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71.避難開始
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「みんな、準備は良い?」
『うん、大丈夫!!』
『俺も大丈夫なんだぞ!!』
『全部荷物入ってますです!!』
「入ってるで良いんだよ」
『こっちも大丈夫だ!!』
「じゃあ、これから外に出るからね。テディーとアンセル以外は、一応僕と一緒だけど、離れちゃったら覚えてるね!!」
『『『うん!!』』』
こういう時のために、お母さんが作っておいてくれた洋服。前ポケットの大きい方にはモグーが。小さい方にはハピちゃんが入って。今は顔だけ出している状態だ。
そして洋服に付いている大きめのフードには、セレン家族みんなで入って貰っている。こちらも今は顔を出した状態だ。
それだけじゃない。それぞれにボタンが付いていて。ポケットの外からでも中からでもボタンを閉めれて、すっぽりと中に隠れる事ができるんだ。もちろんセレン達は練習済みで、僕が手伝わなくて身、手や鼻を使ってサッと閉めることができる。
避難はもちろん、何かが起きた場合に、みんなが一緒に逃げる事ができるように、お母さんが作ってくれた特別な洋服なんだ。
もちろんみんなが入れるように、ポケットもフードも大きめに作られていて、初めて見た人は、変な洋服に見えるかもしれないけれど。みんなと避難するには完璧な、お母さん手作りの、僕達にって大切な洋服だよ。
アンセルの方は、アンセルの背中にテディーが乗っている。本当は歩かせても良いんだけど、今はまだなるべく体力温存ってことで、背中に乗せるって。それに今はできるだけまとまっていた方が良いからね。
テディーが乗りやすいよう、みんなにバレない程度に、アンセルは少しだけ大きくなった。いつも一緒に居る僕達や、良く見ている人なら気づくかも知らないけど。今の状態じゃあ気づく人はいないだろう、ってくらいの大きさにね。
治療院の1階に行くと、さっきまでごった返していたのが嘘みたいに、半分以上人が居なくなっていた。それだけみんなもう避難で出て行ったって事だろう。
「アーベル!!」
「はい!!」
最後まで残ることになっているメイナード先生に呼ばれ、先生の居る受付へ行くと、小さな袋を渡された。
「その中には上級の回復薬が入っている。ひと口飲めば数秒で、大きな怪我以外、怪我も体力も魔力も回復する回復薬だ。治療院で働いてくれている、すべての者に配っている。君の大切な家族達の分も入っているよ」
メイナード先生がセレン達を見ながらそう言った。チラッと袋の中を覗いて、薬を見た僕。
「そんな、上級の回復薬を、全員分なんて!!」
「もしもの時のために、最初から用意してあった物だから気にしないように。誰かが新しくこの治療院に入ってくれば、すぐに作って保管しておくんだ。他の治療院もね。別の街では知らないけれど。この街の治療院にはそうするように言ってあるんだ」
「でも、この薬は……」
袋の中に入っていた上級の薬は、僕達には簡単に買えない、超高級な薬が入っていたんだ。そんな薬を人数分?
「だって、僕達はみんなの最後の要なんだよ。僕達が倒れれば、誰が他の人達を治療するんだい? 治療をする人がいなければ、最終的には我々は死ぬことになるかもしれないんだ。僕達は最後まで元気でいないとね。と、まぁこれは建前で、僕達がこれくらい持っていても文句は言わせないさ」
「文句?」
「だってそうだろう? 戦う者達は武器を持っているんだから。じゃあ僕達の武器は? 僕達の武器は治療と薬だろう? その武器を持っていて何が悪い。だろう?」
「え、ええ、まぁ」
「だからもし、アーベルがその薬のことで、もし文句を言われたらそう言ってやりなさい。まぁ、なるべく他の人には見せない方が良いけれどね」
メイナード先生がニッと笑った。
「先生、ありがとうございます」
「もしも街に帰って来られなかったら何処へ?」
「父方に祖父母の元へ行く予定です」
「ああ、なるほど。ではもし何かあった場合は、私もそちらを訪ねようかな。よし、それじゃあ気をつけて」
「先生も」
先生にみんなが挨拶して、僕は外へ向かおうとした。と、アンセルが僕を止めてきて。近くに魔獣が来ているから、裏口から出た方が良いと。すぐにその事をメイナード先生に伝え、先生は患者達の避難を開始する。僕はそのまま裏口の方へ。
『結界に綻びが生じているんだ。そのせいで飛べる者達が、中へ入って来てしまっている』
「何が来ているから分かるか?」
『おそらくワイバーンだろう』
「分かった。みんな、危ないと思ったり、僕が入ってって言ったら、すぐにしっかりと中へ入るんだよ」
裏口へ移動すると、そっとドアを開ける。空を見ると、今のところ目では魔獣を確認することはできず。だけどアンセルが近くにいるって言っているんだからな。気をつけないと。僕は気をつけながら完全に外へ出て、屋根に下を歩き始めた。
外に出ると、建物の中でもかなり大きな音と騒ぎが聞こえていたけど、それの3倍くらいの音がしていて、壁の方からは煙が見えた。中でも所々煙は見えていたけど、見ながら歩いていたら、その煙はすぐに消えたから、たぶん魔法で消したんだろう。まだ壁以外は、大きな損傷はないように見える。
『音、凄いね』
『魔物の声もいっぱい聞こえるな』
『ワーワー煩い』
『パパ、森に居た時よりも、魔物いっぱい?』
『ああ、いっぱいだぞ』
『あなた、薬はしっかり持ってきているわね』
『ああ、大丈夫だ』
早歩きでどんどん進んでいく僕。僕達の横を何人もの人達が走って逃げていく。あんな道の真ん中を堂々と逃げてたら、魔物達の格好の獲物だよ。でも、みんなの気持ちも分かるからな。早く逃げないとってなるのは当たり前で。
僕も走っても良いけど、なるべく見つからないように、体力は温存しておかないと。最初から走って逃げてたら、いくら薬があったって足りやしない。それに避難は慌てず、騒がず、落ち着いて。
『アーベル、そこの建物の隙間に隠れろ!!』
突然アンセルにそう言われて、僕は急いで建物の隙間に隠れた。
『うん、大丈夫!!』
『俺も大丈夫なんだぞ!!』
『全部荷物入ってますです!!』
「入ってるで良いんだよ」
『こっちも大丈夫だ!!』
「じゃあ、これから外に出るからね。テディーとアンセル以外は、一応僕と一緒だけど、離れちゃったら覚えてるね!!」
『『『うん!!』』』
こういう時のために、お母さんが作っておいてくれた洋服。前ポケットの大きい方にはモグーが。小さい方にはハピちゃんが入って。今は顔だけ出している状態だ。
そして洋服に付いている大きめのフードには、セレン家族みんなで入って貰っている。こちらも今は顔を出した状態だ。
それだけじゃない。それぞれにボタンが付いていて。ポケットの外からでも中からでもボタンを閉めれて、すっぽりと中に隠れる事ができるんだ。もちろんセレン達は練習済みで、僕が手伝わなくて身、手や鼻を使ってサッと閉めることができる。
避難はもちろん、何かが起きた場合に、みんなが一緒に逃げる事ができるように、お母さんが作ってくれた特別な洋服なんだ。
もちろんみんなが入れるように、ポケットもフードも大きめに作られていて、初めて見た人は、変な洋服に見えるかもしれないけれど。みんなと避難するには完璧な、お母さん手作りの、僕達にって大切な洋服だよ。
アンセルの方は、アンセルの背中にテディーが乗っている。本当は歩かせても良いんだけど、今はまだなるべく体力温存ってことで、背中に乗せるって。それに今はできるだけまとまっていた方が良いからね。
テディーが乗りやすいよう、みんなにバレない程度に、アンセルは少しだけ大きくなった。いつも一緒に居る僕達や、良く見ている人なら気づくかも知らないけど。今の状態じゃあ気づく人はいないだろう、ってくらいの大きさにね。
治療院の1階に行くと、さっきまでごった返していたのが嘘みたいに、半分以上人が居なくなっていた。それだけみんなもう避難で出て行ったって事だろう。
「アーベル!!」
「はい!!」
最後まで残ることになっているメイナード先生に呼ばれ、先生の居る受付へ行くと、小さな袋を渡された。
「その中には上級の回復薬が入っている。ひと口飲めば数秒で、大きな怪我以外、怪我も体力も魔力も回復する回復薬だ。治療院で働いてくれている、すべての者に配っている。君の大切な家族達の分も入っているよ」
メイナード先生がセレン達を見ながらそう言った。チラッと袋の中を覗いて、薬を見た僕。
「そんな、上級の回復薬を、全員分なんて!!」
「もしもの時のために、最初から用意してあった物だから気にしないように。誰かが新しくこの治療院に入ってくれば、すぐに作って保管しておくんだ。他の治療院もね。別の街では知らないけれど。この街の治療院にはそうするように言ってあるんだ」
「でも、この薬は……」
袋の中に入っていた上級の薬は、僕達には簡単に買えない、超高級な薬が入っていたんだ。そんな薬を人数分?
