53 / 94
ゴースト
嘲笑する道化師
しおりを挟む
「──本日早朝、河原で男性の遺体が発見されました」
マスコミはこういうのが好きだよな。
「警察によると、遺体は西条大学の二年生木下貴一で、9月頃に同大学の女子大学生複数人のフェイクポルノを作成し、無断でSNSに公開したとのことで、逃亡して以来、行方がわからなくなっていました」
日本は平和だ。
芸能人のゴシップ、ドラレコの危険運転、人気の野球選手ネタに長々と枠を取る……。
マスコミは香ばしくて脂っこい、一度食べたら止められない餌を視聴者の前にぶら下げる。
これが本当に視聴者に伝えるべきニュースだと思っているのだろうか。
ネットやSNSの方が情報が早いし、自分で見たいニュースを選べる。正確性に難があるのが玉に瑕だが。
「暇つぶしにもならないね」
そう言いながら、今日のニュースで僕に一番刺さったのは間違いなく木下貴一の殺害事件だ。
こんなもの、誤魔化せるわけが無い。クライアント様はこのゲームを投了する気はないのだろうか。
テレビを消してリモコンを放り投げ、大の字に手足を投げ出す。
噂をすれば、クライアント様から着信だ。
「もしも~し、美奈でーす。お待ちしておりました、ご主人様」
『依頼がある』
乗りの悪い男だ。
「悪いけど、お断り。半端な仕事させられた上に、雫ちゃんの心象最悪じゃん。それにホテル暮らしは飽きちゃったよ」
『山内亮を始末してほしい』
「おーい、人の話、聞いてる? 僕、殺しは専門じゃないんですけど」
『今回の対価は既に用意してある』
対価を渡せば何でも言うことを聞くと思っているところがムカつく。
「……興味ないね。どうせくだらないものだろう」
『部屋を出て607号室を覗いてみろ。きっと気に入る筈だ』
「部屋の鍵は?」
『解除してある』
ブツッと電話が切れた。
クライアント様は電話が好きだな。世の中には電話より便利なツールが沢山あるのに。
しかし、私の部屋のロックを解除してくれたのは僥倖だ。せいぜい後悔するといい。
私はベッドを降りて、テーブルに置いてあるパソコンのエンターキーをタンッと叩いた。
スマホをお尻のポケットに入れて部屋を出る。
廊下には穏やかな色合いの赤い絨毯が敷かれており、幾何学的な模様が描かれていた。
ここはホテルの一室なのか?
目が覚めたら、あの部屋に軟禁されていたので初めて見る光景に首を傾げる。
ドアには金色のプレートに黒字で608号室と掲示されていた。ドアの取っ手にはICカードを読み取るためのNFCリーダーが設置されている。
ドアの取っ手を引いて、開けられるか確認する。オートロックになっているようで開けられない。
念のため、廊下の写真をスマホで撮影しておく。
607号室のドアに手をかける。僕の心を奮わすような面白いものならいいけど。
今までクライアントが期待以上のものを差し出してきた事はない。
ドアを開けて中に入ると一定の間隔で機械音が聞こえてきた。
何かの装置が部屋の中心部にあるようだ。歩みを進めると全容が見えてきた。
「なんだ、これ……こんな事が……」
タイミングを見計らったかのようにスマホが振動する。すぐに電話に出る。
『気に入ってもらえたと思うが?』
「この……外道が」
『もう一度言う。日が変わる前に山内亮を始末しろ』
時計は午前6時を指していた。あと18時間で山内亮を見つけて、始末もしないといけない。
しかも、足がつかないようにだ。間に合うわけがない。クライアントはそれを見透かしたかのように次の提案をしてきた。
『今回は特別にアシスタントもつけてやる』
「アシスタント?」
『そうだ。ARIAシリーズナンバーARIA-AK005……』
『西園寺航だ』
マスコミはこういうのが好きだよな。
「警察によると、遺体は西条大学の二年生木下貴一で、9月頃に同大学の女子大学生複数人のフェイクポルノを作成し、無断でSNSに公開したとのことで、逃亡して以来、行方がわからなくなっていました」
日本は平和だ。
芸能人のゴシップ、ドラレコの危険運転、人気の野球選手ネタに長々と枠を取る……。
マスコミは香ばしくて脂っこい、一度食べたら止められない餌を視聴者の前にぶら下げる。
これが本当に視聴者に伝えるべきニュースだと思っているのだろうか。
ネットやSNSの方が情報が早いし、自分で見たいニュースを選べる。正確性に難があるのが玉に瑕だが。
「暇つぶしにもならないね」
そう言いながら、今日のニュースで僕に一番刺さったのは間違いなく木下貴一の殺害事件だ。
こんなもの、誤魔化せるわけが無い。クライアント様はこのゲームを投了する気はないのだろうか。
テレビを消してリモコンを放り投げ、大の字に手足を投げ出す。
噂をすれば、クライアント様から着信だ。
「もしも~し、美奈でーす。お待ちしておりました、ご主人様」
『依頼がある』
乗りの悪い男だ。
