上 下
71 / 72

71.避難開始

しおりを挟む
「みんな、準備は良い?」

『うん、大丈夫!!』

『俺も大丈夫なんだぞ!!』

『全部荷物入ってますです!!』

「入ってるで良いんだよ」

『こっちも大丈夫だ!!』

「じゃあ、これから外に出るからね。テディーとアンセル以外は、一応僕と一緒だけど、離れちゃったら覚えてるね!!」

『『『うん!!』』』

 こういう時のために、お母さんが作っておいてくれた洋服。前ポケットの大きい方にはモグーが。小さい方にはハピちゃんが入って。今は顔だけ出している状態だ。
 そして洋服に付いている大きめのフードには、セレン家族みんなで入って貰っている。こちらも今は顔を出した状態だ。

 それだけじゃない。それぞれにボタンが付いていて。ポケットの外からでも中からでもボタンを閉めれて、すっぽりと中に隠れる事ができるんだ。もちろんセレン達は練習済みで、僕が手伝わなくて身、手や鼻を使ってサッと閉めることができる。

 避難はもちろん、何かが起きた場合に、みんなが一緒に逃げる事ができるように、お母さんが作ってくれた特別な洋服なんだ。

 もちろんみんなが入れるように、ポケットもフードも大きめに作られていて、初めて見た人は、変な洋服に見えるかもしれないけれど。みんなと避難するには完璧な、お母さん手作りの、僕達にって大切な洋服だよ。

 アンセルの方は、アンセルの背中にテディーが乗っている。本当は歩かせても良いんだけど、今はまだなるべく体力温存ってことで、背中に乗せるって。それに今はできるだけまとまっていた方が良いからね。

 テディーが乗りやすいよう、みんなにバレない程度に、アンセルは少しだけ大きくなった。いつも一緒に居る僕達や、良く見ている人なら気づくかも知らないけど。今の状態じゃあ気づく人はいないだろう、ってくらいの大きさにね。

 治療院の1階に行くと、さっきまでごった返していたのが嘘みたいに、半分以上人が居なくなっていた。それだけみんなもう避難で出て行ったって事だろう。

「アーベル!!」

「はい!!」

 最後まで残ることになっているメイナード先生に呼ばれ、先生の居る受付へ行くと、小さな袋を渡された。

「その中には上級の回復薬が入っている。ひと口飲めば数秒で、大きな怪我以外、怪我も体力も魔力も回復する回復薬だ。治療院で働いてくれている、すべての者に配っている。君の大切な家族達の分も入っているよ」

 メイナード先生がセレン達を見ながらそう言った。チラッと袋の中を覗いて、薬を見た僕。

「そんな、上級の回復薬を、全員分なんて!!」

「もしもの時のために、最初から用意してあった物だから気にしないように。誰かが新しくこの治療院に入ってくれば、すぐに作って保管しておくんだ。他の治療院もね。別の街では知らないけれど。この街の治療院にはそうするように言ってあるんだ」

「でも、この薬は……」

 袋の中に入っていた上級の薬は、僕達には簡単に買えない、超高級な薬が入っていたんだ。そんな薬を人数分? 

「だって、僕達はみんなの最後の要なんだよ。僕達が倒れれば、誰が他の人達を治療するんだい? 治療をする人がいなければ、最終的には我々は死ぬことになるかもしれないんだ。僕達は最後まで元気でいないとね。と、まぁこれは建前で、僕達がこれくらい持っていても文句は言わせないさ」

「文句?」

「だってそうだろう? 戦う者達は武器を持っているんだから。じゃあ僕達の武器は? 僕達の武器は治療と薬だろう? その武器を持っていて何が悪い。だろう?」

「え、ええ、まぁ」

「だからもし、アーベルがその薬のことで、もし文句を言われたらそう言ってやりなさい。まぁ、なるべく他の人には見せない方が良いけれどね」

 メイナード先生がニッと笑った。

「先生、ありがとうございます」

「もしも街に帰って来られなかったら何処へ?」

「父方に祖父母の元へ行く予定です」

「ああ、なるほど。ではもし何かあった場合は、私もそちらを訪ねようかな。よし、それじゃあ気をつけて」

「先生も」

 先生にみんなが挨拶して、僕は外へ向かおうとした。と、アンセルが僕を止めてきて。近くに魔獣が来ているから、裏口から出た方が良いと。すぐにその事をメイナード先生に伝え、先生は患者達の避難を開始する。僕はそのまま裏口の方へ。

『結界に綻びが生じているんだ。そのせいで飛べる者達が、中へ入って来てしまっている』

「何が来ているから分かるか?」

『おそらくワイバーンだろう』

「分かった。みんな、危ないと思ったり、僕が入ってって言ったら、すぐにしっかりと中へ入るんだよ」

 裏口へ移動すると、そっとドアを開ける。空を見ると、今のところ目では魔獣を確認することはできず。だけどアンセルが近くにいるって言っているんだからな。気をつけないと。僕は気をつけながら完全に外へ出て、屋根に下を歩き始めた。

 外に出ると、建物の中でもかなり大きな音と騒ぎが聞こえていたけど、それの3倍くらいの音がしていて、壁の方からは煙が見えた。中でも所々煙は見えていたけど、見ながら歩いていたら、その煙はすぐに消えたから、たぶん魔法で消したんだろう。まだ壁以外は、大きな損傷はないように見える。

『音、凄いね』

『魔物の声もいっぱい聞こえるな』

『ワーワー煩い』

『パパ、森に居た時よりも、魔物いっぱい?』

『ああ、いっぱいだぞ』

『あなた、薬はしっかり持ってきているわね』

『ああ、大丈夫だ』

 早歩きでどんどん進んでいく僕。僕達の横を何人もの人達が走って逃げていく。あんな道の真ん中を堂々と逃げてたら、魔物達の格好の獲物だよ。でも、みんなの気持ちも分かるからな。早く逃げないとってなるのは当たり前で。

 僕も走っても良いけど、なるべく見つからないように、体力は温存しておかないと。最初から走って逃げてたら、いくら薬があったって足りやしない。それに避難は慌てず、騒がず、落ち着いて。

『アーベル、そこの建物の隙間に隠れろ!!』

 突然アンセルにそう言われて、僕は急いで建物の隙間に隠れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

水の中でも何処でももふもふ!! あたらしい世界はもふもふで溢れていました

ありぽん
ファンタジー
転生先は海の中? まさか!? 水の中でももふもふを堪能できるなんて!! 高橋碧(たかはしあおい)は、小説の設定で時々みる、ある状況に自分が直面することに。 何と神様の手違いで死んでしまったのだった。 神様のお詫びとして新しい世界へ送られ、新しい生活を送ることになった碧。しかし新しい世界へと転生すれば、またもや神様のせいでまずい状況に? でも最悪な始まりをむかえた碧を、たくさんのもふもふ達がいやしてくれ。 もふもふパラダイスのこの世界で碧は、まったり? ゆっくり? もふもふを堪能できるのか。

処理中です...