いきたがり

秋臣

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いかない

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気づいたら一人でベットにいた。
外は昼に近い明るさのような気がする。
腰が鉛のように重い、容易に動けない。かなり抱かれたし、俺も求めた。快感が止まらなかった。
八雲さんは…?
コンコンコンとノックする音がし、八雲さんがドアを開ける。
「おはようございます。起きられますか?」
「おはよう…多分…」
「無理しないでください。シャワー浴びましょう、体は拭きましたが気持ち悪いでしょうから」
「うん」
三木にバスローブを着せ、そのまま抱き上げバスルームへ連れていく。
「離せ!歩ける」

シャワーを終えた三木がリビングのドアを開けるといい匂いがふわっとした。
「お腹空いてませんか?食事用意しました」
ダイニングテーブルにはおにぎりと味噌汁が用意してあった。
「嶋さんが置いていってくれた出汁パックがあったので出汁を取って、味噌汁を作りました。どうぞ」
「…いただきます」
出汁の効いた味噌汁は腹に染み渡った。
「美味いな」
「よかった。初めて出汁取りました」
三木はおにぎりも味噌汁も完食した。
「ゆっくりしててください」
「…うん」
八雲は洗い物をしながら三木に言った。
「この後、私は少し出掛けますのでエレベーターを動かしてもらえますか?」
「どこに?」
「……」
「聞いてるんだが?」
「…ここを出ようと思っています」

何を言ってる?
「FPとして雇ってもらい少しずつ金も貯まってきました。安いアパートなら借りられそうです」
「なにか不満でもあるのか?」
「いえ、逆です。私には分不相応です。
元々このような豪邸に住めるような人間ではないんです」
「くだらない理由だな」
「そうでしょうか」
「もっとマシな嘘をつけ。出ていくために無理矢理こじつけてるとしか思えん」
「FPの仕事は与えられている限りきちんとやります。店の子たちに頼まれている案件もいくつかありますので。でも三木さんが辞めろと言うのであれば辞めます」
「辞めてどうする」
「FPやアドバイザーとして職を探しつつ、伊央くん同様、会計士の資格を取ります」
「……」
「伊央くんの頑張りに当てられました。行員時代に会計士の勉強をしていましたが、断念したのもあって今回伊央くんの件で火がついた気がしました。
伊央くんと一緒に会計士を目指したいと思います。
伊央くんは今年の受験でいけると思いますが、さすがに私はもう少し勉強しないとダメでしょうね」と八雲は笑う。
やはり伊央か…

「好きにしたらいい」
「三木さん…大丈夫ですか?」
「俺がなんだ」
「どうして泣いてるんですか?」
泣いてる?俺が?何を言ってるんだ。
八雲が三木の涙を拭う。
「泣いてない、やめろ」
八雲の手を振り払う。
振り払う三木の腕を掴み、三木を抱き寄せる。
「離せ」
「嫌です」
「離せと言ってるだろ」
「嫌です。こんなにかわいい人、離すなんて出来ない」
「…かわいいってなんだ、そういうのは伊央に言え」
「三木さん、伊央くんは確かにかわいいです。それは誰もがそう思うことで俺だけが特別なわけではないですよ。それに多分誤解してます。私は伊央くんと何もありません」
「キスしたんだろ?」
「正確にはされた、です。若者の気の迷いでしょう。彼は私にとって同志です。彼と約束をしました、内容は言えませんがそれを叶えるために努力しようと約束しました。
そういう意味ではとても大切な人だと言えます」
「だったら伊央と…」
八雲は三木の唇に指をあて言葉を封じる。

「三木さん、あなたが大事です。大切にしたい。だから私に努力させてください。あなたに応えられるよう最善を尽くしたい。
あなたが私をどう思っていようと、私がそうしたいからそうします。全て三木さんが教えてくれました。
どれだけ守って支えられたか分からない、今度は私が三木さんを支えたい。そのために生きると決めたんです。三木さん、あなたが私の生きる理由です」
「……」
「なにか言ってください。私今かなり恥ずかしいんですが…」
ふっと三木が笑う。
「照れてんのか?顔見せてみろ。真っ赤だぞ」と揶揄う。
「そういう意地悪をいうからかわいくないんですよ、三木さんは」
「そんなに恥ずかしがることか?」
「宗一郎さん」
え…?名前?
三木の顔が一気に紅潮する。自分で赤くなってることに気づき顔を背ける。
「三木さん照れてる?かわいい」
八雲が珍しくニヤニヤしている。
「やめろ…」
「宗一郎さん」
「やめろって!」
止めさせようと振り向いた三木を捕まえ抱きしめる。
強く強く抱きしめる。
「宗一郎さん…」
「やめろ…」
八雲が三木にキスする。
「大事な…俺のとても大切な人の名前です」
三木の綺麗な目が潤む。
「…ここでしか呼ぶな。ここにいろ…」
「はい…」
キスが二人を何度も繋ぐ。
生きる理由は死にたくないから。
愛おしくて大切なあなたがここにいるから、
私はいかない。

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