いきたがり

秋臣

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妖艶なキス

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2人で食器や調理器具を片付ける。高いところの棚から食品保存容器を取り出そうとして伊央くんが
「ちょっとすみません」と俺に覆い被さる形で棚を開ける。
伊央くんは意外にも上背がある。
幼さのあるかわいらしさなので小さいイメージがあるのだが、お客様にも
「え?大きい!」と驚かれることがよくある。
「伊央くん、背高いよね」
「父が高かったからでしょうか、182cmです」
「ギャップが凄いなっていつも思うんだ」
182cmが花柄エプロンしてるのもなかなかなのだがなぜか似合うから凄い。
「それお客様にもよく言われます。
ヨシヨシしてあげたいイメージなのにデカいって。子猫かと思ったらハスキーだったって言われたことあります」
思わず声を上げて笑ってしまった、言い得て妙だ。
「そんなおかしいですか?」
「うん、おもしろい」
くくくと笑いを堪えるが笑ってしまう。
「もう、笑いすぎですよ」
「ごめん、ツボに入っちゃった」
笑いが止まらない俺に
「止めてあげますね」
伊央くんは俺にキスした。

驚きすぎて声も出ないし動けもしない。 
だってそこにいるのはさっきまで春を着ていた伊央くんではなく、あの時見た闇を纏い銀色の月明かりに照らされた妖艶な伊央くんだったから。
「え…伊央くん?」
やっと声が出せた。
妖艶な空気を纏ったまま俺の顔を上に向けると、綺麗な顔が再びキスをする。
微かに触れた後ほんの少しだけ唇に熱を帯びる。その熱にクラクラする。
抗えない、逆らえない。
「笑わない?」
こんな綺麗な目をした人間を見たことがない。宝石のような目なんて伊央くんしか知らない。その目が俺を捉えて離さない。
「笑わ…ない」
ふっと笑うと、闇が消える。
春の暖かさが戻る。
「許してあげます」
またいつもの伊央くんだ。
手際よく筑前煮を食品保存容器に詰め、刺身にした残りの半身を漬けにしたものも詰めている。
「漬けはご飯に乗せて出汁をかけて食べると美味しいです。出汁がなければお湯でも大丈夫ですが出来れば出汁でお願いします」と俺に持たせてくれた。
俺は戸惑う。
どちらの伊央くんが本当の伊央くんなんだろうか。
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