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フィロソファーズ・ストーン

不意打ち

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爆発の余波が落ち着き始める前に、末木さんが動いた。末木さんの凶弾が頭をかすめる。

今までの末木さんを観察する限り、一発目はヘッドショットを狙う癖がある。右へ半歩移動し、紙一重の差で回避できた。

二発目も躱された場合を想定してか、こちらの心臓あたりをピンポイントに狙ってくる。

その後も息をつく間もないくらい、弾丸を浴びせてきた。僕は回避だけで精一杯だ。

でも、背後ががら空きだ。

「航! 」

『はい、はい、わかってるよ』

末木の背後から航が現れ、ショットガンをぶっ放す。

末木さんに全弾直撃する。末木さんのシールドが青白く明滅し、バチバチと音を立てる。

シールドはパリンと割れたような音と共に消え去った。

『ウィルス入りの散弾だ。さっきの借りは返したぜ』

『先ほど倒した航はダミーか……桔梗くんにしてやられたな』

『今度こそ、ゲームオーバーだ、おっさん』

『そっくりお返しするよ』

末木さんは航の方を振り返ることなく、ハンドガンを後ろ手に構えて連射する。

航は前回りに受け身を取りつつ、その勢いのまま、立ち上がり、走りながら左右へフェイントをいれる。

だが、末木の狙いは正確で、航の動作に追従するように弾が全弾命中し、秒速で航のシールドを破壊する。

『……嘘だろ』

後ろに目でも付いているのだろうか。こちらへの攻撃の手も緩めず、警戒も怠らない。

「航、少し距離を置け」

『分かってる。もうハンドガンの射程外だ。こいつ、本当に人間か? 』

末木さんは嬉しそうに笑う。

『くくく……山内くん、卑怯だが、実に面白い』

「それは、どうも」

末木さんは僕と航に挟まれる格好になった。航は少し距離を詰め、ショットガンを発砲する。

末木さんは散弾をぬうっとすり抜け、僕のハンドガンの弾も綺麗に躱す。

だか、それでいい。僕らの役目はこの場に末木さんを縫い留めることだ。

今だ!

「美奈!」

密林の外側から末木さんの頭部に向かって一直線に弾丸が放たれた。

完全に相手の虚をついた攻撃だ。

末木さんが真横に吹っ飛び、何か黒いものが飛散したのが見えた。



これで……



「山内、まだだっ」



中原美奈の声で咄嗟に回避行動をとったのが幸いした。末木さんは倒れ込みながら、僕に向けて弾丸を放っていた。

左腕に被弾したが、致命傷は避けられた。

末木さんに向けてハンドガンでけん制をする。末木さんも受け身を取りながら、僕と航に反撃と抜け目がない。

攻めきれず、一旦距離を取る。

『流石にやられたかと思ったよ。ヒリヒリするこの感じ、たまらないねぇ』

末木さんの左手にあったハンドガンがなくなっている。ハンドガンを盾にして、被弾を回避したのか。

「美奈、二射目!」

「うるさいな、わかってる。狙いが定まらないんだよ」

中原美奈の舌打ちが聞こえた。

『山内、近接戦に切り替えるぞ』

「馬鹿、航、よせ」

航は、武器をナイフに切り替え、末木さんの間合いに飛び込む。

無謀とも思えた航の特攻は意外にも悪くはなかった。ナイフさばきは見事で相手の急所を狙いつつ、相手に銃を使わせない絶妙な間合いを維持している。

だか、これでは僕も美奈も手が出せない。

末木さんはそれを分かってて、敢えて航の相手をしているようだ。

『はあ、はあ、おっさん、そろそろ苦しいだろ。今なら見逃してやるけど』

『まだまだいけるよ。でも、飽きてきたな』

航は肩で息をし始め、キレがなくなってきていた。それに対して末木さんはまだ余裕がある。

僕も右手の武器をナイフに変更し、挟撃をする。左手にも武器を持ちたいところだが、被弾した左腕ではそれもできない。

「おい、山内、お前まで突っ込んで大丈夫なのか? 」

「大丈夫じゃないけど、このままだと航がやられる。美奈は次の狙撃ポイントに向かってくれ」

「分かった。やられんなよ、雫ちゃんが悲しむからな」

末木さんは挟撃されているにも関わらず、まだ、涼しい顔をしている。

むしろ、この状況を楽しんでいる。

『山内くん。攻め方が単調になってきているよ。ネタ切れかな? 』

「さて、どうですかね……」

『私は飽きっぽくてね。刺激がないなら、これで終わりにしようか』

『はぁ、はぁ、いいね。俺もおっさんの顔見るの……うんざりしてたんだ。決着つけようぜ』

末木さんは口の端をニイっとあげる。僕と航を相手しながら、片手で指折り何かを数えている。


『全員ほふるのに30秒といったところか』


唐突に背中に冷たい汗が伝い、肌があわだつ。獰猛な獣のような視線に身体が凍てつく。

異様な雰囲気に、航も僕も気圧されて、無意識に後ろに下がってしまった。


その一瞬を末木さんは見逃さなかった。
 

航との距離を一瞬で詰めて、僕に背を見せる。背後に向かって銃を放つと、その反動を利用して、肘鉄を航の顔面にめり込ませる。

そして、末木さんの放った弾丸は僕の右腕に命中し、武器を手放してしまった。

くっ、まだか、中原美奈?

僕は中原美奈の次の狙撃ポイントをチラリと確認する。それが仇となった。


『……そこか! 』


末木さんはいつの間にか片手にスナイパーライフルを持ち、中原美奈の狙撃ポイントに銃口を向けるとすぐにトリガーを引いた。




「ぐぁ……」

「美奈、どうした?」

「頭をぶち抜かれた。山内、すまん……強制ログアウトさせられた」

中原美奈の戦線離脱せんせんりだつに頭が真っ白になる。

次はどうする? 

次のカードは?

僕が逡巡しゅんじゅうめぐらせた刹那せつな、仰向けに倒れていた航の左腕、左足、右足、右腕を素早く撃ち抜いていく。

『………っ!!』

航は声にならない悲鳴をあげ、身を縮こませる。航は生身だ。すぐに応急処置をしないと、死んでしまう。

「航、ログアウト……」

『──隙だらけだだよ。密室の殺人鬼』

しまっ……


末木の強烈なアッパーカットを食らい、大の字に倒れ、身体が動かない。

末木さんが冷たい眼差しで僕を見下ろす。スナイパーライフルを僕の眉間に押し当てる。


『ん~……どうも、真剣味に欠けるなぁ、君は。君にとってはゲームの延長なんだろうけど、僕にとってはここはリアルなんだよ。真面目にやってもらわないと困るな』

「…………」

末木さんは腕を組んで暫く考えた後、ポンと手を叩いた。

『そうか、そうか、目に見えたほうがいいか』

「?」


そう言うと、彼はパチンと指を鳴らした。

指の音を合図に末木さん隣が光り輝き、人がすうっと現れた。

そこには額と両腕から血を流し、木にもたれかかるように座る咲夜が目に映った。


『これで少しは真面目に戦ってくれるかい、山内くん──』


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