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step2 ポジティブシンキングが大事です
炸裂!スーパーポジティブ
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夜勤明け、目覚ましなしで昼間から寝続け、起きたのは夕方の6時だった。
冷蔵庫を開けて、ペットボトルの冷え切ったミネラルウォーターを飲む。
すると俺が起きてきたことに気付いたのか、すぐ横に仁菜がやってきた。
「彰人さん、お腹すいてますか?」
そう言う仁菜。
「何?作ってくれてんの?」
料理できたのか。
しかしキッチン周囲を見渡しても、手作り料理らしきものは見当たらない。
今開けている冷蔵庫の中を探してみても、それらしきものはない。
「いえ、これあげようと思って」
そう言って渡された一つの菓子パン。
「……何だ、これ」
「クリーム&苺ジャムパンです」
見りゃ分かるわ。
包装にでかでかと書いてあるし。
「なんですか?あんこ&バターの方が良かったですか?」
そう言って、もう一つ菓子パンを出してきた。
「いや、そういう訳じゃなくて……」
「よろしかったらお二つどうぞ」
少しあんこのパンを惜しそうに見ながら俺にくれようとする。
もういい自分で作ろ……。
二つのパンを仁菜に突き返し、何が作れるか冷蔵庫の中を眺める。
ホウレン草に、ぶなしめじ、残り物の鮭……。
適当にパスタでも作るか。
熱したフライパンにバターを溶かして、材料を炒め始めた俺を後ろから覗き込んでくる仁菜。
「言っとくけど、お前の分は作ってないからな」
甘やかして毎回作らされるはめになったら面倒だ。
「大丈夫です、私には大好きな菓子パンとプリンがあるので」
そう言って冷蔵庫の中から、ぷっちんプリンを取り出す。
そして、カップから皿にプリンを出した。
「うわ、そうやって食う奴久しぶりに見たわ」
なんとも懐かしい光景。
小さい頃、自分もやった記憶がある。
だけどそれを大人になってからやる奴がいたなんて。
すると奴は何を勘違いしたのか、ふふんと調子に乗り始めた。
「あら、それはなんてお行儀が悪いのでしょう」
「…………」
どうやら、プリンは皿にのせるのが行儀が良いと思っているらしい。
脳内お花畑な奴だとは思っていたが、ここまでくると不憫にも思えてくる。
なんて可哀想な頭なんだ。
ダイニングのテーブルに、さっきの二つのパンと、小さなパック牛乳1本。
それとプリンを並べると、奴は両手を揃えていただきますと言った。
まさか、本当にそれがお前の晩御飯のつもりなのか……。
思わず目を疑ってしまう。
なんていう食生活してるんだ。
「お前、夜いつもそんなの食べてるのか?」
「はい?菓子パン大好きです」
片手ではむと菓子パンを咥え、もう片方の手でパック牛乳を吸う。
はむはむ、ちゅーちゅー。
テレビでよく見る刑事の定番の張り込み食を、仁菜は満足そうに食べていた。
なんだか本当に不憫に思えてきたが、もう関わらないと決めたのだ。
付け込まれて、何かと頼られるようになったら厄介だし。
ふと、リビングにあるテレビをつけた。
すると、仁菜が子どものように、パンを片手に持ちながらテレビに近づいて行った。
「おぉ、でかいっ、小さな映画館みたい」
「大げさだな」
「だって、仁菜のテレビの4倍いや、5倍はありますよっ」
両手いっぱい広げながら、オーバーリアクションをとる仁菜。
俺はチャンネルをいつも見ているニュースに合わせた。
すると今まで、テレビにきゃっきゃっ言っていたのに途端に静かになってしまった。
なんだそんなにニュースが気に食わなかったのか。
奴の様子をちらっと盗み見ると、食いつくようにテレビに夢中になっていた。
本当に子どもかっての。
『今日は、江の島からお送りしまーす』
背後のテレビから聞こえる女子アナウンサーの高らかな声。
キッチンでその音声だけ聞きながら、火が通るまで具材を炒め続ける。
すると、次の瞬間、今まで静かにテレビを見ていた仁菜がいきなり大声を上げた。
「海っ!」
その声に驚いて、後ろを振り向く。
「大げさな奴だな、見たことないのか」
「失礼なっ。見たことありますよー、でもこんなに大きなテレビで見るのは初めてっ」
……質問を変えよう。
「海行ったことないのか?」
「え?はい。お母さん忙しい人でしたから」
「へぇ、それはまたなんていうか……」
可哀想、それこそ不憫……?
