いきたがり

秋臣

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三木の家

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キャンピングカーでだいぶ走ってきた。
山並みが街並みに変わり、今は人とビルの海だ。
「こっちでもいいんだけど、やっぱりあっちかな」
どっちでもいい。
少し静かな住宅街に入る。
周りは豪邸だらけだ。
とあるマンションのエントランス前にキャンピングカーは止まった。
「ここね」
車を降りるとどっしりとした重厚な低層マンションの前だった。

エントランスを抜けロビーに入るとコンシェルジュがいて、
「お帰りなさいませ、三木様」と出迎えている。
「ただいま。嶋さん、そこの来客用スペースに車停めちゃってるんだけど大丈夫かな?」
「確認いたします。本日から明日まで使用申請はありませんので問題ないかと」
「あとで若い子に取りに来させるからそれまでいい?」
「かしこまりました。他にご入り用はございますか?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
ロビーを抜け、絨毯が敷き詰められた廊下を進みエレベーターに乗る。まるでホテルだ。
エレベーターは3階で止まる。というか3階までしかない上、この部屋専用のエレベーターだった。目の前はすぐ玄関だ。

「適当にくつろいで」
そういうとどこかへ電話をかけ始めた。
「キャンピングカー、こっちのエントランス前に置いてるから取りに来てもらえる?
うん、悪いね」

だだっ広いリビングには何人掛けなのか?というくらいのどでかいソファーがあり、カウンターにもカウンターチェアが幾つもある。
大きな窓が印象的だし、壁にはセンスの良い絵画が数枚飾られている。
とにかくどこもかしこも高そうな家具や調度品揃いなのだが、成金のような下品さがない。むしろ品が良く思いの外居心地がいい。
しかし圧倒的に落ち着かない。
それは俺がこの高品質に見合わないからだ。
それよりなによりどうして俺はここにいる?

「三木さん」
「はい、なんでしょう?」
「俺はなぜここにいるんでしょうか?」
「俺が連れてきたからですね」
「いや、だから、なぜあなたに連れてこられなければならないのかと聞いています」
「だって八雲さん、行くところないし」
「忘れてるかもしれないので改めて念の為言いますが、私は死にたいんですよ。わかってますか?」
「もうそれやめちゃえば?」
「は?」
「寒いし」
「……」

そうだった、こいつは頭おかしいんだった。

「なぜあなたに私の人生を決められなくてはいけないのですか。何度も言いますがうんざりなんです」
出されたスリッパを隅に寄せ、靴を履いて玄関を出る。
「このカードキーないとそのエレベーター動かないですよ」
三木は指にカードキーを挟み、ヒラヒラさせながらニヤニヤ笑ってる。
「じゃあ動かしてください」
「やだね」
「……」
「とりあえず今日はここにいたらいいじゃないですか。六文銭しかないんだし何も出来ないでしょ?」
こいつ足元見やがって!

渋々部屋へ戻ると
「来客用の部屋でもいいし、他の部屋でもいいし、八雲さんの好きに使ってください。俺のベッドでもいいですし」
にやっと笑い、
「俺はちょっと仮眠してから店に行きます」
は?
「監禁してるつもりはないですが、勝手に出ていこうとしても無駄ですよ。さっきも言った通りこれないと動かないんで。
ついでに言うと非常階段もこれないとダメです、緊急時以外は」
今が緊急時なんだが?
カードキーを内ポケットに入れると
「おやすみ~」と三木は寝室へ向かった。

取り残された俺はリビングで所在無く放心する。
なんなんだ?
空いてる部屋は使っていいと案内されたが、見ず知らずの他人の家だぞ?
なにが目的だ?
そんなことを悶々と考えていたらかなり時間が経っていたようで、仮眠した三木がシャワーを浴び、身支度を整えてリビングに戻ってきた。
「それじゃ店行ってきまーす」と手を振って出て行った。 
「出られませんからね」と言い残して。

これは立派な監禁だろ。
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