上 下
7 / 72

7.ついに儀式の日

しおりを挟む
 今日は朝から街の中が賑わっている。それはもちろん儀式の日だからだ。魔法の花火が打ち上がり、魔法で花を浮かび上がらせ花吹雪に。そこら中から音楽も聞こえてくる。街全体で今日儀式を受ける子達をお祝いしているんだ。

「さぁ、準備できたわよ。可愛く仕上がったわ」

「本当だな。うちの子は世界1可愛いな!!」

 いつもよりちょっと良い洋服を着た僕。パパとママの言葉にちょっと照れてしまう。

「無事に5歳まで育ってくれて、とても嬉しい」

「そうだな。そしてこれからもまだまだ、すくすくと育ってもらわないとな」

 2人が嬉しそうに僕をそれぞれ抱きしめてきて。今の今まで恥ずかしかった気持ちが、今度は嬉しさでいっぱいになった。
 
 いくら街の中で過ごしてきたとはいえ、やっぱり以前魔獣が街を襲ってきたみたいに、魔獣による死亡数が多いこの世界。小さい子の被害も多くて。だから5歳の儀式は、無事にここまで育つ事ができたっていうお祝いでもあるんだ。

 僕はパパとママにしっかりと抱きついて、心の中でお礼を言った。ここまで俺に不自由なく育ててくれて、守ってくれてありがとうって。
 そしてこれからも、パパとママの手伝いをするよ。さすがに体力面はまだ5歳だから、あんまり重労働はできないけどさ。

 そのお手伝いも、授かる力によっては、もっとお手伝いできるようになるかもしれないし。ただ魔法は、訓練が必要だから、もし良い力を授かったとしても、少し待たせる事にはなると思うけどね。それでも将来的にはパパ達をしっかり手伝えるように頑張る!!

 と、お礼とこれからのことを考えていると、外からサムソンさんの声が。あと僕を呼ぶカロリーナの大きな声と、それを叱るマーシアさんの声も聞こえた。

「お~い、そろそろ教会へ行くぞ!」

「アーベル!! はやくいこ!! それでおかしみよ!!」

「カロリーナ!! 今日はお菓子が目的じゃないのよ! それに今日はいつもよりも、もう少し大人しくしていて」

「今行く!! さぁ、2人共出かけよう。そうして帰ってきたら、今日はみんなでご馳走を食べよう!!」

 玄関のドアを開けると、僕のパパとママもそうだけど、僕達みたいにいつもよりもちょっと、良い洋服を着たカロリーナ家族が、あ~だこうだ言いながら立っていた。
 うん。今日のカロリーナは可愛い。いつもズボンで走り回っているカロリーナも可愛いけど、今日のカロリーナはもっと可愛い。頭の花冠も可愛い。

 でも……。所々着崩れしているところが。いつものように元気いっぱいにはしゃいでいて、僕の家に来るまでに、着崩れたんだろう。

「カロリーナ、おはよ!」

「おはよ!! あのね、きょうは、とくべつなクッキーがたべられるし、ほかのおかしもいっぱいだから、いそいでいかなくちゃ!!」

「だからカロリーナ、今日はお菓子よりも儀式が大切なのよ」

 そうそう。今日は儀式が大事なんだからね。カロリーナも火魔法が強くなりたいって言ってたんだから。授かれないかもしれいけど、とりあえず今は神様にお願いしておいた方が良いよ。

 こうしてあれこれ言いながらも、僕達家族とカロリーナ家族で、教会へ向かって出発。教会までは僕達小さい子が普通に歩いて25分。お店が集まっている地区に来ると、僕達が住んでいる場所よりも、更に盛り上がっていて。
 お祝いの品を売っているお店に、大道芸をして盛り上げている人達。僕達が住んでいる場所にまで聞こえていた、音楽を奏でている人達で、凄いことのなっていた。

 この光景を見て毎年思うこと。もちろん家族は自分の子供が5歳を迎えられて嬉しいだろうけど、他の人はただただお祭り気分を味わいたいんじゃないかって。現に酒場からは朝なのに、酔っ払いの声が聞こえてるしね。

 と、それはまぁ、良いとして。僕達は儀式の後に、お店通りを楽しむことになっている。今日は特別な日。僕達5歳を迎えた子は、5つまでなら無料で好きなお菓子がもらえるんだ。
 それ用の籠に入れてもらうんだけど。1つ量が半端なくて。クッキー1枚とかじゃないんだ。大袋に色々なお菓子が入っている詰め合わせで1つなんだ。それが5つまで貰えるんだから、何日分のおやつになることか。

 それにお店の人が、今日のお菓子はいつもよりも特別な物を作ってくれるから。普段食べるお菓子よりも、とっても美味しいんだよ。なんで5歳の子が貰える特別なお菓子の味を知っているか。

 それは余ったお菓子を、お店の人が小さい子のいつも配ってくれるから。それこそクッキー1枚や飴1個だけど。そんなに量は作らないから。でもそれを貰える僕達は、自分達の儀式の日じゃなくても、結構楽しみにしている。

 そしてそれだけ美味しいお菓子を、今日はいっぱい貰えるから。だからカロリーナはそれが楽しみで仕方がなくて、さっきからお菓子お菓子って。

「はぁ、儀式の最中に、いつもみたいに騒がないかしら。もう、心配で心配で。儀式の最中は一緒についていられないでしょう」

「大丈夫よ。いつに騒いでいる子達も、儀式が始まれば何故かいつも静かになるし。カロリーナもみんなに合わせて、大人しくしているわよ」

「私は儀式でどんな力を授かっても良いから、今日を乗り越えられればそれで良いわ」

「アーベルも隣にいるし、なんとかなるでしょう」

 あ~あ。マーシアさん、授かる力よりも、カロリーナが静かにしていてくれる、の方が望みが強くなっちゃったよ。
 でも、ママが言った通り。教会では僕はカロリーナの隣にいるし、何かあったら僕が何とかするよ。……いつも振り回されてばっかりだけど。頑張る!! うん!! 大丈夫大丈夫!

 賑わいで道が通りにくい中、それからカロリーナがお菓子の方へ走って行かないように、最新の注意を払いながら、どんどん進んだ僕達。そうして教会のある広間に着けば。そこは今日儀式を受ける子達の家族で溢れかえっていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下に婚約者がいるのはご存知ですか?

通木遼平
恋愛
フォルトマジア王国の王立学院で卒業を祝う夜会に、マレクは卒業する姉のエスコートのため参加をしていた。そこに来賓であるはずの王太子が平民の卒業生をエスコートして現れた。 王太子には婚約者がいるにも関わらず、彼の在学時から二人の関係は噂されていた。 周囲のざわめきをよそに何事もなく夜会をはじめようとする王太子の前に数名の令嬢たちが進み出て――。 ※以前他のサイトで掲載していた作品です

ブチ切れ公爵令嬢

Ryo-k
恋愛
突然の婚約破棄宣言に、公爵令嬢アレクサンドラ・ベルナールは、画面の限界に達した。 「うっさいな!! 少し黙れ! アホ王子!」 ※完結まで執筆済み

追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru
恋愛
マルスグレット王国には3人の側妃がいる。 ただし、妃と言っても世継ぎを望まれてではなく国政が滞ることがないように執務や政務をするために召し上げられた職業妃。 その側妃の1人だったウェルシェスは追放の刑に処された。 理由は隣国レブレス王国の怒りを買ってしまった事。 しかし、レブレス王国の使者を怒らせたのはカーティスの愛人ライラ。 ライラは平民でただ寵愛を受けるだけ。王妃は追い出すことが出来たけれど側妃にカーティスを取られるのでは?と疑心暗鬼になり3人の側妃を敵視していた。 ライラの失態の責任は、その場にいたウェルシェスが責任を取らされてしまった。 「あの人にも幸せになる権利はあるわ」 ライラの一言でライラに傾倒しているカーティスから王都追放を命じられてしまった。 レブレス王国とは逆にある隣国ハネース王国の伯爵家に嫁いだ叔母の元に身を寄せようと馬車に揺られていたウェルシェスだったが、辺鄙な田舎の村で馬車の車軸が折れてしまった。 直すにも技師もおらず途方に暮れていると声を掛けてくれた男性がいた。 タビュレン子爵家の当主で、丁度唯一の農産物が収穫時期で出向いて来ていたベールジアン・タビュレンだった。 馬車を修理してもらう間、領地の屋敷に招かれたウェルシェスはベールジアンから相談を受ける。 「収穫量が思ったように伸びなくて」 もしかしたら力になれるかも知れないと恩返しのつもりで領地の収穫量倍増計画を立てるのだが、気が付けばベールジアンからの熱い視線が…。 ★↑例の如く恐ろしく、それはもう省略しまくってます。 ★11月9日投稿開始、完結は11月11日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。

Gai
ファンタジー
不慮の事故によって亡くなった酒樹 錬。享年二十二歳。 酒を呑めるようになった二十歳の頃からバーでアルバイトを始め、そのまま就職が決定していた。 しかし不慮の事故によって亡くなった錬は……不思議なことに、目が覚めると異世界と呼ばれる世界に転生していた。 誰が錬にもう一度人生を与えたのかは分からない。 だが、その誰かは錬の人生を知っていたのか、錬……改め、アストに特別な力を二つ与えた。 「いらっしゃいませ。こちらが当店のメニューになります」 その後成長したアストは朝から夕方までは冒険者として活動し、夜は屋台バーテンダーとして……巡り合うお客様たちに最高の一杯を届けるため、今日もカクテルを作る。 ---------------------- この作品を読んで、カクテルに興味を持っていただけると、作者としては幸いです。

転生先が森って神様そりゃないよ~チート使ってほのぼの生活目指します~

紫紺
ファンタジー
前世社畜のOLは死後いきなり現れた神様に異世界に飛ばされる。ここでへこたれないのが社畜OL!森の中でも何のそのチートと知識で乗り越えます! 「っていうか、体小さくね?」 あらあら~頑張れ~ ちょっ!仕事してください!! やるぶんはしっかりやってるわよ~ そういうことじゃないっ!! 「騒がしいなもう。って、誰だよっ」 そのチート幼女はのんびりライフをおくることはできるのか 無理じゃない? 無理だと思う。 無理でしょw あーもう!締まらないなあ この幼女のは無自覚に無双する!! 周りを巻き込み、困難も何のその!!かなりのお人よしで自覚なし!!ドタバタファンタジーをお楽しみくださいな♪

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...