いきたがり

秋臣

文字の大きさ
上 下
43 / 56

未遂

しおりを挟む
俺は自分のスマホを解約したことをこれほど後悔したことはなかった。
あの中にはえりや明依、奈々の写真もたくさんあった。
それが辛くて全てを断ちたくて捨てたのだ。
それが今、娘の写真を警察に提供して情報を共有することが出来ないでいる。激しく後悔する俺に長谷見さんが
「この場で撮るしかないです。八雲さんは父親なので当然すぐバレてしまうので私が行きます。あの角の植え込みのところにいるロングヘアの女の子ですね?」
「そうです」
「いいですか、なにがあっても車から出ないでください。先ほども言いましたがそれがオーナー始め伊央や皆を守ることに繋がります。勿論、娘さんもです」
「はい」
「必ず保護します」
ヴヴヴと長谷見さんのスマホが振動する。
「はい」
「伊央は部屋にいない、外にいるそうだ」
「警察と相田さんに共有しますか?」
「今、相田に伝えた」
「分かりました、一度切ります」
「いいですね、絶対守ってください」
「分かりました」

長谷見さんが車から降りてマンションの前を通り過ぎる、そのまま角を曲がっていく。
明依のいる植え込みの前を通る時に一瞥せず前を向いたまま写真を撮る。非常に手慣れている。俺のスマホに写真が送られてくる。
「明依だ…」
電話に切り替わり
「娘さんで間違い無いですね?」
「はい」
「この写真を相田さんに送ります」
「お願いします」
「私はこのまま車外で様子を見るので八雲さんはそこからお願いします」
「分かりました」
とその時、駅方面から伊央くんが歩いてくる。上背はあるし、あの顔立ちなので目立つことこの上ない。
伊央くん…
エントランスに入ろうとした伊央くんに明依が走り寄る。
「明依!伊央くん!」
車内の俺の声は届かない。
明依に気づいた伊央くんは驚いた顔をしている。
頼む明依、伊央くんになにもしないでくれ。

伊央くんの腕を明依が掴もうとしたその時、
「はいはい、そこまでね、お嬢ちゃん」
歳は俺と同じかもう少し上だろうか、スーツを着た短髪の男性が伊央くんと明依の間に割って入る。
マンション内から警官数人と管理人らしき人が出てきて伊央くんを連れていく。
「伊央くん、待ってよ!」と叫ぶ明依は、
「離せ、触んな!」相田に食ってかかる。
「離したら彼になにするの?」
「私のものにする」
「あの彼を?面食いだねえ」
「うるさい、離せよおっさん!」
「うーん、無理。離したら危ないしね」
男の声色が変わる。
「ここでやめときなさいよ、今なら犯罪にならないで済む。利口になりな」と優しく凄む。
明依がうな垂れる。
相田が左手を挙げると警官が出てきて明依を連れていく。

「明依!」車から降り駆け寄る。
「八雲さん」長谷見さんに止められる。
「娘さんのために見なかったことにしてやってください。ここであなたが騒いだらきっとあの子のタガは外れます」
相田も
「そうね、長谷見くんのいう通りだ。
娘さんはギリギリだが犯罪は犯していない。騒ぐと本当に警察沙汰になるぞ。これだけなら厳重注意でいける」と俺を諭す。
そこの彼と伊央くんを相田が呼ぶ。
「はい」
「無事か?」
「なんともありません」
「なにもなくてよかった。しかし君何度目だ?身が持たんだろ?三木にボディガード雇ってもらえ。一応君に聞いておくが、このことを事件にするか?訴えるか?
そうすることで犯罪の抑止力になることもある。それを決める権利があるのは被害者の君だ、君が決めていい。人の顔色を伺う必要はない」
「必要ありません。怪我もしていませんし」
「分かった、向こうで警察から話を聞かれるけど少し付き合ってくれるか?申し訳ない」
「大丈夫です」
伊央くんは警官と話を始めた。

「だそうです」と相田が手打ちをする。
「全く三木からの電話は毎度碌なことがない。高いぞと言っとけ、長谷見くん」
「はい。助けていただきありがとうございました」頭を下げる。
「お父さん、娘さんは警察署の方で少し話をします。大丈夫、彼が事件にしないと言っているので大きなことにはならないと思います、断言は出来ませんが。ただしこれが今後も続くようだとアウトだということは頭に入れておいてください。身元引受人はお父さん?」
「私が…いえ、元妻のご両親の方がいいかもしれません。今私は住所不定、無職ですし、あの子に関わると良い方へ向かわないでしょう」
「向こうのご両親の連絡先など分かりますか?」
娘たちに何かあった時にと空で番号を覚えていた。
「それじゃ、なにかあったら知らせるから。
そんなに心配しなくて大丈夫だ、安心しろ」
そう言って相田は警官の元へ行った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

一度くらい、君に愛されてみたかった

和泉奏
BL
昔ある出来事があって捨てられた自分を拾ってくれた家族で、ずっと優しくしてくれた男に追いつくために頑張った結果、結局愛を感じられなかった男の話

処理中です...