「だって、僕達はみんなの最後の要なんだよ。僕達が倒れれば、誰が他の人達を治療するんだい? 治療をする人がいなければ、最終的には我々は死ぬことになるかもしれないんだ。僕達は最後まで元気でいないとね。と、まぁこれは建前で、僕達がこれくらい持っていても文句は言わせないさ」
「文句?」
「だってそうだろう? 戦う者達は武器を持っているんだから。じゃあ僕達の武器は? 僕達の武器は治療と薬だろう? その武器を持っていて何が悪い。だろう?」
「え、ええ、まぁ」
「だからもし、アーベルがその薬のことで、もし文句を言われたらそう言ってやりなさい。まぁ、なるべく他の人には見せない方が良いけれどね」
メイナード先生がニッと笑った。
「先生、ありがとうございます」
「もしも街に帰って来られなかったら何処へ?」
「父方に祖父母の元へ行く予定です」
「ああ、なるほど。ではもし何かあった場合は、私もそちらを訪ねようかな。よし、それじゃあ気をつけて」
「先生も」
先生にみんなが挨拶して、僕は外へ向かおうとした。と、アンセルが僕を止めてきて。近くに魔獣が来ているから、裏口から出た方が良いと。すぐにその事をメイナード先生に伝え、先生は患者達の避難を開始する。僕はそのまま裏口の方へ。
『結界に綻びが生じているんだ。そのせいで飛べる者達が、中へ入って来てしまっている』
「何が来ているから分かるか?」
『おそらくワイバーンだろう』
「分かった。みんな、危ないと思ったり、僕が入ってって言ったら、すぐにしっかりと中へ入るんだよ」
裏口へ移動すると、そっとドアを開ける。空を見ると、今のところ目では魔獣を確認することはできず。だけどアンセルが近くにいるって言っているんだからな。気をつけないと。僕は気をつけながら完全に外へ出て、屋根に下を歩き始めた。
外に出ると、建物の中でもかなり大きな音と騒ぎが聞こえていたけど、それの3倍くらいの音がしていて、壁の方からは煙が見えた。中でも所々煙は見えていたけど、見ながら歩いていたら、その煙はすぐに消えたから、たぶん魔法で消したんだろう。まだ壁以外は、大きな損傷はないように見える。
『音、凄いね』
『魔物の声もいっぱい聞こえるな』
『ワーワー煩い』
『パパ、森に居た時よりも、魔物いっぱい?』
『ああ、いっぱいだぞ』
『あなた、薬はしっかり持ってきているわね』
『ああ、大丈夫だ』
早歩きでどんどん進んでいく僕。僕達の横を何人もの人達が走って逃げていく。あんな道の真ん中を堂々と逃げてたら、魔物達の格好の獲物だよ。でも、みんなの気持ちも分かるからな。早く逃げないとってなるのは当たり前で。
僕も走っても良いけど、なるべく見つからないように、体力は温存しておかないと。最初から走って逃げてたら、いくら薬があったって足りやしない。それに避難は慌てず、騒がず、落ち着いて。
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