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step5 ゴジラ、襲来
ちんちくりん女の完封負け
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その後、仁菜より一足先に家へ帰る。22時を過ぎた頃、インターホンが鳴り応答するとモニター画面には仁菜の姿が。
『彰人さん、ただいまー』
そう言って、ニコニコ笑う彼女はまるで尻尾を振って喜ぶ犬のよう。ドアを開けると、俺も今日ばかりは彼女を優しく出迎えた。
「おかえり」
「あれ?珍しく、彰人さんが優しい……っ」
すると、調子に乗ってぴとっと俺の腕にまとわりついてきたもんだから、首の後ろを掴んで離させた。少し優しくしたやっただけですぐこれだ。
「ひっつくな、暑苦しい」
「彰人さん、今日仁菜のこと心配して会いに来てくれたんですか?」
「一応な、どっかでのたれ死なれなら後味悪いだろ」
「素直に心配だったって言ってくれればいいのにー」
そう言って俺の腕を人差し指でつんつん突いてくる。
「何だこの指は」
またもやイラっとしてその指を握った。
「痛い、痛い」
そんなやり取りをしていると、またもやインターホンが鳴った。
ピンポーン、
時間はもう22時を回り、仁菜はもうすでに帰ってきている。アポなしにこんな時間に訪問してくる人間は一人しか思い当たらず、焦って仁菜を自分の部屋へ行かせた。
「……仁菜、しばらく俺が良いっていうまで自分の部屋から出てくるな」
「え?どうしてですか?」
「いいから!」
「彰人さん、一体誰が来たんですか?」
短気なその人物は、容赦なくチャイムを連打する。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!
そのうちドアを叩き始めるだろう。そして開口一番、遅い!と怒鳴りつけるんだ。仁菜も不穏な雰囲気を察したのか、疑問に思いながらも俺の言うことに素直に従って部屋へ籠った。
「いいか、万が一出くわそうものなら食われるとでも思え」
「えっ、人間なんですよね?」
「それ位の危機感を持てって意味だ」
俺の頭の中ではゴジラが襲来した時のBGMが流れている。
ごくっと唾をのみ込んで意を決してドアを開ける。
「もう出るの遅い!」
早速ゴジラが鬼の形相で火を吹く。俺は顔を引きつらせながら無理矢理笑顔をつくり、憤慨する彼女を迎えた。
「悪い、部屋が散らかってて」
「もうお土産いっぱい持って来てたから手が痺れちゃったじゃない」
英字の店のロゴが入った大きな紙袋を持ち上げて俺を睨みあげた。そして自分の部屋かのように、俺の家へズカズカと入り込んでいく。
「私がいなかった間に浮気してなかったでしょうね」
そう言ってリビングをきょろきょろしながら、くんくん匂いを嗅いでいる。
「まさか、そんな命知らずなことしないよ」
「……ねぇ、なんか部屋散らかってない?何このブサイクなぬいぐるみ達」
仁菜が来てからというもの、そこら中になんの動物をモチーフにしたのか分からないブサイクなぬいぐるみが散乱している。明らかに怪訝そうな顔をしている涼香に、これはチャンスとばかりにそのブサイクなぬいぐるみを一つ手に取った。
「そうなんだ、俺隠してたけどこういうのが趣味でさ。可愛いだろ?」
「はぁ?趣味わるっ」
涼香にそう一蹴された瞬間、仁菜の部屋から、ガタンと物音がした。
……っ!