「悪いけど、お断り。半端な仕事させられた上に、雫ちゃんの心象最悪じゃん。それにホテル暮らしは飽きちゃったよ」
『山内亮を始末してほしい』
「おーい、人の話、聞いてる? 僕、殺しは専門じゃないんですけど」
『今回の対価は既に用意してある』
対価を渡せば何でも言うことを聞くと思っているところがムカつく。
「……興味ないね。どうせくだらないものだろう」
『部屋を出て607号室を覗いてみろ。きっと気に入る筈だ』
「部屋の鍵は?」
『解除してある』
ブツッと電話が切れた。
クライアント様は電話が好きだな。世の中には電話より便利なツールが沢山あるのに。
しかし、私の部屋のロックを解除してくれたのは僥倖だ。せいぜい後悔するといい。
私はベッドを降りて、テーブルに置いてあるパソコンのエンターキーをタンッと叩いた。
スマホをお尻のポケットに入れて部屋を出る。
廊下には穏やかな色合いの赤い絨毯が敷かれており、幾何学的な模様が描かれていた。
ここはホテルの一室なのか?
目が覚めたら、あの部屋に軟禁されていたので初めて見る光景に首を傾げる。
ドアには金色のプレートに黒字で608号室と掲示されていた。ドアの取っ手にはICカードを読み取るためのNFCリーダーが設置されている。
ドアの取っ手を引いて、開けられるか確認する。オートロックになっているようで開けられない。
念のため、廊下の写真をスマホで撮影しておく。
607号室のドアに手をかける。僕の心を奮わすような面白いものならいいけど。
今までクライアントが期待以上のものを差し出してきた事はない。
ドアを開けて中に入ると一定の間隔で機械音が聞こえてきた。
何かの装置が部屋の中心部にあるようだ。歩みを進めると全容が見えてきた。
「なんだ、これ……こんな事が……」
タイミングを見計らったかのようにスマホが振動する。すぐに電話に出る。
『気に入ってもらえたと思うが?』
「この……外道が」
『もう一度言う。日が変わる前に山内亮を始末しろ』
時計は午前6時を指していた。あと18時間で山内亮を見つけて、始末もしないといけない。
しかも、足がつかないようにだ。間に合うわけがない。クライアントはそれを見透かしたかのように次の提案をしてきた。
『今回は特別にアシスタントもつけてやる』
「アシスタント?」
『そうだ。ARIAシリーズナンバーARIA-AK005……』
『西園寺航だ』
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
月影館の呪い
葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽(しんどう はね)は、名門の一軒家に住み、学業成績は常にトップ。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読みふける彼の日常は、ある日、幼馴染の望月彩由美(もちづき あゆみ)からの一通の招待状によって一変する。彩由美の親戚が管理する「月影館」で、家族にまつわる不気味な事件が起きたというのだ。
彼女の無邪気な笑顔に背中を押され、葉羽は月影館へと足を運ぶ。しかし、館に到着すると、彼を待ち受けていたのは、過去の悲劇と不気味な現象、そして不可解な暗号の数々だった。兄弟が失踪した事件、村に伝わる「月影の呪い」、さらには日記に隠された暗号が、葉羽と彩由美を恐怖の渦へと引きずり込む。
果たして、葉羽はこの謎を解き明かし、彩由美を守ることができるのか? 二人の絆と、月影館の真実が交錯する中、彼らは恐ろしい結末に直面する。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ミステリH
hamiru
ミステリー
ハミルは一通のLOVE LETTERを拾った
アパートのドア前のジベタ
"好きです"
礼を言わねば
恋の犯人探しが始まる
*重複投稿
小説家になろう・カクヨム・NOVEL DAYS
Instagram・TikTok・Youtube
・ブログ
Ameba・note・はてな・goo・Jetapck・livedoor
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
おさかなの髪飾り
北川 悠
ミステリー
ある夫婦が殺された。妻は刺殺、夫の死因は不明
物語は10年前、ある殺人事件の目撃から始まる
なぜその夫婦は殺されなければならなかったのか?
夫婦には合計4億の生命保険が掛けられていた
保険金殺人なのか? それとも怨恨か?
果たしてその真実とは……
県警本部の巡査部長と新人キャリアが事件を解明していく物語です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる