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フィロソファーズ・ストーン
21グラムの魂
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閃光と爆音が轟いた。
GoBとは違って、爆発は妙にリアルだった。耳鳴りがし、軽いめまいが僕を襲う。
末木さんは手榴弾を使ったのだろう。
僕の身体はアバターだ。しかも、対武田戦用に身体能力や防御力をデータ上で極限まで上げてある。爆発を一度や二度くらったところで、アバターには大した影響はない。
だが、末木さんは違う。生身に近い情報を持ったアバターである以上、何かしらのダメージを受けている可能性は高い。
早く見つけ出さないと……
ようやく、視界が晴れてきた。周囲を確認すると、砂浜には大きくえぐれた穴と、散乱した木片が目に入る。空には武田が開けた無数の黒い穴が残っていた。
末木さんも、イレイサーも見当たらない。
「末木さん! 返事をしてください! 末木さーん!」
僕の声が仮想空間に虚しく響く。桔梗さんに探してもらったほうが早そうだ。
「桔梗さん、末木さんとイレイサーを探してもらえますか?」
「イレイサーは……反応がありません。おそらく……」
「そうですか……」
僕は俯いた。イレイサーは自分をARIAではなく、ただのAIだと言っていた。でも、僕には彼が自分の意思で動いている、まるで人間と同じような存在に思えた。
だからこそ、あんな結末を受け入れられないのかもしれない。
「末木さんは?」
「それが……無数に反応があります。末木さんの場所が特定できません。これは……」
「──桔梗さん、二枚目の切り札を切ってください。多分、勘付かれてます」
僅かな物音が砂浜近くの密林の方向から聞こえた。振り返ると同時に、木の葉が微かに揺れたのを見逃さなかった。すかさず、体勢を低くする。
弾丸が頭上をかすめた。
身を低くしたまま、密林へ向かって駆け込む。末木さんはそれを見越して、フルオートで乱射してくる。シールドに数発の弾丸が当たり、ガラスが割れたような音を立てて霧散した。
僕は密林に滑り込むように入り、すぐに身を潜めて息を殺す。
プライベートチャットから末木さんの声が響く。
『密室じゃなくても強いじゃないか。屋外では最弱だと聞いていたんだがな』
木を盾にしながら反撃をするが、顔を出すと間髪入れずに顔面すれすれを弾丸がかすめていく。
狙いが正確で反応も早い、迂闊に顔を出すことすらできない。
「……何のつもりですか? もう、武田との決着はついています。それとも、今から僕と勝負をするつもりですか?」
『ククク……』
「何がそんなにおかしいんです?」
『いや、……白々しいなと思ってね。くだらない腹の探り合いはやめにしないか?』
「……なんの話ですか」
いや、わかっている。でも、お願いだ、間違いであってくれ。
『──私が湊さんとその兄を殺した真犯人だ。とっくにご存知なんだろ?』
雫を植物人間にしたのも、武田やイレイサーを殺したのも末木さんだ。
4人も殺して平然としているなんて、正気の沙汰じゃない。
「なんで、こんなことを……」
『単なる知的探究心さ。なあ、山内くん、「人は死ぬと21グラム軽くなる。それが魂の重さである」と主張したアメリカの医師を知っているか?』
僕は黙って、末木さんを見つめる。
『滑稽だと思わないか? 魂の存在を証明できていないのに、無茶苦茶な理論だ。だが、本当に人が死ぬと体重が軽くなるなら、人間が死ぬまでバイタルデータを取り続ければ、生と死の違いをデータ化できるかもしれない』
唾を飲み込む。
「……まさか、そんな、あるかどうかもわからないデータを集めるためだけに、人を殺したのか?」
『そうだよ。でも、駄目だった。湊さんからは期待するようなデータはとれなかった。だから、こちらが期待するデータが取れるまで何人か殺す必要があった』
「あんた、何、言ってるんだ」
『僕はね、人間に肉体は必要ないと思っているんだ。本当に必要なのは21グラムの魂だよ』
「あんたは狂ってる。だから、ここで終わりにさせてもらう」
末木さんはヘラヘラしながら、銃口をこちらに向ける。
「僕を撃ってもアバターが消滅するだけだ。意味がない。もう、あんたに逃げ場なんてない……」
『逃げ場がないのは君のほうだよ。この世界の制御権は私が握っている。そうそう、ARIAも、ね』
「?」
意味がわからない。ヘッドマウントディスプレイを外せば、僕らの勝ちだ。なのに、何故あんなに余裕なんだ。
末木さんは腕を真っ直ぐ、真上に伸ばし、人差し指を天空に向けた。そこには映像が映し出されていた。
「……咲夜? 」
『君のアバターとAK006の感覚をリンクしておいた。君はゲーム感覚だと思うが、君のアバターには五感すべてが設定してある』
全部……だと?
体中の毛が逆立ち、怒りでどうにかなりそうだ。
『気がついたかね。君のアバターが死ねば、彼女も死ぬ。ログアウトしても死ぬ。電源を落としても死ぬ。ネットワークを切っても……死ぬ。君の退路は塞がせてもらった』
「末木っ、お前……!」
『さあ、山内くん、心置きなく、殺し合おう
GoBとは違って、爆発は妙にリアルだった。耳鳴りがし、軽いめまいが僕を襲う。
末木さんは手榴弾を使ったのだろう。
僕の身体はアバターだ。しかも、対武田戦用に身体能力や防御力をデータ上で極限まで上げてある。爆発を一度や二度くらったところで、アバターには大した影響はない。
だが、末木さんは違う。生身に近い情報を持ったアバターである以上、何かしらのダメージを受けている可能性は高い。
早く見つけ出さないと……
ようやく、視界が晴れてきた。周囲を確認すると、砂浜には大きくえぐれた穴と、散乱した木片が目に入る。空には武田が開けた無数の黒い穴が残っていた。
末木さんも、イレイサーも見当たらない。
「末木さん! 返事をしてください! 末木さーん!」
僕の声が仮想空間に虚しく響く。桔梗さんに探してもらったほうが早そうだ。
「桔梗さん、末木さんとイレイサーを探してもらえますか?」
「イレイサーは……反応がありません。おそらく……」
「そうですか……」
僕は俯いた。イレイサーは自分をARIAではなく、ただのAIだと言っていた。でも、僕には彼が自分の意思で動いている、まるで人間と同じような存在に思えた。
だからこそ、あんな結末を受け入れられないのかもしれない。
「末木さんは?」
「それが……無数に反応があります。末木さんの場所が特定できません。これは……」
「──桔梗さん、二枚目の切り札を切ってください。多分、勘付かれてます」
僅かな物音が砂浜近くの密林の方向から聞こえた。振り返ると同時に、木の葉が微かに揺れたのを見逃さなかった。すかさず、体勢を低くする。
弾丸が頭上をかすめた。
身を低くしたまま、密林へ向かって駆け込む。末木さんはそれを見越して、フルオートで乱射してくる。シールドに数発の弾丸が当たり、ガラスが割れたような音を立てて霧散した。
僕は密林に滑り込むように入り、すぐに身を潜めて息を殺す。
プライベートチャットから末木さんの声が響く。
『密室じゃなくても強いじゃないか。屋外では最弱だと聞いていたんだがな』
木を盾にしながら反撃をするが、顔を出すと間髪入れずに顔面すれすれを弾丸がかすめていく。
狙いが正確で反応も早い、迂闊に顔を出すことすらできない。
「……何のつもりですか? もう、武田との決着はついています。それとも、今から僕と勝負をするつもりですか?」
『ククク……』
「何がそんなにおかしいんです?」
『いや、……白々しいなと思ってね。くだらない腹の探り合いはやめにしないか?』
「……なんの話ですか」
いや、わかっている。でも、お願いだ、間違いであってくれ。
『──私が湊さんとその兄を殺した真犯人だ。とっくにご存知なんだろ?』
雫を植物人間にしたのも、武田やイレイサーを殺したのも末木さんだ。
4人も殺して平然としているなんて、正気の沙汰じゃない。
「なんで、こんなことを……」
『単なる知的探究心さ。なあ、山内くん、「人は死ぬと21グラム軽くなる。それが魂の重さである」と主張したアメリカの医師を知っているか?』
僕は黙って、末木さんを見つめる。
『滑稽だと思わないか? 魂の存在を証明できていないのに、無茶苦茶な理論だ。だが、本当に人が死ぬと体重が軽くなるなら、人間が死ぬまでバイタルデータを取り続ければ、生と死の違いをデータ化できるかもしれない』
唾を飲み込む。
「……まさか、そんな、あるかどうかもわからないデータを集めるためだけに、人を殺したのか?」
『そうだよ。でも、駄目だった。湊さんからは期待するようなデータはとれなかった。だから、こちらが期待するデータが取れるまで何人か殺す必要があった』
「あんた、何、言ってるんだ」
『僕はね、人間に肉体は必要ないと思っているんだ。本当に必要なのは21グラムの魂だよ』
「あんたは狂ってる。だから、ここで終わりにさせてもらう」
末木さんはヘラヘラしながら、銃口をこちらに向ける。
「僕を撃ってもアバターが消滅するだけだ。意味がない。もう、あんたに逃げ場なんてない……」
『逃げ場がないのは君のほうだよ。この世界の制御権は私が握っている。そうそう、ARIAも、ね』
「?」
意味がわからない。ヘッドマウントディスプレイを外せば、僕らの勝ちだ。なのに、何故あんなに余裕なんだ。
末木さんは腕を真っ直ぐ、真上に伸ばし、人差し指を天空に向けた。そこには映像が映し出されていた。
「……咲夜? 」
『君のアバターとAK006の感覚をリンクしておいた。君はゲーム感覚だと思うが、君のアバターには五感すべてが設定してある』
全部……だと?
体中の毛が逆立ち、怒りでどうにかなりそうだ。
『気がついたかね。君のアバターが死ねば、彼女も死ぬ。ログアウトしても死ぬ。電源を落としても死ぬ。ネットワークを切っても……死ぬ。君の退路は塞がせてもらった』
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