51 / 56
賭け
しおりを挟む
論文強化のための勉強会を重点的にしている。伊央くんは以前にも増して意欲的に取り組んでる。
なんでも目標達成が視野に入ってきたような感覚があって楽しくなってきたのだそう。
いい兆候だ。
勉強会が終わった後、伊央くんに少し残ってもらった。古川さんにも同席してもらう。
「なんですか?なにかあるんですか?」
「伊央くん、卒業後はどうするの?」
「就活ということですよね?」
「そう」
「まず公認会計士を取ることが先決ですけど、会計事務所に入って実践を通して実績を積みたいです」
「監査法人なども視野に入れてみた方がいいだろう」
古川さんが言う。
「なぜですか?会計事務所の方がより俺の目指すところに近いと思うんですけど」
「うん、それは間違ってない。
でもまず監査法人で大きな広い意味での実績を積もう。これがあると後々君の力になる。
あくまでもそれは社会人としての俺や八雲さんの意見であって、伊央くんが決めていいことだからコントロールしようなんて気はないよ。こんなことを言ってる時点で充分コントロールしてることになってしまうが。そう捉えたらごめんね」
「いえ、そうは思ってません。そういう見方があるんだなと初めて知りました」
さて、ここからが本題、勝負だ。
「伊央くん、君に大事な話がある」
伊央くんが身構える。
「なんか嫌だな、怖い感じがする…」
「伊央くん、君が会計士の資格を取得して就職し、ある程度実績を積んだら、古川さんと私と3人で税理・会計事務所をやらないか?」
「え…」
早計だったか…
「伊央くん、私も会計士の資格を取る。
今年は無理だが来年の受験を目指す。
取れたら私の場合はすぐに実践という形になるだろう。古川さんと実績を積む。
今から5年後を目処に事務所を設立したい。
あくまでも仮定だが、君が会計士を取得し、就職する。そこから3年ほど実績を積んだら一緒にやらないかという話だ」
「あ…あの、俺…」
今まで見たことがないくらい困惑している。
それはそうだ、仮とはいえ将来を約束してくれと言ってるのと同じだ。彼を縛ることになる。それでも俺と古川さんは伊央くんが必要だと感じている。
「大事なことだ、今すぐ答えをくれと言っているわけではないし、勿論断ってくれていいんだ」
「やりたいです!」
古川さんが
「ええっ!」と椅子から立ち上がる。
俺も言葉が出ない。
無謀は承知だったが、正直断られると思ってた。
「古川さんと八雲さんと働けるんでしょ?こんな楽しいことないじゃないですか!断る理由が何もないです!絶対会計士取ります!待っててください」と頭を下げた。
「君が必要なのは我々なんだよ、頭なんか下げないで」と古川さんが必死に止めてる。
「これから先どう考えが変わるか分からない。気が変わった時は遠慮なく言ってくれて構わないからね」
「変わりません。むしろ約束を反故されると困るのでここで一筆書いて欲しいくらいです」
これだ、彼のこれが必要なんだ。
素直さとバイタリティ、これが伊央くんの強みだ。
「いくらでも書くよ」
俺と古川さんは思わずハイタッチした。
なんでも目標達成が視野に入ってきたような感覚があって楽しくなってきたのだそう。
いい兆候だ。
勉強会が終わった後、伊央くんに少し残ってもらった。古川さんにも同席してもらう。
「なんですか?なにかあるんですか?」
「伊央くん、卒業後はどうするの?」
「就活ということですよね?」
「そう」
「まず公認会計士を取ることが先決ですけど、会計事務所に入って実践を通して実績を積みたいです」
「監査法人なども視野に入れてみた方がいいだろう」
古川さんが言う。
「なぜですか?会計事務所の方がより俺の目指すところに近いと思うんですけど」
「うん、それは間違ってない。
でもまず監査法人で大きな広い意味での実績を積もう。これがあると後々君の力になる。
あくまでもそれは社会人としての俺や八雲さんの意見であって、伊央くんが決めていいことだからコントロールしようなんて気はないよ。こんなことを言ってる時点で充分コントロールしてることになってしまうが。そう捉えたらごめんね」
「いえ、そうは思ってません。そういう見方があるんだなと初めて知りました」
さて、ここからが本題、勝負だ。
「伊央くん、君に大事な話がある」
伊央くんが身構える。
「なんか嫌だな、怖い感じがする…」
「伊央くん、君が会計士の資格を取得して就職し、ある程度実績を積んだら、古川さんと私と3人で税理・会計事務所をやらないか?」
「え…」
早計だったか…
「伊央くん、私も会計士の資格を取る。
今年は無理だが来年の受験を目指す。
取れたら私の場合はすぐに実践という形になるだろう。古川さんと実績を積む。
今から5年後を目処に事務所を設立したい。
あくまでも仮定だが、君が会計士を取得し、就職する。そこから3年ほど実績を積んだら一緒にやらないかという話だ」
「あ…あの、俺…」
今まで見たことがないくらい困惑している。
それはそうだ、仮とはいえ将来を約束してくれと言ってるのと同じだ。彼を縛ることになる。それでも俺と古川さんは伊央くんが必要だと感じている。
「大事なことだ、今すぐ答えをくれと言っているわけではないし、勿論断ってくれていいんだ」
「やりたいです!」
古川さんが
「ええっ!」と椅子から立ち上がる。
俺も言葉が出ない。
無謀は承知だったが、正直断られると思ってた。
「古川さんと八雲さんと働けるんでしょ?こんな楽しいことないじゃないですか!断る理由が何もないです!絶対会計士取ります!待っててください」と頭を下げた。
「君が必要なのは我々なんだよ、頭なんか下げないで」と古川さんが必死に止めてる。
「これから先どう考えが変わるか分からない。気が変わった時は遠慮なく言ってくれて構わないからね」
「変わりません。むしろ約束を反故されると困るのでここで一筆書いて欲しいくらいです」
これだ、彼のこれが必要なんだ。
素直さとバイタリティ、これが伊央くんの強みだ。
「いくらでも書くよ」
俺と古川さんは思わずハイタッチした。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる