いきたがり

秋臣

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妻・女・母

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ヴヴヴ
「はい」
「今、相田から連絡があった。大したことなかったようだな」
「はい、伊央も無事です」
「八雲さんは?」
「少しショックを受けていますが、致し方のないことだと思います」
「こっち戻れるか?」
「はい」
「ゆっくり休んでもらいたいところなんだが、八雲さんとこっちに来てくれるか?」
「承知しました」

長谷見さんはなにも言わないでいてくれた。
今日はそれが有り難い。
何を言われても何も言えない、心がついていかない。
「ただいま戻りました」
「疲れてるのに悪い」
「いえ…!オーナー!」
「え?三木さん!?」
店内にえりがいる。
「俺が連れてきた」
えりは三木さんの隣に座り顔を赤らめ、うっとりしている。三木さんの周りを黒服たちががっちり固めている。その異常さにえりは全く気づいていないようだった。
もう嫌だ、今日は家族の女の部分を嫌というほど見せつけられている。キツいし辛い。
「えり…」
「あら、久しぶりね、元気だった?」
なんでそんなに普通なんだ。
「なんでここにいる?」
「こっちのセリフよ、なぜあなたが美輝くんと仲良くなってるの?盗らないでよ」
「盗るって…」
やはりこっちのターゲットは三木さんだったか…
「八雲さん?今違うんだっけ?佐久間?佐久間さんね。あなたは何をしにここにきた?」
「美輝くんに会いたくて来たの」
「今日娘さんは?一緒じゃないの?」
「なんで知ってるの?あの子もこのお店で気に入った子見つけたのよ!
でもまだ未成年でお店入れないじゃない?
だから私と外で観察してたのよ。
あの子、伊央くんだっけ?かわいいわね。
明依が気に入るのも分かるわ」
えり、お前は何を言ってるんだ?
俺は何を聞かされているんだ?
「佐久間さん、あなたはもうここへは来てはいけないんです。出入り禁止になっているはずです。お忘れですか?」
「忘れてないから店には入らなかったでしょ?」
「近くで見張るのも迷惑なんです。今度はストーカーで警察に通報します」
「なんでストーカーなの?なんでちゃんと付き合ってくれないの?」
「えり」
「なに?美輝くんと話してるのに!」
「えり!」
「…なに?」
「明依が伊央くんを待ち伏せして警察に連れて行かれた」
「え?」
「S警察にいる。えりのご両親に連絡してある。今頃迎えに行っていると思う」
「何言ってるの?邪魔しようとしてるの?バカじゃないの!?」
「えり…」
三木がどこかへ電話をかける。
「俺だ、今日は済まなかったな。埋め合わせはするよ。例の子どうだ?迎えは来たか?
今その子と話せるか?母親がここにいる。
……
明依ちゃんか?ちょっと待ってて」
えりにスマホを渡す。
「明依ちゃんだ」
「嘘よ」
「嘘じゃない、出ろ」
「…もしもし、明依なの?
明依?あなたなんでそこにいるの?どうしたの?やだ、なんで?この前言ってた男の子なの?ダメよ、そんなことしたらダメなの!おじいちゃんとおばあちゃんが来るの?奈々一人になっちゃうじゃない。ママが行くから待ってなさい」. 
三木にスマホを返す。
「私、娘を迎えに行きます。ごめんなさい、失礼します」
「えり!」
「あなた、ごめんなさい。もうここへは来ないから、ごめんなさい…」
えりはいつかのような優しい笑顔を見せたあと、店を飛び出して行った。

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