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step7 あなたとあたしさくらんぼ

こんな私でも、ちゃんと恋するんです

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◇ ◇ ◇



ゴジラの来訪にびくびくしていたら彰人さんから、もう来ないよと言われた。
2人の間で何かあったようだけど、この時ばかりはさすがにそれ以上聞けなかった。

また二人での生活が始まった。だけど基本、彰人さんは一人が好きな人。前回の、人肌恋しい、発言は弱気になっていたから出たものであって、根本的な本質は変わってない。

なんとか振り向かせたくて、寝てるベッドに忍び込むなんていう捨て身にも出たけど全く効果なし。

彰人さんは私を完全にペット扱いしていて、望み薄なのも分かってる。それでもたまに見せる不器用な優しさに完全にノックアウトされてしまい、この上なく膨れ上がってしまった好きという気持ち。

もう自分でもどうしていいか分からなかった。



朝、鼻歌を歌いながら彰人さんの弁当をこさえる。

「ふー、ふふふふーふふー、とーなりどおし、あなーたーと、あーたし、さくらんぼっ」

最後に、さくらんぼにちゅっとキスをしてお弁当箱に入れると、たまたまちょうど起きてきた彰人さんに目撃される。その光景に目を疑うような表情をして、その場に硬直していた。

「今、何した」

「おまじないだよ?」

「お前、今までのお弁当全部にこんなことしてたのか」

「愛情たっぷりこもってますからね」

えへっと照れ笑いすると、鬼のような形相でそのサクランボを抜かれ違うものにすり替えられる。

少し露骨過ぎるだろうか。前、こういうことばかりするから追い出されるんだ、と言われ、ちょっと気になってたりする。
だけど、もう溢れる好きをおさえられなくて、どうしようもないのだ。

ソファーで新聞を読んでいる彰人さんに目覚めのコーヒーを淹れ、テーブルの上に置く。そして、いつものように横に座ってその肩に頭を置いてくっつく。

「はぁー……」

と悩まし気なため息をつくと、彰人さんから鉄槌が降りてきた。

「なんの嫌がらせだよ、おい」

「嫌がらせじゃないです、甘えているんです」

「それが嫌がらせだろうがっ。あんまりいきすぎるとまた水嶋んとこに連れて行くぞ」

「そんなっ、そしたらこの気持ちをどこにぶつけたらいいんですかっ」

そうやって彰人さんの胸元のシャツにしがみつくと、あからさまにドン引きされながら引き離された。


その日の仕事終わり、珍しく家に水嶋さんがやって来た。ファイティングポーズをとって身構える私を完全に無視し、いとも簡単に私のパーソナルスペースに侵入してくる。

「ルリルリちゃん、久しぶりー」

そう言ってハグしようと両手を伸ばしてくる変態に、すかさず彰人さんの影に逃げる。

「いつぞやは大変お世話になりましたが、あの屈辱を私は一生忘れません」

声色を変えてそう言うと、彼は全く悪びれない様子でニヤニヤしながら私の頭に手を置く。

「ごめんね、トラウマになっちゃった?今度は違うコスチューム用意しておくからね」

「良かったな、仁菜」

そう言って、その変態にもう少し布地多い奴な、と付け足す彰人さん。

「全然、良くないです!もう着ませんよ!」

ぷんぷん怒る私に、まぁまぁと宥められ一緒に夕食を食べることに。なんでいきなり連れてきたんだろう。まさか、またいつでも私を水嶋さんちに預けてもいいように?それじゃ本当ペットみたいだけど。

そして変態が帰った後で、彰人さんの魂胆が分かることに。


「水嶋いいやつだろー」

お手伝いでお皿洗いをしていると、ソファーから後ろ姿のまま不意に声をかけられる。この人は何を言っているんだろう。あいつは私にとって変態でしかないのだけれど。

「しかもあいつ実家でクリニックやってるから将来、玉の輿だよ」

私はあんな変態嫌だし、水嶋さんだって私自身にはまるで興味ない。

「仁菜は愛があればお金はいりません」

「はぁ、これだから」

そう言って人を子ども扱いするかのように、

「愛がなくても生きていけるけど、お金がないと生きていけないんだよ?仁菜ちゃん」

と言われ、思わず反抗する。

「愛がないと生きていけないよ!」

「人それぞれだろ、そう言ったら俺なんかとっくに死んでるわ」

自分で言って笑ってる彰人さん。

「朝、お前がどこにぶつけていいか分かんないって言ってただろ?水嶋で良いじゃないか」

「全然良くないですよ、水嶋さんだっていい迷惑です」

「俺だっていい迷惑だよ」

笑いながらそう突っ込まれ、思わずうっと言葉に詰まる。

そんな魂胆で、今日いきなり連れてきた理由は分かったけど。
人の気持ちがそう簡単に変えられるものだと思っているのだろうか。

「水嶋良い奴なんだけどなー」

目線はテレビに向けたままそう言われて、胸が苦しくなる。

「彰人さん、私の気持ち馬鹿にし過ぎです。仁菜は彰人さんからみたら全然子どもかもしれないけど、ちゃんと恋するんです」

「……」

「……仁菜は本当に彰人さんが好きなのに。彰人さんは恋愛なんてクソくらえなんていう冷血人間だから分からないんだ」

「その気持ちが本物だとしても、好きになる相手を間違ってんだよ。水嶋にしといた方がよっぽどお前は幸せになれる」

そのセリフにたまらず両手で拳を握って怒った。

「彰人さんの馬鹿!」

「なんだって?」

怒りを露にしたひょうしに、さっきからスタンバっていた涙が臨界点を突破して目からぽろぽろ溢れてくる。

「間違えじゃないもん。私の幸せ勝手に決めないで……っ」

私の涙声にさすがに驚いたのか、後ろを振り向く彰人さん。何か声をかけられたような気もするが、

「彰人さんの分からずや!」

と最後に喚いて、涙が溢れる目をごしごし拭く。そして、

「……もうお家に帰る」

そう言って、自分の部屋にこもった。


こもってから、ちょっとは声をかけてくれることを期待していたが、そりゃあまぁ朝まで何もなく静かに時間は過ぎて行った。
きっと彰人さんからしてみては、やっとお荷物がなくなると思ってせいせいしているんだ。
そう思うと悔しくて、わざと大げさに鼻をかんでやった。


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