いきたがり

秋臣

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伊央の話

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「どうしてホストをやろうと思ったの?」
聞いてもよかったのだろうか、聞いてから後悔する。
「父が高2の時に亡くなって、大学進学をどうしようかと悩んだんです。悩んだままで高3の秋に校内選考で推薦が決まった時も正直喜べなくて」
「どうして?
「その推薦、東京の大学なんです。今通ってる学校です。どうやっても一人暮らししないと無理だし、私大だしお金がかかりすぎる。母に負担かけさせるのが嫌で推薦を諦めて一般入試で県内の国公立に行こうと思ったんです。
進路指導の先生や担任には勿体無いと言われましたが、それしか選択肢がなくてそう母に伝えました。
そうしたら行けって。『お父さんが生きてる時に蓮がここに行けたらいいねって言ってた大学だから行きなさい。その方がお父さん喜ぶよ』って」
伊央くんが食器を洗いながら涙声になる。

「ごめん、伊央くん。無理しないで」
腕で涙を拭うと、ふうっと息をついて
「大丈夫です。奨学金をもらって家賃と生活費を母が出してくれていました。今はオーナーが経費で落としてくれているので甘えさせてもらってます。
それでも東京はお金がかかるし、生活費の足しと将来のために貯めておきたくて、大学の友達に『お前ならホストになれるんじゃないか』と言われたので少しでも稼げるのならとオーナーのお店に行きました」
「三木さんの店に行ったのは偶然?」
「はい、全く面識もありませんでしたし、ホストクラブ自体行ったこともありませんでした。どこの店にしようかと思った時に看板見て『Starlight』って綺麗だなってそれだけで決めました。突然飛び込んで雇ってもらえませんか?って長谷見さんに言ったらびっくりされました。でもオーナーに通してもらえて面接をしてもらって、そこで初めてお酒飲めないとダメなんだって気づきました。俺ほとんど飲めないのにどうしよう、これじゃ雇ってもらえないって諦めました。でもオーナーは酒なんて飲めなくていいし、学業優先しろ、23時までで上がれって。俺でもいいんですか?って聞いたら、お前を他の店に取られたくないし、危なっかしいから俺が面倒見てやるって。それからお世話になってます。会計士になりたいのは姉のためにというのもあるんですけど、いつかオーナーの役に立てたらという面もあるんです」
前に三木さんから聞いていた通りだ。
三木さんが面倒みたいと言った気持ちがよく分かる、この子は手放したくないだろう。
そして出会ったのが三木さんでよかったと俺が勝手にホッとしている。 
「伊央くんが公認会計士になったら古川さん一つ仕事飛んじゃうね」と言ったら、
「ああそうだ!どうしよう」と慌ててる。
かわいらしい。
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