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秋臣

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向こう側

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もう引っ越そう。
珀次のいないところへ行こう。
そう決めて不動産屋をいくつか回った。
内見はしていないが、希望に沿う部屋はありそうだ。
今度はオートロックにしよう、これは絶対条件にした。

昼過ぎ、部屋に戻るとアパートの前に隣の部屋の立花くんがいた。
「立花くん、こんにちは」
声をかけると、血相を変えて俺を引っ張ってアパートを離れる。
なんだ?

「ねえ、高階くんの部屋の前にずっと男が座り込んでるんだけど、俺、通報しようか迷っちゃって…」
え…
「見える?ドアの前に蹲ってる人なんだけど…昨夜からずっとあそこにいるんだよね…」
と物陰に隠れながら俺の部屋を指差す。

珀次…

「通報した方がいいよね?」
と立花くんがスマホを取り出す。
「立花くん、心配させてごめん、本当にごめん。あれ、知り合いだから大丈夫。俺のスマホ充電切れて奴に連絡取れなかったんだ」
「なんだあ、そっかあ、よかったよ、俺ストーカーかと思って…」
「迷惑かけてごめんなさい」
「高階くんが謝ることじゃないよ!ただ心配で…」
「ごめんね」
「よかった、安心したよ」
そう言って立花くんは部屋に戻った。

珀次…

珀次の肩を揺する。
「おい、起きろ」
「ん…」
「迷惑だ、起きろ」
「碧斗?」
これ以上迷惑はかけられないから仕方なく部屋に入れる。
「なにしてんだよ」
「碧斗に連絡しても繋がらないし、待ってても帰ってこないし…」
「…お前には関係ないだろ。
迷惑になるようなことしないでくれよ」

「よかった、帰って来てよかった…
なにかあったんじゃないかって、俺、心配で堪らなくて…」
俺に抱きつく。
ギュッと強く抱きしめられる。

次の瞬間、バッと俺から離れる。
珀次の様子がおかしい。

珀次が微かに震えてる。
「…碧斗、女抱いたの?」
なんでそこに気づくんだ…
「碧斗じゃない…碧斗の匂いじゃない…
やだ…こんなの嫌だ…」
そう言うと珀次は子どものように声をあげて泣き出した。
しゃくりをあげながらわんわん泣く。
こんな珀次を見るのは初めてだった。

どうしていいかわからなかった。
宥めても泣き止まない。
一晩中部屋の前に座り込んでいたみたいだったし、とりあえずベッドに寝かせる。
背中をさする。
しばらく泣き止まなかったが、座り込んでいた疲れもあったのか、泣き疲れて寝てしまった。
涙でぐしゃぐしゃになったままの顔で…
「碧斗…いかないで…いなくならないで…」
と、うわ言のように呟く珀次に戸惑っていた。

俺、珀次を傷つけたのか?
裏切ったことになるのか?

いや、別れたんだ、俺たちは。
なにをしようが、誰と寝ようが、珀次になにを言われようが、泣かれようが関係ない。

橙花さんとのことは全く後悔などしていない。
それなのにどうしてこんなに胸が痛むんだ…

考えがまとまらない。
なにを考えたらいいのかわからない。
戸惑ったまま俺はベッドの下で寝てしまった。

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