レンガの家

秋臣

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呼び方

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ある日、
「『お兄さん』って『お義兄さん』みたいに聞こえるな」
輝哉さんにそう言われて、うわっ…と思った。
なんかそっちの方が関係深そうだなと思っちゃった。
でもそれって陽南と結婚したらそうなるんだよな…って想像したらにやにやしちゃう。
「壮祐くん、なんでにやにやしてるの?」
陽南に言われて、まさか結婚を想像してたとも言えず、もごもご口籠もってしまった。
そんなこと言って引かれたら最悪だよ…

輝哉さんには見透かされていたようで、
「俺は気持ちわかるよ」
とにやっと笑われた。
「『お義兄さん』に抵抗あるなら『深影さん』って呼べば?」
と輝哉さんに言われる。
前からずっと
「深影って呼んでよお」
と言われてはいたがそっちはそっちで抵抗あるんだよな。
陽南にも意見を聞いてみた。
「それならお兄さんじゃなくて、お兄ちゃんにする?」
と言われたけど呼べるかっ!
なので深影さんと呼ぶことになった。
深影さんは名前呼びされて、
「距離が縮まった感じ!」
と有頂天になっていた。
その度に俺は心の中で、
「三びきこぶた、三びきのこぶた…」
と呪文のように唱えている。
あくまでも深影さんはレンガ仲間なんだ、貴重なレンガ仲間だと思えと自分に言い聞かせる。

ちなみに輝哉さんのことも陽南や深影さんに、
「はんちゃんでいいんじゃない?」
と言われたが、さすがにそれは馴れ馴れしくて呼べなかった。
奥さんの公佳さんが『輝くん』と呼んでいるのを聞いて、
「輝哉さんは?」
と陽南が提案してくれて、そう呼ぶようになった。
輝哉さんは、
「壮祐くんとは友達だからね、そう呼んでくれると嬉しいよ」と喜んでくれた。


深影さんはレンガ仲間としてはとても貴重な存在だった。 
だってレンガ仲間なんて深影さんしかいないんだから。
「ここ知ってる?」
と俺の知らない建物をたくさん知っている。
「いつでも案内するよ」
と言われると、
「はい、是非!」
とつい言いそうになる、危ない、危ない。
「ついでに俺とデートしようか、朝まで」
と相好を崩す深影さんに陽南が、
「お・に・い・ちゃ・ん」
とテーブルをコツコツ指で叩くと、
「はい、ごめんなさい、二人きりでは行きません」
と妹に絶縁されるのだけは避けたい深影さんが素直に引き下がる。
そもそもそんな時間取れないんだけどな。

それにしてもここは落ち着く。
建物も店も人も、その人たちとの関係も全部含めて好きだ。
居心地のいい空間にいられることが幸せだなと思う。

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