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step1 フシダラな者ですがよろしくお願いします!

災難を呼ぶトラブルメイカー

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……あぁ、最悪だ。

さっさとこの感触から解放されたくて、足早に病室を出ようとしたところ、看護師に引きとめられた。

「せ、先生、とりあえずこちらをどうぞっ」

気を利かせた看護師が、甚平タイプの病衣を持ってきてくれたのだ。

使っていない近くの病室に案内され、やるせない気持ちでその病衣に着替える。
汚れたズボンとシャツは袋に入れてゴミ箱へ。

しかし急いでいたのか、1番小さなサイズを持ってこられてしまったようだ。おかげで、腕も足も袖が7分丈でつんつるてん。

病棟に戻ると、看護師が俺の不恰好な姿にはっとして目を張った。

「シャワー浴びたら、点滴オーダー入れとくから」

そんな視線も気にせず指示を出す。

「は、はい」

しかし、笑いをこらえている看護師2人。

「……なんで小さいの持ってきたのっ!」
「す、すいません、急いでたんですー」
「あれじゃ、つんつるてんじゃっ

「……何?」

小声で話してるつもりなのだろうが全て丸聞こえ。むっとして聞き返すと、2人は上がる口角を抑えながら口を揃えて言った。

「いえ、なんでもないです……っ」


……なんて厄日だろう、吐物をかけられるわ看護師には笑い者にされるわ。

げんなりしながら、院内のシャワールームへ直行した。

シャワーを浴びた後、病棟に戻り指示を出して仮眠室へ。




数時間の浅い睡眠をとると、朝になっていた。


……あぁ、またあいつの顔を見なくちゃいけないなんて。
自分に吐物をぶっかけた奴の顔なんて、できればもう見たくない。

あいつの顔を見たら、またあの鳥肌がたつような感触を思い出しそうだ。

しかもこの病衣で院内をうろちょろしなきゃいけないなんて、なんて羞恥プレイだろうか。

明るくなって、ちらほら院内スタッフが見受けられるようになったなか、病室へ向かう。

俺と分かると慌てて挨拶され、ちらちら何事かと好奇の目を向けられる。


そんな中、後ろから声をかけられた。


「すいません、どちらの部屋の患者さんですか?こんな時間にどうされました?」

そりゃあ、朝からつんつるてんの病衣を着ながらすたすた歩いている男がいたら不審に思うだろう。

「……俺だ」

そう言いながら振り向くと、そこには他病棟の看護師がいた。

「せ、先生……っ!?い、一体どうされたんですか!」

驚いた看護師にそう聞かれるも、事情を話す気にはなれず、大丈夫だとだけ言って奴の病室へ向かった。




病室に着くと、問題の奴は明け方目を覚ましすっかり酔いも覚めてるとのこと。

……しょうがない、これも仕事だ。
奴がいるベッドのカーテンを開け、顔を見に行く。

「……楠原さん、大丈夫?」

「あ、もう大丈夫です。昨日は本当に色々お世話になりました」

奴は俺が来ると、ベッドの上に座って明るい口調でそう答えた。
昨日俺に向かって吐きちらかしたのを綺麗さっぱり忘れているよう。

思わず、眉間に皺が寄ってしまう。

「ご迷惑をおかけしてしまい、今後は気をつけます」

ぺこっと頭を下げる姿に、俺も笑って応えた。

「ははは、本当だよ」

それを見た看護師がひっと言いながら俺に耳打ちする。

「あ、あの、先生、目が笑ってません……っ」

「あれ?おかしいな、笑ってるつもりなんだけど」

苛立ちと疲労で口角をあげただけの笑みを浮かべる。
それは、はたから見ると恐ろしい形相をしていたようだ。


そして、病棟内のパソコンで退院書類を仕上げていく。

しかし、そんなつんつるてんの病衣姿で朝から主力のパソコン前を陣取り、書類を出す姿はどうみてもおかしかろう。

朝出勤したばかりの事情を知らない看護師達が俺の方を見ながら、コソコソ何か言っていたが、もうこうなったらヤケクソだ。

居心地の悪い雰囲気にさっさと仕上げて、逃げ出すように病棟を後にした。



更衣室で私服に着替え、覚束ない足取りで帰宅する。

あぁ、なんでこんな日に車がないんだろうか……。
明けに電車で帰るとか苦痛過ぎる。

そう、今運悪く車検に出していて、電車通勤していたのだ。

病院を出て最寄り駅まで向かう途中、土曜日の朝というだけあって人はまばらだった。
平日のこの時間帯だったら、通勤途中のサラリーマンやらOLがわんさかいる。

良かった、今日がまだ土曜日で……。

なんて思いながら、ふらふら歩いていると後ろから子供のような声で呼び止められた。

どこかで聞いたことがあるような声だ、しかもついさっきまで。


「先生……っ!」 

後ろを振り向くとそこには、なんとさっきまで病室にいた奴の姿があった。
早速、退院して出てきたのだろう。

ゴロゴロとでかいスーツケースを転がしながら、駆け寄ってくる。
体が小さいものだから、余計スーツケースが大きく見えた。

彼女と少し距離があったことをいいことに、すぐさま前を向くと、追いつかれないように少し足早に歩いた。

これ以上関わりたくなくて、彼女としっかり目を合わせておきながら、この期に及んで気づかないフリをすることにしたのだ。


「先生っ?あれ、聞こえてないのかなー?」

と、独り言にしては大きすぎる声でボヤきながら後をついてくる。

俺は逃げるように更に早足で歩いた。
しかし、奴は予想以上にしつこく、ガラガラとけたたましい音を鳴らしながらついてくる。

……普通シカトされてるって気付かないか?
一体、俺に何の用だって言うんだ。

しばらくして諦めたのか、ゴロゴロの音が静かに遠くなっていった。
あのでっかなスーツケースだ、重いだろうしさすがに疲れたんだろう。

少し悪い気もしたが、これ以上トラブルには巻き込まれたくない。

そんな多少の罪悪感を感じ始めていた頃、


「せーんせーっ」

奴が街路だというのにも気にせず、背後でそう喚いたのだ。

なんて、恥知らずな奴なんだ。
なんなんだよ、もう。

そこまでして俺を呼ぶ彼女に、観念して立ち止まると、心の中で愚痴りながら振り返った。


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