「うん」
「まさか、仁菜も騙してたのか」
「うん」
悪気もなくうんと言うオヤジに、少しイラっとする。
「うんじゃねぇよ」
「だってそうでもしないとお前のところに送り込めないだろう?でも仁菜ちゃんには途中でネタバレしたよ、彰人とはカップルになってもらわなくちゃいけなかったから。で、どうなの?仁菜ちゃん」
「もう出て行ったよ」
あっさりそう言うと、大きな声を出して驚いた。
「えぇっ!?仁菜ちゃんはお前のこと本当に好きだったのに」
「俺なんかじゃなくてさ、仁菜のこと可愛がってたならあいつの幸せちゃんと考えてやれよ。俺なんかと結婚して幸せになれると思うか?」
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