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step1 フシダラな者ですがよろしくお願いします!
自称妹と、絶対に認めたくないマン
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そんな俺に奴は、少し離れたところでにっかーと笑うと、すぐさま駆け寄ってきた。
「やっと後ろ向いてくれた!昨晩はどうもありがとうございましたっ」
息を切らしながらそう頭を下げる彼女。もう秋だっていうのに、額にはうっすら汗をにじませている。
「……わざわざいいのに」
「いや、私も帰り道こっちだったので」
「そっか、じゃ、気を付けて」
そう言ってあっさり別れようとしたのに、奴は歩く俺の横に足早に並んで話しかけてきた。
「先生はどこの駅で降りるんですか?」
「広尾だけど」
それを聞くなりぱぁっと更に明るくなる表情。にこにこしながら、次に奴は信じ難い発言をする。
「一緒だー」
そう言い放った彼女に、いかにも嫌そうな顔をした。
しかしなぜか浮かれた彼女には一向に伝わらない。
……あぁ、もう、勘弁してくれ。
まさか、電車も一緒に乗るつもりか。
あぁ、目の前のエスカレーターが憎たらしい。
ここが階段だけだったら、奴は必然的にエレベーターに乗るだろうからそこで別れられたのに。
ホームへと登っていくエスカレーターを今日程疎ましく思ったことはなかった。
電車でも2人並んで席に座る。
すると、奴は何やらスーツケースとは別に持っている手持ちのバッグをこっそり覗き込んだ。
「ハムちゃん、お腹すいたかな?」
小声でそう言いながら、バッグの小物入れのようなところにすっぽり入ったハムスターにひまわりのタネをあげ始めた
周囲には見えないものの、カリカリカリと小さな音が車内に響いてちらちら不審がるように見られる。
なんと非常識な……。
「何もこんな公共の場でやらなくても、家に着いてからでいいだろ」
「すいません。でもハムちゃん、昨日から何も食べてないからお腹空かせてて」
ごめんねー、と言いながらハムスターの頭を指先で撫でる。
「……そんなに持ち歩く程大事なのか?」
「大事ですっ、私の唯一の家族です!」
「え、そのネズミが?」
「ネ、ネズミじゃありません!ハムスターです!」
そんなことを言われては心外だとばかりに、声を張り上げて怒る彼女。
「いつもは、こんな持ち歩いたりなんてしません。ちょっと今は緊急事態なだけで」
緊急事態?
ちゃんと意味分かって使ってるのだろうか?彼女からはそんな切迫感一切感じられない。
しかし、唯一の家族だなんて、大げさだな。
どうやら俺の知らない複雑な事情があるようだ。
そう考えると今までのようにあからさまにないがしろにはできず、少しだけ情が湧いてきてきた。
「……色々大変みたいだな」
少しだけなら話を聞いてやらなくもないと、話の切り口になるようにそう言った。
「はい、世の中はどうも塩辛くて……」
シオカライ……?
世知辛いと言いたいのだろうか。
突っ込もうと思ったが、今はスルーして彼女の話をちゃんと聞いてやることに。
しかし、そんな俺の、ほんの少し見せた優しさも空振りに終わることになるとは……。
「何か抱えてるものがあるなら、周りの大人に、
「あ、そろそろ降りる駅に着きますね。ハムちゃん、またあとであげるからね」
……相談するんだよ、と続くところを奴は聞いていたのか、いなかったのか、俺が話しているのを遮ってハムスターに話しかけた。
そして、奴はさっきまでと変わらない明るい口調で、にこにこしながら全く興味のないネズミを紹介してくれたのだ。
名前はハム子て、通称ハムちゃんと呼んでて、好きな食べ物は云々カンヌン。
聞いてもいないのにハムちゃんとやらの話を聞かされるはめに。
……なんなんだこいつは。
病院のおばあちゃんやおじいちゃんよりも話が噛み合わないぞ。
人がせっかく優しくしてやったというのに。
しかも、そんなに大事にしてるくせに、ハム子のハムちゃんて……。
ネーミング安直過ぎやしないか。
しかも通称ハムちゃんなら、名前それだけでいいだろ。
ハム子って名前いるか?
今の若い子は皆こんなぶっ飛んでるんだろうか。たまに、病院にもおかしな子はいるけど。
俺にはついていけない。
短時間だというのに、話の相手をしているだけでどっと疲れた。
さほど電車に乗っていないはずなのに、もう数十分も乗っていた気がする。
駅に着くなり、「じゃ」と短い別れを告げ、さっさと奴から離れようと目の前のエスカレーターを無視して横の階段から急いで駆け下りた。
はぁはぁと息を切らしながら、家に向かって歩き始めたところ聞き覚えのある嫌な音が迫ってきていた。
どうか、出張帰りのサラリーマンか旅行帰りのどこぞの誰かでありますように……っ
決して、奴では……っ
恐る恐る振り返った先には、こいつだけではありませんように、と願っていた張本人がいた。
恐ろしくて、思わずたじろいでしまう。
一体いつの間に……!
奴は難しい顔をしながら、紙切れをじっと眺めていた。
「先生、ちょっと道をお尋ねしたいんですが……」
「それなら交番で聞け」
そうあしらう俺に構わず、ずいっと紙を出してくる。
「ここに行きたいんです」
ちらっと見た、いや強制的に視界に入れさせられた紙きれには、見覚えのある住所が。
……てか、これって、俺んちの住所じゃねぇか!
「なんで?ここに何の用なんだ?」
「お父さんが、しばらくここでお世話してもらいなさいって。優しいお兄さんがいるからって」
……な、なんだそりゃ!!
まっったくそんなこと聞いてないんだが。しかも妹がいたなんて初耳だし。
……いやいや、待てあの親父だ。
昔から放浪癖があって、年がら年中ファッション感覚で女を取っ替え引っ替えしていた奴だ。
俺ができたから母親とデキ婚したが、そんな自由人な親父に母親は早々に嫌気がさしてすぐ離婚。
それからというものの、父一人子一人の父子家庭で慎ましく育ち……、
なんていうのは表向きで、父のたくさんいた彼女が母親を気取って色々世話を見てくれていた。
そんな女癖の悪い父親なもんだから、母親違いの兄妹がいたって何らおかしくないのだ。
だけど、こいつが俺の妹なんて……。
「やっと後ろ向いてくれた!昨晩はどうもありがとうございましたっ」
息を切らしながらそう頭を下げる彼女。もう秋だっていうのに、額にはうっすら汗をにじませている。
「……わざわざいいのに」
「いや、私も帰り道こっちだったので」
「そっか、じゃ、気を付けて」
そう言ってあっさり別れようとしたのに、奴は歩く俺の横に足早に並んで話しかけてきた。
「先生はどこの駅で降りるんですか?」
「広尾だけど」
それを聞くなりぱぁっと更に明るくなる表情。にこにこしながら、次に奴は信じ難い発言をする。
「一緒だー」
そう言い放った彼女に、いかにも嫌そうな顔をした。
しかしなぜか浮かれた彼女には一向に伝わらない。
……あぁ、もう、勘弁してくれ。
まさか、電車も一緒に乗るつもりか。
あぁ、目の前のエスカレーターが憎たらしい。
ここが階段だけだったら、奴は必然的にエレベーターに乗るだろうからそこで別れられたのに。
ホームへと登っていくエスカレーターを今日程疎ましく思ったことはなかった。
電車でも2人並んで席に座る。
すると、奴は何やらスーツケースとは別に持っている手持ちのバッグをこっそり覗き込んだ。
「ハムちゃん、お腹すいたかな?」
小声でそう言いながら、バッグの小物入れのようなところにすっぽり入ったハムスターにひまわりのタネをあげ始めた
周囲には見えないものの、カリカリカリと小さな音が車内に響いてちらちら不審がるように見られる。
なんと非常識な……。
「何もこんな公共の場でやらなくても、家に着いてからでいいだろ」
「すいません。でもハムちゃん、昨日から何も食べてないからお腹空かせてて」
ごめんねー、と言いながらハムスターの頭を指先で撫でる。
「……そんなに持ち歩く程大事なのか?」
「大事ですっ、私の唯一の家族です!」
「え、そのネズミが?」
「ネ、ネズミじゃありません!ハムスターです!」
そんなことを言われては心外だとばかりに、声を張り上げて怒る彼女。
「いつもは、こんな持ち歩いたりなんてしません。ちょっと今は緊急事態なだけで」
緊急事態?
