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フィロソファーズ・ストーン
回想⑫ 起動
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疑念を抱き始めたのは湊さんが亡くなった三年前の事件の後からだった。
これは、本当に偶然か?
昨日、湊さんの兄が交通事故で亡くなり、その姪っ子も意識不明の重体になった。そして、今日、武田の親父さんも何かの事故で亡くなったと報告を受けた。
私は二人のスマホの位置情報の履歴を確認する。昨日、高瀬くんと武田はほぼ同じ時刻に同じ場所にいた事は間違いない。
武田は何故、嘘をついた?
入院している親父さんに会いに行くと嘘をついてまで、高瀬くんに会いに行く必要があったのは何故か?
そもそも、高瀬くんは武田が近くにいた事を知らないのではないか?
「そうか、まさか……」
居ても立ってもいられず、スマホを手に取り、武田の親父さんが入院していた病院に電話する。
「はい、新潟東総合記念病院、受付です」
「中島コーポレーションの末木と申します。お尋ねしたいことがありまして、お電話しました、実は──」
…………
「──はい、ありがとうございました。失礼します」
武田の親父さんは確かに入院はしていたが、亡くなる数ヶ月前に退院していたことが分かった。
彼の親父さんは病院ではなく、別の場所で亡くなっていたと言うことだ。
神奈川県湘南エリアでの交通事故の割合が頭をよぎる。湊さんもその兄も交通事故、そして、武田の親父さんも交通事故だったと仮定すると……
武田の周りの人間が死にすぎている。
私は机の引き出しを慌てて、開けた。
「ない……」
無人カー改造用の機械が無くなっている。
すぐにパソコンのゴミ箱フォルダを漁った。ゴミ箱の中身はあれから消していない。なら、あれがある筈だ。
「あった……」
無人カーアプリのプロパティを開き、ファイルが削除された日時を確認する。
削除されたのは湊さんが亡くなった日の午前5時15分になっていた。
私は湊さんが亡くなる前日には退社している。武田がアプリを削除したのも前日の深夜だった筈だ。
ゴミ箱から無人カーアプリを戻して、再び削除されている……?
あの日の武田の瞳に宿った不思議な輝きを思い出した。
武田は──私の開発したアプリを利用して、何かの実験を繰り返しているのではないか?
湊さんがはじめの犠牲者で、湘南で起きている不可解な事故の殆どが彼が起こした物なのではないか?
いや、飛躍しすぎだ。まだ、断定はできない。
仮説を実証するためにも、証拠を集めなければならない。
高瀬くんの顔が頭をかすめる。彼女に全てを打ち明け、協力を仰げば……
かぶりを振る。
駄目だ。これは私が巻いた種で、私一人で解決するべき問題だ。
私の開発したアプリで武田が殺人を繰り返しているなら、償わせなければいけない。仮説が実証されれば、彼も私も立派な殺人鬼だ。
気がつくと、乾いた声で笑っていた。
マウスを操作して、フォルダの中にあるアプリをダブルクリックする。
ARIAの技術の一部を流用して開発した、ボットを起動する。
まさか、悪ふざけで作ったボットが日の目を見ることになるとはな。
『はじめまして、主。どういったご要件で我を起動されたのか?』
「この武田という人物のアカウントに紐づく、全ての情報を監視し、怪しい行動が見られたら逐一報告してほしい。後、追跡している痕跡も消すのを忘れずにな」
『承知した』
「お前に名前を与える」
『主、我には既にシリアルナンバーは割り振られているようだが』
私は湊さんの言っていた言葉の意味をやっと理解した。
「……私がつけたいんだ。お前の名はイレイサーだ。都合の悪い真実をあらわにし、悲しい現実は消去してくれ」
『御意。只今よりタスクを実行開始する』
これは、本当に偶然か?
昨日、湊さんの兄が交通事故で亡くなり、その姪っ子も意識不明の重体になった。そして、今日、武田の親父さんも何かの事故で亡くなったと報告を受けた。
私は二人のスマホの位置情報の履歴を確認する。昨日、高瀬くんと武田はほぼ同じ時刻に同じ場所にいた事は間違いない。
武田は何故、嘘をついた?
入院している親父さんに会いに行くと嘘をついてまで、高瀬くんに会いに行く必要があったのは何故か?
そもそも、高瀬くんは武田が近くにいた事を知らないのではないか?
「そうか、まさか……」
居ても立ってもいられず、スマホを手に取り、武田の親父さんが入院していた病院に電話する。
「はい、新潟東総合記念病院、受付です」
「中島コーポレーションの末木と申します。お尋ねしたいことがありまして、お電話しました、実は──」
…………
「──はい、ありがとうございました。失礼します」
武田の親父さんは確かに入院はしていたが、亡くなる数ヶ月前に退院していたことが分かった。
彼の親父さんは病院ではなく、別の場所で亡くなっていたと言うことだ。
神奈川県湘南エリアでの交通事故の割合が頭をよぎる。湊さんもその兄も交通事故、そして、武田の親父さんも交通事故だったと仮定すると……
武田の周りの人間が死にすぎている。
私は机の引き出しを慌てて、開けた。
「ない……」
無人カー改造用の機械が無くなっている。
すぐにパソコンのゴミ箱フォルダを漁った。ゴミ箱の中身はあれから消していない。なら、あれがある筈だ。
「あった……」
無人カーアプリのプロパティを開き、ファイルが削除された日時を確認する。
削除されたのは湊さんが亡くなった日の午前5時15分になっていた。
私は湊さんが亡くなる前日には退社している。武田がアプリを削除したのも前日の深夜だった筈だ。
ゴミ箱から無人カーアプリを戻して、再び削除されている……?
あの日の武田の瞳に宿った不思議な輝きを思い出した。
武田は──私の開発したアプリを利用して、何かの実験を繰り返しているのではないか?
湊さんがはじめの犠牲者で、湘南で起きている不可解な事故の殆どが彼が起こした物なのではないか?
いや、飛躍しすぎだ。まだ、断定はできない。
仮説を実証するためにも、証拠を集めなければならない。
高瀬くんの顔が頭をかすめる。彼女に全てを打ち明け、協力を仰げば……
かぶりを振る。
駄目だ。これは私が巻いた種で、私一人で解決するべき問題だ。
私の開発したアプリで武田が殺人を繰り返しているなら、償わせなければいけない。仮説が実証されれば、彼も私も立派な殺人鬼だ。
気がつくと、乾いた声で笑っていた。
マウスを操作して、フォルダの中にあるアプリをダブルクリックする。
ARIAの技術の一部を流用して開発した、ボットを起動する。
まさか、悪ふざけで作ったボットが日の目を見ることになるとはな。
『はじめまして、主。どういったご要件で我を起動されたのか?』
「この武田という人物のアカウントに紐づく、全ての情報を監視し、怪しい行動が見られたら逐一報告してほしい。後、追跡している痕跡も消すのを忘れずにな」
『承知した』
「お前に名前を与える」
『主、我には既にシリアルナンバーは割り振られているようだが』
私は湊さんの言っていた言葉の意味をやっと理解した。
「……私がつけたいんだ。お前の名はイレイサーだ。都合の悪い真実をあらわにし、悲しい現実は消去してくれ」
『御意。只今よりタスクを実行開始する』
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