冷や汗がどっと出る。あの馬鹿、絶対ドアに耳付けて盗み聞きでもしてたんだろ。
「……何?今の音、何かいるの?」
「何もいないよ、物置で何か崩れ落ちたんじゃないかな」
疑い深い彼女はそのまま仁菜の部屋へ向かっていく。
「何もないってば」
俺はそんな彼女を追いかけて腕を掴んで止めるも、それで彼女の気が済むわけがなく。
「そんなに慌てるなんて怪しいっ」
じろっと睨み付けられ、制止しきれず彼女は仁菜の部屋のドアノブに手をかける。その瞬間、はぁ、終わったと、頭を抱えた。
「あれ?なんでこの部屋開かないの?やっぱり誰かいるんでしょ!」
部屋の中からドアを開かせまいと仁菜が踏ん張っているよう。だけどそれで彼女が観念するはずがなく、更にヒートアップして全力でドアを開けようとする。
「やめろって本当に何もないから」
そうやって止めに入るも、ついに仁菜が力負けしたのか少しドアが開いて小さな仁菜がちらりと姿を現す。その姿に涼香がびっくりしてドアノブから手を離した途端バタンと勢いよくドアが閉まった。
涼香の目は獲物を見つけたかのような恐ろしいものになっていた。
「……今何かいた」
そう言って再度ドアノブに手をかけ力いっぱい引っ張り、とうとう仁菜を部屋から引きずり出した。
「わぁっ!」
勢い良く出てきた仁菜の腕をぐいっと掴んで、引っ張り上げる。
「何このちんちくりんっ」
「今日、同じ悪口二回目」
そう言って涙ぐみながら口を尖らせる仁菜。そんな仁菜にお構いなく、ゴジラの炎は火を増すばかり。
「何なのこの子!」
「ひぃーっ」
怒鳴りつけられ頭を抱えて悲鳴をあげる仁菜に、俺はため息をついた。
「親戚の子なんだ、訳あって今一緒に暮らしてて」
「親戚?」
「見て分かる通り別にやましいことなんて何一つないし。すぐに出てく予定だから」
「それでも嫌!親戚だって一緒に住むなんて考えられないっ。今すぐ違うところに引き取ってもらって!」
「動物じゃないんだから、そんな簡単にいくかよ」
「じゃ私の家で、この子引き取るわ」
有無言わせないセリフに冷たい目で見下ろされて身震いさせる仁菜。
「荷物まとめなさい」
こうなったら自分の要求が通るまで、頑として首を縦には振らない。
「勘弁してくれよ」
「じゃこの子どっか預けられるアテあるのっ?」
俺達のやり取りに両者の顔を見合わせながら、困ったような顔で行く末を見守るしかない仁菜。
「分かった、俺の知り合いに一人だけ頼める奴がいるから。そいつに連絡してみるよ」
「えっ!?」
びっくしたような顔で俺を見る仁菜。
「今日、会った水嶋だよ。別に変なことされたりしないから」
「えぇーっ!」
大きな声をあげる仁菜に、ゴジラの方をちらっと見て尋ねる。こいつと、
「……どっちがいい?」
「う……っ」
言葉に詰まる仁菜だったが、しばらく考えた後、鬼の形相のゴジラをちらっと見てやっと頷いてくれた。そしてその場で水嶋に電話をすると、二つ返事で快く了承が出る。
『彰人さん、ただいまー』
そう言って、ニコニコ笑う彼女はまるで尻尾を振って喜ぶ犬のよう。ドアを開けると、俺も今日ばかりは彼女を優しく出迎えた。
「おかえり」
「あれ?珍しく、彰人さんが優しい……っ」
すると、調子に乗ってぴとっと俺の腕にまとわりついてきたもんだから、首の後ろを掴んで離させた。少し優しくしたやっただけですぐこれだ。
「ひっつくな、暑苦しい」
「彰人さん、今日仁菜のこと心配して会いに来てくれたんですか?」
「一応な、どっかでのたれ死なれなら後味悪いだろ」
「素直に心配だったって言ってくれればいいのにー」
そう言って俺の腕を人差し指でつんつん突いてくる。
「何だこの指は」
またもやイラっとしてその指を握った。
「痛い、痛い」
そんなやり取りをしていると、またもやインターホンが鳴った。
ピンポーン、
時間はもう22時を回り、仁菜はもうすでに帰ってきている。アポなしにこんな時間に訪問してくる人間は一人しか思い当たらず、焦って仁菜を自分の部屋へ行かせた。
「……仁菜、しばらく俺が良いっていうまで自分の部屋から出てくるな」
「え?どうしてですか?」
「いいから!」
「彰人さん、一体誰が来たんですか?」
短気なその人物は、容赦なくチャイムを連打する。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!
そのうちドアを叩き始めるだろう。そして開口一番、遅い!と怒鳴りつけるんだ。仁菜も不穏な雰囲気を察したのか、疑問に思いながらも俺の言うことに素直に従って部屋へ籠った。
「いいか、万が一出くわそうものなら食われるとでも思え」
「えっ、人間なんですよね?」
「それ位の危機感を持てって意味だ」
俺の頭の中ではゴジラが襲来した時のBGMが流れている。
ごくっと唾をのみ込んで意を決してドアを開ける。
「もう出るの遅い!」
早速ゴジラが鬼の形相で火を吹く。俺は顔を引きつらせながら無理矢理笑顔をつくり、憤慨する彼女を迎えた。
「悪い、部屋が散らかってて」
「もうお土産いっぱい持って来てたから手が痺れちゃったじゃない」
英字の店のロゴが入った大きな紙袋を持ち上げて俺を睨みあげた。そして自分の部屋かのように、俺の家へズカズカと入り込んでいく。
「私がいなかった間に浮気してなかったでしょうね」
そう言ってリビングをきょろきょろしながら、くんくん匂いを嗅いでいる。
「まさか、そんな命知らずなことしないよ」
「……ねぇ、なんか部屋散らかってない?何このブサイクなぬいぐるみ達」
仁菜が来てからというもの、そこら中になんの動物をモチーフにしたのか分からないブサイクなぬいぐるみが散乱している。明らかに怪訝そうな顔をしている涼香に、これはチャンスとばかりにそのブサイクなぬいぐるみを一つ手に取った。
「そうなんだ、俺隠してたけどこういうのが趣味でさ。可愛いだろ?」
「はぁ?趣味わるっ」
涼香にそう一蹴された瞬間、仁菜の部屋から、ガタンと物音がした。
……っ!
冷や汗がどっと出る。あの馬鹿、絶対ドアに耳付けて盗み聞きでもしてたんだろ。
「……何?今の音、何かいるの?」
「何もいないよ、物置で何か崩れ落ちたんじゃないかな」
疑い深い彼女はそのまま仁菜の部屋へ向かっていく。
「何もないってば」
俺はそんな彼女を追いかけて腕を掴んで止めるも、それで彼女の気が済むわけがなく。
「そんなに慌てるなんて怪しいっ」
じろっと睨み付けられ、制止しきれず彼女は仁菜の部屋のドアノブに手をかける。その瞬間、はぁ、終わったと、頭を抱えた。
「あれ?なんでこの部屋開かないの?やっぱり誰かいるんでしょ!」
部屋の中からドアを開かせまいと仁菜が踏ん張っているよう。だけどそれで彼女が観念するはずがなく、更にヒートアップして全力でドアを開けようとする。
「やめろって本当に何もないから」
そうやって止めに入るも、ついに仁菜が力負けしたのか少しドアが開いて小さな仁菜がちらりと姿を現す。その姿に涼香がびっくりしてドアノブから手を離した途端バタンと勢いよくドアが閉まった。
涼香の目は獲物を見つけたかのような恐ろしいものになっていた。
「……今何かいた」
そう言って再度ドアノブに手をかけ力いっぱい引っ張り、とうとう仁菜を部屋から引きずり出した。
「わぁっ!」
勢い良く出てきた仁菜の腕をぐいっと掴んで、引っ張り上げる。
「何このちんちくりんっ」
「今日、同じ悪口二回目」
そう言って涙ぐみながら口を尖らせる仁菜。そんな仁菜にお構いなく、ゴジラの炎は火を増すばかり。
「何なのこの子!」
「ひぃーっ」
怒鳴りつけられ頭を抱えて悲鳴をあげる仁菜に、俺はため息をついた。
「親戚の子なんだ、訳あって今一緒に暮らしてて」
「親戚?」
「見て分かる通り別にやましいことなんて何一つないし。すぐに出てく予定だから」
「それでも嫌!親戚だって一緒に住むなんて考えられないっ。今すぐ違うところに引き取ってもらって!」
「動物じゃないんだから、そんな簡単にいくかよ」
「じゃ私の家で、この子引き取るわ」
有無言わせないセリフに冷たい目で見下ろされて身震いさせる仁菜。
「荷物まとめなさい」
こうなったら自分の要求が通るまで、頑として首を縦には振らない。
「勘弁してくれよ」
「じゃこの子どっか預けられるアテあるのっ?」
俺達のやり取りに両者の顔を見合わせながら、困ったような顔で行く末を見守るしかない仁菜。
「分かった、俺の知り合いに一人だけ頼める奴がいるから。そいつに連絡してみるよ」
「えっ!?」
びっくしたような顔で俺を見る仁菜。
「今日、会った水嶋だよ。別に変なことされたりしないから」
「えぇーっ!」
大きな声をあげる仁菜に、ゴジラの方をちらっと見て尋ねる。こいつと、
「……どっちがいい?」
「う……っ」
言葉に詰まる仁菜だったが、しばらく考えた後、鬼の形相のゴジラをちらっと見てやっと頷いてくれた。そしてその場で水嶋に電話をすると、二つ返事で快く了承が出る。
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