英雄の詩

銀河ミヤイ

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第一章「伝説の英雄」

第7話「習得せよ、影野流初段の技!!」

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「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「甘い!!」


 アレから、影野流の初段の技を習得するための稽古が始まった。まずは、剣道のような試合形式で孝之助から1本をとること。これが中々達成出来ずに既に3日が経過していた。学校の時間などを削る訳にはいかないので平日の時間は限られている。


「はぁ…はぁ…はぁ……」


光輝は、疲れきってしまい床に腰を下ろした。額からは汗が滝のように流れていた。


「どうしたんじゃ光輝、あと17日後何だろ?会長さんとの決闘……」


休んでる暇がないのは光輝も分かっている。しかし、光輝の意志とは逆に体は悲鳴を上げていたが、ゆっくりと膝に手をつけながら重い腰を上げて再び立ち上がった。


「__まだ、だ……」


光輝は、フラフラな体を木刀を杖の代わりのように地面につけて支えていた。それを見た孝之助は、姿勢を低くすると光輝の木刀を水平に振り払った。あっという間の出来事だったので光輝は、スグにじめんに倒れ込んだ。


「__魔王を倒した伝説の英雄も形無しじゃの。」


そう言って孝之助は、地下道場を後にした。一人道場に残された光輝は、悔しさのあまり床に思いっきり拳をぶつけた。


「クソ!!」


速さ、剣の正確な振り、どれをとっても今の光輝では到底叶わないと思った。そんな現場が情けなく見えた。そんな気分を変えるべく光輝は、シャワーを浴びに向かった。
 シャワーを浴び終えた光輝は、再び道場へとやってきた。誰もいなく静まり返った道場の隅で一人素振りを始めた。一定のリズムで「ブンっ!」と会う音が場内に響きたわる。そんな彼の様子を影から孝之助は、見ていた。


「光輝よ、初段は全てに通じる基本の技じゃ。この流派を制するものは、速さじゃ。」


道場にいた時は、敵を睨む表情をしてたものも今は、孫の成長を祈る祖父のような顔をしていた孝之助は、静かにその場から去りリビングへと向かった。



 翌日、学校に登校した光輝は連日の稽古の疲れか全授業爆睡という失態を犯し今、生活指導室へと連れてこられた。


「君は、何しに学校へ来ててるのかね?」

「すいません。」


ただ、一方的に言われることに光輝は謝ることしか出来なかった。それでも誠意に謝ってる光輝を見た教師も気を許し何とか下校させてくれることになった。
 たが、既に稽古の時間になっており光輝は大幅に遅刻していた。


「やべぇ、間に合わねぇ……」


廊下を走りながら腕時計とにらめっこしていた光輝だが、曲がり角で何者かと接触してしまうと倒れ込んでしまった。


「イテテ……ご、ごめん。」


光輝は、そう言いながら起き上がろうとして手を動かすとその先にあった何か柔らかいものに触れた。視界があまりハッキリしていない光輝は、それを握った。

__ぷにっ


握った物は、物凄く弾力があり思わず2度触ってしまうほどの感覚だった。


__ぷにっぷにっ

「__嫌っ……」


聞き覚えのある声が聞こえると光輝は、ようやく前の景色がはっきり見えると目の前にはアリスを押し倒していて、更に左胸を握っている自分の手もはっきり見えた。


「……え、えぇぇっ!?あ、ご、こめん。」


光輝は、慌てて離れるとアリスに背を向けた。そして、ひっそりと右手を動かして先程の感覚を確かめていた。


「__た、確かめるんじゃないわよ!……馬鹿!!」


殺気の篭った声を聞く前にその殺気だけを感じて振り向くも既にアリスの右拳は、光輝の頬に命中していた。


「ガバッ!」


その拳を受けながら光輝は、道場でのことを思い出した。自分がどれだけ際どい攻撃を仕掛けても孝之助は、それを見極めて瞬時に躱す。その行動に今回の修行の意味がはっきりとあったのだと今、この時光輝ははっきりと分かったのだ。


「__ねぇ、聞いてるの??」


 右頬が赤く腫れ上がっているのを気にしたアリスは、何度も光輝に話しかけるも光輝の意識は違う方へ行っていて彼女の問に答えていなかった。


「__そうか……そういう事だったのか……」


光輝は、そう呟くとアリスの両手をガッシリ掴んだ。当然、アリスは戸惑うも光輝は、彼女に頭を下げた。


「ごめん、それから……ありがとう!」

「え!?」


状況が理解できないアリスだが、光輝は何かを掴んだように誇らしい顔をしてその場から去ると下駄箱で履き替えてそのまま孝之助の家へと向かった。


「遅かったの、光輝……てっきり修行を辞めたのかと思ったわい。」


 再び道場へ対峙した光輝は、余裕そうに竹刀を二本持っている孝之助に対して光輝は、一本の竹刀を左手に持っていた。


「修行を辞める気は無いし、これで次のステップに進む!」


そう言うと光輝は、腰を低くして刃の部分外へと向けると右手で柄を握りそれを相手から見えないように右肩を左へ入れた。


「ほぉ~、抜刀術……」


そう言うと孝之助は、片方の木刀を床に置くと光輝と似たような構えを取る。すると、場内は一旦外の音が聞こえるまで静まり返った……


__ポチャン……


遠く離れた所から水が落ちる音が聞こえた瞬間、光輝は迷わずに前へ走り始めた。


「甘いッ!!」


そう叫びながら孝之助は、木刀を抜き始めた。それを見た光輝は、後方へ思いっきりジャンプする。


「何!?」


光輝は、フェイントをかけて孝之助を惑わしたのだ。そして、後方に着地すると同時に木刀に己の気を溜め込みながら再び前へ急接近した。


「……これで、終わりだ!!」


既に抜き終えた孝之助は、再び木刀を正面で構えると防戦体勢に入る。光輝は、そのまま孝之助との間合いを詰めると迷わずに木刀を抜き始めた。


「__決める!!」


そう言うと光輝の木刀は、孝之助の左脇腹に当たるとそのまま勢いを保ちながら回転して背中、右脇腹と連続で叩き込んだ。


「抜刀術からのトライアングル!?」


そう、光輝は既に影野流上段の技である連携リエゾンを使っていたのである。スピード型の影野流においてこの技は、最大の技でもあるが立て続けに使うため体力の消費が激しい一か八かの技なのだ。
再び孝之助の前に立った光輝は、再び木刀へ気を集中させると慌てた孝之助が水平に木刀を振るがそれをジャンプして躱す。


「喰らえ!」


そう叫びながら光輝は、思いっきり振り上げた木刀を振り下ろして孝之助の顔面ギリギリで再び木刀を止めた。彼の剣圧を直に受けた孝之助は、握っていた木刀を床に落としてしまった。


「ワシの負けじゃ。良くぞ、この修行の意味を理解したの。」


既に気を使い過ぎてボロボロだった光輝は、そんな孝之助の褒め言葉もあまり良く聞こえずにそのまま床に倒れた。


「抜刀術で気を上手く集中させてからのトライアングルそして、一刀両断……まさに凄まじい連携リエゾンだった。あとは、その連携リエゾンを使いこなせるほどの体力だな……」


そう今後の特訓のメニューを考えながら孝之助は、光輝を持ち上げてそのまま道場を後にした。







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