ちゃんと意味分かって使ってるのだろうか?彼女からはそんな切迫感一切感じられない。
しかし、唯一の家族だなんて、大げさだな。
どうやら俺の知らない複雑な事情があるようだ。
そう考えると今までのようにあからさまにないがしろにはできず、少しだけ情が湧いてきてきた。
「……色々大変みたいだな」
少しだけなら話を聞いてやらなくもないと、話の切り口になるようにそう言った。
「はい、世の中はどうも塩辛くて……」
シオカライ……?
世知辛いと言いたいのだろうか。
突っ込もうと思ったが、今はスルーして彼女の話をちゃんと聞いてやることに。
しかし、そんな俺の、ほんの少し見せた優しさも空振りに終わることになるとは……。
「何か抱えてるものがあるなら、周りの大人に、
「あ、そろそろ降りる駅に着きますね。ハムちゃん、またあとであげるからね」
……相談するんだよ、と続くところを奴は聞いていたのか、いなかったのか、俺が話しているのを遮ってハムスターに話しかけた。
そして、奴はさっきまでと変わらない明るい口調で、にこにこしながら全く興味のないネズミを紹介してくれたのだ。
名前はハム子て、通称ハムちゃんと呼んでて、好きな食べ物は云々カンヌン。
聞いてもいないのにハムちゃんとやらの話を聞かされるはめに。
……なんなんだこいつは。
病院のおばあちゃんやおじいちゃんよりも話が噛み合わないぞ。
人がせっかく優しくしてやったというのに。
しかも、そんなに大事にしてるくせに、ハム子のハムちゃんて……。
ネーミング安直過ぎやしないか。
しかも通称ハムちゃんなら、名前それだけでいいだろ。
ハム子って名前いるか?
今の若い子は皆こんなぶっ飛んでるんだろうか。たまに、病院にもおかしな子はいるけど。
俺にはついていけない。
短時間だというのに、話の相手をしているだけでどっと疲れた。
さほど電車に乗っていないはずなのに、もう数十分も乗っていた気がする。
駅に着くなり、「じゃ」と短い別れを告げ、さっさと奴から離れようと目の前のエスカレーターを無視して横の階段から急いで駆け下りた。
はぁはぁと息を切らしながら、家に向かって歩き始めたところ聞き覚えのある嫌な音が迫ってきていた。
どうか、出張帰りのサラリーマンか旅行帰りのどこぞの誰かでありますように……っ
決して、奴では……っ
恐る恐る振り返った先には、こいつだけではありませんように、と願っていた張本人がいた。
恐ろしくて、思わずたじろいでしまう。
一体いつの間に……!
奴は難しい顔をしながら、紙切れをじっと眺めていた。
「先生、ちょっと道をお尋ねしたいんですが……」
「それなら交番で聞け」
そうあしらう俺に構わず、ずいっと紙を出してくる。
「ここに行きたいんです」
ちらっと見た、いや強制的に視界に入れさせられた紙きれには、見覚えのある住所が。
……てか、これって、俺んちの住所じゃねぇか!
「なんで?ここに何の用なんだ?」
「お父さんが、しばらくここでお世話してもらいなさいって。優しいお兄さんがいるからって」
……な、なんだそりゃ!!
まっったくそんなこと聞いてないんだが。しかも妹がいたなんて初耳だし。
……いやいや、待てあの親父だ。
昔から放浪癖があって、年がら年中ファッション感覚で女を取っ替え引っ替えしていた奴だ。
俺ができたから母親とデキ婚したが、そんな自由人な親父に母親は早々に嫌気がさしてすぐ離婚。
それからというものの、父一人子一人の父子家庭で慎ましく育ち……、
なんていうのは表向きで、父のたくさんいた彼女が母親を気取って色々世話を見てくれていた。
そんな女癖の悪い父親なもんだから、母親違いの兄妹がいたって何らおかしくないのだ。
だけど、こいつが俺の妹なんて……。
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