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32.スノーベアーの親子

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 ハピちゃんは時々言葉を間違えるって言ったけど、慌てるとそれが酷くなっちゃって。何を言っているかさっぱり分からなかった。

 が、魔獣が怪我をしていて、それを確認してきたハピちゃんが、大変だと言っているんだから、僕が行かないわけには行かないだろう。ハピちゃんにどんな魔獣が居るのか聞いても、きっと分からないだろうしね。

「みんな、これから向こうへ行くけど、危ないと思ったらすぐに逃げて。僕も危ないと思ったらすぐに逃げるから」

『分かった!!』

『ちゃんと逃げるぞ!!』

『逃げる前に怪我見て!!』

 ハピちゃん分かってるよ。だけど僕が危ないと思ったら、ちゃんと逃げないとダメだからね。

 みんなで頷き合ってから、草むらを進んでいく。が、その途中だった。向こうから威嚇する声が。

『誰だ!! こちらへ来るな!! 来るのならお前達を殺すぞ!!』

 この声……、さっきの苦しそうな声を出していた魔獣と同じ声だよな? 俺達の存在に気づいて威嚇してきたか。おそらく近くにいるだろう子供を守るために。
 それにしてもしっかりと言葉が分かるな。ハピちゃんも少しは分かったけど、こんなにしっかりと分かるのは始めてだ。

 まぁ、それは良いとして。あれだけ苦しそうな声を出していたんだ。今はかなり無理をして声を出しているはず。もう僕達の存在は気づかれているんだから、ここは話しをしながら向こうへ出てみるか。

『さっさとそこから離れろ!!』

「待ってくれ!! 僕達は何もする気はない!! ちょっと声が聞こえて、僕の家族がこの森にいない魔獣の匂いがするって。だから確かめにきただけだ!!」

『ならこちらに来ず、サッサと帰れ!! お前達がそのまま帰ると言うのなら、私も攻撃はしない!!』

「でも、僕の家族によると、誰か怪我をしているんだろう!」

『すでにこっちの事を調べていたのか!? くそっ、早く逃げなければ!!』

 苦しそうな唸り声をあげて、向こうにいる魔獣が動いたような気がした。どんな怪我をしているのか分からないが、あれだけ苦しそうなんだ。なるべく動かない方が良いに決まっている。

「おい! そこを動くな!! 僕は回復魔法が使えるんだ!! 怪我を見せてくれれば、完全に治癒できないにしても、少しは良くできるかもしれない!! 僕達を怪我を治療した後、襲わないって言うのが条件だけど!!」

『怪我治る!?』

 小さな子供の声が聞こえた。

『パパの怪我治るの!? パパの怪我を治して!!』

『静かにしていなさい!! どんな者がそこにいるのか分からないのだぞ。怪我を治すなどと言って、我らを襲う気かもしれんのだ!!』

 と、その言葉にセレン達が怒った。

『ちょっと、僕達はそんな事しないよ!!』

『そうだぞ!! 僕達は襲って来ない魔獣には何にもしないんだぞ!!』

『怪我はダメ!! 治してくれてありがとうだよ!!』

 ハピちゃん、それは治療した後に、相手がそれに対して喜んでくれたら、言ってもらえる言葉だよ。

『もう!! 僕達が危険だなんて、僕達はこんなに可愛い僕達なのに!』

『俺はカッコいいの方が良いぞ』

『ボクは可愛いが良い』

『ねぇ、そうだよね』

『えー、カッコいい方が良いに決まってるぞ』

 みんな待って待って。今はその話はいいから。向こうに魔獣が居るんだよ? なんで可愛い、格好いい話しになってるの。

『……ふざけているのか。我らを油断させる罠か?』

 いや、違うから!! 罠でも何でもないから!! 話が逸れただけだから疑わないでくれ。ほら、みんなのせいで疑われちゃったじゃないか。

「とにかく!! 1度そっちに行くから、僕達を見てから判断してくれ!!」

 僕の言葉に、まだ威嚇してくる魔獣。でもこのままじゃどうにもならないし。それにさっきの子供の声。本当に助けて欲しそうな、可哀想な声をしていたからな。ぼくにできる事ならやってあげないと。

「いい、みんな。今みたいに違う話しはなしだよ。それと、さっきも言ったけど、危ないと思ったらすぐに逃げる事。良い?」

『うん!!』

『分かった!!』

『早く怪我治す!!』

 ゆっくりと草むらから出る僕達。唸り声を上げる魔獣。草むらから出た僕達の前に居たのは……。確かにこの森には住んでいない、上級に分類される魔獣のスノーベアーだった。

 大きさは地球の平均サイズのクマの2倍くらい。全員が真っ白な毛で覆われていて、スノーベアーと言われるように、雪の魔法を得意としている。

 そして危険度で言えば、これがなんとも言えない感じで。上級の魔獣って言ったけど、ある森に住んでいるスノーベアーは危険だったり、別の森に住んでいるスノーベアーは無害だったりと。その場所場所で変わってくるんだよ。まぁ、大体が危険とされているけど。

 何しろ攻撃力がかなり高いんだ。だからそれだけで危険とされてしまう。図鑑に書いてあったけど、一瞬で1つの村を凍らせることができるとか。街なら半分を一気に凍らせるくらいの力を持っている個体もいるそうだ。

 そんな危険とされるスノーベアーが僕達の目の前に。そしてそのスノーベアーのお腹のは、誰かに襲われたのか、かなりの血が流れていた。

『酷い怪我!?』

『大変だ!!』

『だから大変って言った』

『人間の子供と、たいして役に立たない子魔獣達か。フンッ! お前達に用などない。さっさとここから立ち去れ』

『何だと!! 僕達は役立たずなんかじゃないぞ!!』

『俺達ちゃんと素材採取できるし、畑のお手伝いもできるもんな!』

『ぼくは水撒き!!』

『おい!! ふざけているのなら、さっさと立ち去れ!!』

 だからみんな、今は余計な話しをしないでくれ。と、僕が注意しようとした時。

『ぐっ!?』

 スノーベアーがその場に、横倒しに倒れたんだ。
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