上 下
9 / 39

8、知らない人と初めてのお話し

しおりを挟む
「ようこそ、我が国へ。私の名はフリップ。私の言葉は分かるだろうか」

「…」

 男の人は優也お兄ちゃんを見ながらそう言ったんだけど、優也お兄ちゃんじっと男の人を見たまま、何も言いませんでした。今、男の人フリップって言ったよね。タマ先生と男の人を睨んだまま話をします。
 
 この男の人の名前はフリップって言って、今のところ攻撃してくるような感じはしないってタマ先生が。僕もそう思うけど。でも今会ったばかり。いつ攻撃態勢に変わるか分からないから、気を付けましょうって。

 それからフリップは、言葉が分かるか聞いて来たよね。僕はフリップの言葉分かったんだけど。タマ先生も分かったみたいです。
 人間は色々な言葉を話すって、僕タマ先生に前に教えてもらってました。僕は聞いた事なかったんだけど、タマ先生は魚屋さんで聞いた事があって、英語って言う言葉だって。他にもあるみたいだけど。きっと僕は日本語しか分かりません。日本語って言うのは、優也お兄ちゃんや聖也が話してる言葉ね。他の言葉は覚えるの大変みたい。

 あと、僕達動物もそれぞれ言葉は違うんだけど、動物同士でお話するのは関係ないみたい。人間には『わんわん』とか『にゃあにゃあ』とか。色々聞こえるみたいで、僕達が何て言ってるか、分かってくれないんだ。お兄ちゃん達も僕達みたいだったら良かったのにね。

 それでね、今フリップは、お兄ちゃんに言葉が分かるかって聞いたでしょう? でも優也お兄ちゃんは何にも答えないで黙ったまんま。だからフリップの話してる言葉は、日本語じゃないのかも。タマ先生も同じ事考えてたみたいです。

『私は普通に分かるから、てっきり日本語だと思ったのだけれど。でも何も言わないものね』

 タマ先生とそんなお話してたら、またフリップが話してきました。

「どうかな? 私の言葉は分かるだろうか?」

 またまた何も優也お兄ちゃんは言いません。やっぱり分かんないんだ。あっ、もしかして、僕の言葉だったら分かったりして。見た事のない人達だからもしかしたら。

「…この世界に来れば、自動的に話せるようになっていると聞いていたが。陛下、どうも我々の言葉が分からないようです」

 フリップが、王様に似てるおじいさんの方を向いてそう言いました。待って! 僕もタマ先生も分かるよ! 僕はフリップに向かって、大きな声で吠えました。そしたら優也お兄ちゃんがビクッてして、慌ててフリップに話しかけます。

「わ、分かる。言葉分かります!!」

 優也お兄ちゃんの言葉にフリップがまたこっちを見て来て、それからさっきよりももっと優しく、ニコッて笑いました。

「そうか、それは良かった。突然の事で驚いただろう。今どういう状況か説明したく、場所を移動したいのだが良いだろうか」

 優也お兄ちゃんが体を固くさせます。だっていつもお兄ちゃんは、聖也や僕に言ってるもんね。知らない人に付いて行っちゃ行けませんって。知らない人に付いて行くと、何処か知らない場所に連れて行かれて、お兄ちゃんと会えなくなっちゃうかもしれないの。

「心配なのは分かる。急にこのような場所に来たのだから。だが、ここがどういう場所で、なぜ君たちがここに呼ばれたか知るためにも。どうか私に付いて来てくれないだろうか」

 優也お兄ちゃんが聖也を見て、僕とタマ先生を見て、他の人に聞こえないくらいとっても小さな声で。

「逃げられるとか、そう言う感じでもないな。ここは付いて行くしかないか」

 そう言いました。それからじっとフリップを見つめて付いて行くって。フリップはそれを聞いて、何かちょっとホッとしてる顔に。そしたら横の方に居た騎士さん達が、僕達の方に来ようとしました。体を固くしてた優也お兄ちゃんが、もっと体を固くして、僕達を守るように騎士さんから僕達を隠します。

 それを見たフリップが騎士さん達に止まるように言いました。それから僕達のことはフリップが、これから行く場所に連れて行くって。
 その言葉を聞いた途端、ずっとフリップの近く、えっと後ろに居た若い男の人が居たんだけど、その人がフリップの事を止めたんだ。

「フリップ様! まだ決まったわけではないのですよ! それに昔のような者達だったらどうするのですか!」

「ノウル、小さい子供がいるんだ。そんなに大きな声を出すんじゃない。子供を見てみろ。今にも泣き出しそうではないか。先程から不安なのだろう。ぬいぐるみの耳を咥えて震えている。これ以上怖がらせるようなことはいけない」

「ですが…」

「いきなりここへ飛ばされてきたんだ。少しでも彼らの不安は取り除かなければ。騎士を警戒するならそれもだ。私の方が良いだろう」

「…分かりました」

 ノウルって言われた人が、静かにまたちょっと後ろに下がります。フリップは僕達を見て、また優しいニッコリ。優也お兄ちゃんに自分が案内するけどそれで良いか聞きました。お兄ちゃんは少し考えたあと小さく頷いて、フリップが騎士さんを後ろに下がらせます。

 その後すぐに部屋に居た人達が、ぞろぞろ建物から出始めて。僕達は最後にこの建物から出るんだって、フリップに教えてもらいました。でもみんなが外に出るまでには、まだまだ時間がかかりそう。
 
 みんなが出始めてすぐでした。王様に似てるおじいさんが僕達の所に来ようとしたんだ。それを見て慌てる人達が。それでその人達が王様に似てるお爺さんに何か言ったら、お爺さんはちょっと残念そうな顔して、別の所から出て行きました。あのね、お爺さんも優しいお顔でニコニコしてたよ。

 フリップが洋服のポケットをごそごそします。それから何かを取り出してお兄ちゃんに聞きました。

「これは私がいつも持ち歩いているお菓子なのだが。その小さなお客に渡しても大丈夫だろうか?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられ令嬢は王子のお気に入り

怜來
ファンタジー
「魔力が使えないお前なんてここには必要ない」 そう言われ家を追い出されたリリーアネ。しかし、リリーアネは実は魔力が使えた。それは、強力な魔力だったため誰にも言わなかった。そんなある日王国の危機を救って… リリーアネの正体とは 過去に何があったのか

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

転生させて貰ったけど…これやりたかった事…だっけ?

N
ファンタジー
目が覚めたら…目の前には白い球が、、 生まれる世界が間違っていたって⁇ 自分が好きだった漫画の中のような世界に転生出来るって⁈ 嬉しいけど…これは一旦落ち着いてチートを勝ち取って最高に楽しい人生勝ち組にならねば!! そう意気込んで転生したものの、気がついたら……… 大切な人生の相棒との出会いや沢山の人との出会い! そして転生した本当の理由はいつ分かるのか…!! ーーーーーーーーーーーーーー ※誤字・脱字多いかもしれません💦  (教えて頂けたらめっちゃ助かります…) ※自分自身が句読点・改行多めが好きなのでそうしています、読みにくかったらすみません

島流し聖女はモフモフと生きていく

こまちゃも
ファンタジー
五才の時に聖属性魔法が発現。 厳しい修行にも耐え、聖女として寝る間も惜しむ日々。 ある日王城に呼ばれて行ってみると、欲に目が眩んだ父と腹違いの姉による策略により、偽聖女と言われ王子の命令で捕縛されてしまう。 釈明する場も与えられず、そのまま馬車に押し込まれ、たどり着いた先は無人島。 そこは凶暴な魔獣が住み、各国で不可侵とされている「原初の島」だった。 お役目から解放された聖女は、今日も無表情に自由を楽しむ! *もしかしたら今後、逆ハーレム的な要素が出て来るかもしれません。そういったのはちょっと‥‥と思われる方は、ご注意ください。 *小説家になろう様の方でも、のせて頂いております。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

処理中です...