思わず言葉に詰まってしまった。
別に、実際に海を見たことがない位でなんだっていうんだ。
内陸に住んでいたら、そんなに珍しいことでもないだろ。
「彰人さん、海って本当にしょっぱいんですか?やっぱり体浮くんですか?」
大画面で見る海に興奮した仁菜は矢継ぎ早に質問してくる。
それに答えようと後ろを向いたところ、ふと目に入った仁菜の表情。
「あんな風にキラキラしてるんですか?」
また、能天気にへらへら笑っているのかと思った。
なのに、そこにはどこか少し侘びしそうな顔をした仁菜がいた。
はぁ……。
心の中で大きなため息をつく。
俺もどうしようもないな。
「あ、もう終わっちゃった」
そう言いながらダイニングへ戻ってくる。
もう一つのパンの包装を開けようとしたところ、見かねた俺はそれを止めた。
「ちょっと待て、それは開けるな。プリンもまだ食べるなよ」
「え?なんでですか?やっぱり食べたかったんですか?」
「それよりは、ちゃんとしたご飯作ってやるから」
火にかけていた具材をおろし、少し多めにクリームを作り始める。
その横では、2人分のパスタを茹でながら。
「違う、違う、なんで中指がここに来るんだ」
「うわーん、スパルター」
泣きごとを言う仁菜。
頭が足りないせいもあって言われた通りにできない仁菜に、とうとう嫌気がさして奴の右手を掴んで手取り足取り教えてやることに。
すると奴は一体何を勘違いしたのか途端に静まり返り、ぽっと頬をピンク色に染めて俺を見つめてきた。
シカトしようとした時、そっと俺の手の上に仁菜の左手が乗っかる。
思わず、ぞわっとしてすぐその手を払いのけた。
「気持ちわりぃな」
「あぁ、彰人さんが、やっぱり優しい人で良かったです」
「は?」
優しい人?
思わず唖然としてしまう。
たった今その俺に手を振り払われたばかりなのに、よくそう思えるな。
まぁ、こいつの見当違いなスーパーポジティブは今に始まったことじゃないか。
その後食事を終えて、リビングのソファーに座ってコーヒーを飲みながらテレビを見て過ごす。
しかし、右側がなんか暑苦しい。俺の中の不快指数バロメーターがどんどん上昇していく。
もうその存在をしばらくシカトしていたいところだったが、そうもしていられない。
仁菜が俺のすぐ隣で、ソファーに座っていたのだった。
まだそれでテレビの方を向いているのなら許せたかもしれない。
しかし、奴は体ごと俺の方を向いてじっと熱い視線を送ってくるのだ。
まるで尻尾を振った犬が、構って欲しいアピールをするように。
「……何だよ?」
痺れを切らし、あからさまに不機嫌そうにそう聞く。
「ご飯おいしかったです、ありがとうございました」
「どういたしまして……、あのさ、自分の部屋にテレビあんだろ?そっちで見ろよ」
「そんなっ、彰人さんと一緒にテレビが見たいんです」
見てねぇだろうが……っ
「じゃ、そっちのソファー座ってくれるか」
「ここがいいんです、お兄ちゃんの隣がっ」
そう言ってべったり俺の右腕に抱きついてくる。
その瞬間、不快指数のバロメーターが上限いっぱいに振り切った。
有無を言わさず強引に俺から引きはがすと、
「懐くなっ、それからその呼び方止めろっ!」
と叫んだ。
しかし、スーパーポジティブはこんなことじゃめげやしない。
「これなら、お兄ちゃんと呼べる日もそう遠くはありませんねっ」
そう言ってニコニコ微笑んだ。
ふざけんな、呼ばせてたまるかっつーの。
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